【死ぬほど暑い夏に聴くレゲエソング5選】気分はジャマイカン!ボブ・マーリーは外せない
今年も長く厳しい夏がやって来た。もはや地球温暖化とか、異常気象といった言葉に非日常感は全くなくなってしまったが、従来の気象モデルが通用しなくなってきたのは間違いない。そんな中、新聞を読んでいた時に面白い記事を見つけた。
総合アパレルメーカーの三陽商会は、1年を “四季” ではなく、春・夏・夏・秋・冬の “五季” と考え、現実の気温と需要に対応しているという。実際、夏物衣料の商戦は、20年前と比べると1ヵ月も延びていて、今では約160日間もあるのだそうだ。このように1年の半分近くが夏なのだとしたら、僕たちのライフスタイルも “常夏” ならぬ “半夏” 仕様に改めるべきだろう。
“常夏” の島ジャマイカで誕生したレゲエ
そんなことを考えていた時、Re:minder編集部から原稿の執筆オファーを戴いた。【死ぬほど暑い夏に聴くレゲエソング】というテーマでのリクエストだ。確かに “夏といえばレゲエ” という図式は、今では日本の音楽ファンにとって常識のひとつといえるのかもしれない。
しかし、僕が本格的に音楽を聴き始めた1970年代後半、レゲエに夏のイメージはあまりなかった。というのも、僕が初めてレゲエという音楽を意識したのが、英国の白人バンド、ポリスだったからだ。それに、レゲエの定番曲の1つ「アイ・ショット・ザ・シェリフ」を初めて聴いたのも、ボブ・マーリーのオリジナル・バージョンではなく、英国出身の白人ギタリスト、エリック・クラプトンによるカバーだった。
言うまでもなく、レゲエはカリブ海に浮かぶ常夏の島、ジャマイカで誕生した音楽である。それが、どうして遠く離れた英国や日本にまで浸透しているのだろうか。そこには大きく2つの理由がある、と僕は考えている。
1つめの理由は、レゲエの多くが、ジャマイカのパトワ語(Jamaican Patois)で歌われていることである。パトワ語とは英語とアフリカの言語をベースにした言葉で、“英語のジャマイカ訛り” と言う人もいる。ジャマイカは1962年に独立するまで300年近く英国の植民地だったのだが、これこそが、主にスペイン語圏である他の中南米諸国との決定的な違いだろう。要は、英語圏の人々、英語の楽曲を聴く習慣のある人々に受け入れられやすかったという訳である。
2つめの理由は、膨大な数のジャマイカ移民の存在である。“ジャマイカ人のディアスポラ(Jamaican Diaspora)” と言われることもあるように、特に英国、米国、カナダには200万人近いジャマイカ移民が生活している。最近では、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、日本、マレーシア、インドネシアへの移民も増えているそうだが、そうしたジャマイカ移民を通じてレゲエは世界中に広まっていったと考えられる。
そして、この2つ以外に理由があるとしたら、やはり “レゲエ独特のリズム” に尽きるだろう。とにかく “ゆったりしてて心地よい” ことこの上ない。また、レゲエは非常にメッセージ性の強い音楽だが、歌詞の内容や歌の背景さえ気にしなければ、1つのリゾートミュージックとして消化できる。作り手にとっては本意ではないかもしれないが、これもレゲエの魅力の1つだと思うし、お陰で僕も今ではレゲエに夏を感じるようになった。
ということで、【死ぬほど暑い夏に聴くレゲエソング】を厳選5曲、皆さんに紹介していこう。今後ますます厳しさを増していくであろう猛暑に耐えられるように、皆さんなりの定番を見つけていただきたい。
馴染み深い “レゲエの神様” の名曲
ワン・ラヴ〜ピープル・ゲット・レディ / ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ(1977年)
何はともあれ “レゲエの神様(God Of Reggae)” を外すわけにはいかない。この曲は歴史的名盤『エクソダス』に収録され、アルバムリリースから7年後、ボブ・マーリーが亡くなってから3年後の1984年にシングルとして発売された。ジャマイカ政府観光局のTV広告に長年使われてきたことや、2024年公開の伝記的映画『ボブ・マーリー:ONE LOVE』のタイトルソングでもあることから、馴染みのある人が多いだろう。
