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パティシエの技術でどんな野菜もデザートに エンメ 延命寺美也 25年6月号

料理王国

パティシエの技術でどんな野菜もデザートに エンメ 延命寺美也 25年6月号

季節の食材を使ったデザートコースやパフェ、ソムリエが厳選したワインなどが楽しめる店「エンメ」。シェフ・パティシエールの延命寺美也さんは、店での仕事のほかにもイベントや企業にレシピを提供するなど、幅広く活躍している。延命寺さんの作るデザートは、美しさはもちろん、その豊かな香りと味わい、そして新鮮な発想から生まれる素材の合わせ方に定評があり、ファンも多い。

「野菜はわりとよく使います」と、延命寺さん。野菜には、フルーツやチョコレートなどとは違う魅力があるのだという。「野菜を使う最大の意味は、土の香りや大地の香り。これは他の食材ではなかなか出せないものなのです」。植物は土から育ち、乳を出す牛もまた、牧場の土に生えた草を食べて育つ。つまり果物も乳製品も、たどっていくと土に繋がるのだ。「だから、あらゆる食材とどこかで結び付いて、デザートに使っても不思議としっくりとまとまります。それが面白い」。

野菜の香りが他の食材の隠れた魅力を引き出したり、また逆に野菜の方が新たな一面を見せたり、思いがけない名コンビが誕生することもあるのだそうだ。

今回はゴボウ、根セロリ、パプリカをフィーチャー。

パティシエのテクニックで野菜の香りと味を引き出す

今回の3品では、ゴボウと根セロリ、パプリカを主材料に使った。「ゴボウは、まさに土の香り。これをなんとかデザートにしたいと試行錯誤を繰り返した末、牛乳で煮出す方法にたどり着きました」。根菜を使う場合、じっくりと時間をかけて炒め、野菜自らの水分を利用しながら香りと甘味を引き出すことが多い。

「ポタージュのように、野菜を炒めてから牛乳などを加え、ピュレにする手法をアイスやペーストに応用することもありますが、ゴボウは炒めると香りが飛ぶ。それならば、と香りを液体に抽出したのです」。

柑橘とゴボウのチーズスフレなパフェ
柑橘のソースにブルーチーズのクランブルとマスカルポーネクリーム、ベルモットのジュレとゴボウのミルクソルベをのせる。アツアツのチーズスフレを重ね、晩白柚の実とゴボウチップスをあしらって、パルミジャーノ・レッジャーノをふりかける。仕上げにアマランサスと花穂紫蘇で彩りと香りを添えて。

ゴボウを牛乳で煮出して香りを移す。「いろいろやってみた結果、この方法が一番香りをしっかりと感じられました」。

根セロリとリンゴの組み合わせは、フランスの定番惣菜「レムラード」からヒントを得たものだ。「根セロリにリンゴを合わせるサラダが大好き。そしてリンゴといえばやっぱりタルト・タタン!」。サラダで味わった感動をスイーツで表現するために伝統的なフランス菓子のエッセンスを取り入れ、キャラメリゼしたリンゴと根セロリのアイスを合わせた。「オープン以来少しずつ進化させながら、毎年秋から冬に作るメニューです」。

タルトタタン、根セロリのアイス
リンゴの皮とカルヴァドスのジュレを底に敷き、松の実のローストとバニラのクリーム、スパイスを効かせた塩バターアイスを重ねる。その上にパイ生地、リンゴのスライスを置き、リンゴのタタン、根セロリのアイスをのせる。リンゴ、セロリの新芽、ビーツの飴を飾り、金粉を散らして完成。

根セロリは厚めに皮を剥いて切り、やわらかくなるまでバターでじっくりと炒めてからピュレにする。

チョコレートの一品は意外な発想から生まれた。「バヌアツ共和国のチョコレートを初めて食べた時に、その味の奥にパプリカの風味を感じたのです」。同じ香りを持つもの同士が合わないはずはない。そして「香りが赤いイメージだったので、赤パプリカやラズベリーを合わせ、バルサミコ酢で酸味を」。最後にビーツのチップスを添えたら、土の香りで全体が繋がった。「香り、色、味、全てが複雑に絡んで、一つの世界ができました」。

ビスキュイクーランパルファンショコラ
パプリカを焼いてピュレにし、バルサミコ酢、バヌアツ共和国のチョコレートを合わせて、フォンダンショコラのソースに。桜のような香りのトンカマメのアイスと晩白柚、土の香りのビーツのチップスを添え、ラズベリーとバルサミコの甘酸っぱいソースを合わせた。

パプリカはアルミ箔で包んでオーブンで30分ほど焼き、ヘタと種をとってミキサーにかける。

フォンダンショコラを割ると、パプリカとチョコレートのソースがとろりと溶け出す。

野菜という素材を使う楽しさ、面白さ、そして難しさ

野菜は面白い。デザートの新しい扉を開いてくれる食材だ。けれど「難しくもある」と、延命寺さん。料理とデザートの「線引き」をどうするか、そこが難点なのだ。「料理で使う場合とデザートでは欲しい香りが違う。そこには気を遣います」。たとえばタマネギ。「タマネギはデザートとの相性がよいので店のメニューに使うことも多いのですが、香りの出し方にコツがあり、ネギの香りをいかに甘くするかが課題」。デザートにするには、野菜の香りが変化するポイントを見極めることが大切なのだという。「食材の組み合わせでも調整します。セロリの香りは個性的で強烈だけれど爽やかでもある。その性質を伸ばすためにレモンを合わせるなど、相手を選ぶことで欲しい香りを際立たせることも」。どの香りを出すか、それを引き出すにはどんな調理法を選べばよいか。勘と経験と想像力が問われる。「フルーツやチョコレートを使う料理もあるので、自分の中に境界の認識と基準を持っていなければ、デザートなのか料理なのかわからなくなってしまいます」

料理とデザートの境界線をどこに置くのか。全てを言葉や数値で伝えることはできないが、だからこそ食材の特徴を繊細に感じとり、「エンメのデザート」への道筋を立てることが重要になる。「難しい。でも、チャレンジすることや考えることはとても楽しい」。

ところで、延命寺さんが絶対にデザートに使わない食材はあるのだろうか。「どんな食材でも、お題としていただいたらどうにかしてデザートに仕立てたいし、できる自信はあります」と、即答。「でも、今のところ、ニラとニンニクは使ったことがありませんね。果たしてできるのかな……。いや、できると思います。作ります!」

完成したらぜひ、ご相伴に預かりたいものだ。

延命寺 美也(えんめいじ みや)
製菓学校卒業後、フランスの「フレデリック・カッセル」で修業。帰国後はパティスリーで研鑽を積み、レストラン「ツキ・シュールラメール」「ラチュレ」でシェフ・パティシエを務めた後、2019年にソムリエの夫と共にアシェットデセールとワインの店「エンメ」をオープン。」

エンメ
東京都渋谷区渋谷 2-3-19 ローゼ青山1
TEL 03-6452-6167
12:00~15:30 LO 17:00~翌1:00
火休

text: Miki Numata, photo: sono

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