実はこのバージョンは再録音されたもので、もともとはレゲエ誕生前の1965年にスカの楽曲として発表されている。テンポが速く、“夏っぽさ” はあまり感じられない。ただ、新旧バージョンを聴き比べることで、レゲエに対する理解が深まるかも。
底抜けに明るいリズムで “エロ健康的” な世界観が展開
スウェット(アララララロン)/ インナー・サークル(1992年)
インナー・サークルは、1968年にジャマイカの首都キングストンで結成された正統派レゲエバンドである。この曲は、1992年にリリースされて世界的ヒットを記録したアルバム『バッド・ボーイズ』(Bad To The Bone)のリードシングルで、“アララララロン” というフレーズは、レゲエファンでなくとも一度は耳にしたことがあるのではないか。
こんなに底抜けに明るいリズムに触れてしまったら、夏の海岸に大勢で集まって合唱したくもなるが、ミュージックビデオが嘘みたいにイメージ通りなのが笑える。ちなみに、この曲のタイトルの「スウェット」は「♪I want to make you sweat」(君に汗をかかせたいんだ)という歌詞から来ていて、曲全体を通して “エロ健康的” な世界観が展開されている。
ジャマイカを代表するレゲエシンガーのヒット作
ノー・レッティング・ゴー / ウェイン・ワンダー(2003年)
ジャマイカを代表する、美声で有名なレゲエシンガー。この曲は彼にとって最大のヒットアルバム『ノー・ホールディング・バック』の先行シングルとして2003年にリリースされたが、全英シングルチャートで3位、全米では11位を記録。これを機に一気にブレイクした。
公式YouTubeチャンネルでミュージックビデオが公開されていないので “夏感” は半減するものの、R&Bテイストのサウンドとディワリ・リディム(Diwali Riddim)に乗せたハンドクラップがとても心地よい。ちなみに “リディム” とはリズム(Rhythm)が変化したパトワ語で、ビートやトラックとほぼ同義である。ちなみに “ディワリ” とは、2002年にジャマイカ人プロデューサーのスティーヴン・マースデンが作り出したリディムの名称である。
クセになるゆったりしたリズムにラップ調の歌
ブンバスティック / シャギー(1995年)
キングストンで生まれてニューヨークで活動するレゲエシンガー兼DJ。2曲の全米No.1ヒットを持っている。この曲は、1996年のグラミー賞で最優秀レゲエ・アルバム(Best Reggae Album)に選ばれた『ブンバスティック』から2枚目のシングルとして1995年にリリースされた。
ゆったりしたリズムに “トースティング”(Toasting)と呼ばれるラップ調の歌を乗せているのが、何だかクセになる。この独特の歌い回しは、彼が米国海軍に入隊して湾岸戦争を経験する中で完成されたのだそうだが、本当だろうか。ところで、曲中に何度も登場する “Mr. Lover Lover” という歌詞が、僕には “ミスターロバロバ” にしか聴こえない。
全米1位を獲得したUB40の代表曲
レッド・レッド・ワイン / UB40(1983年)
UB40がリリースした4枚目のアルバム『レイバー・オブ・ラヴ』に収録。1983年に全英シングルチャートで1位、後に再リリースされて1988年に全米1位を獲得した。ただ、先に断っておくと、この曲はちっとも夏っぽくない。その理由は3つ。
①UB40が英国のバンドであること。
②この曲が米国を代表する白人シンガーソングライター、ニール・ダイアモンドのカバーであること。
③ 彼らの地元バーミンガムのパブで撮影されたミュージックビデオがモノクロ映像で、太陽もビーチもヤシの木も出てこないこと。
ーー にも関わらず、やっぱり曲を聴いたら夏の気分になるから不思議だ。もしかしたら僕たちの脳内に、“夏といえばレゲエ” という、ある種の条件反射的なアルゴリズムがインストールされてしまったのかもしれない。