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日本画家・大矢紀さん 「心」を描き続ける 創作への思いなど語る

タウンニュース

9月1日から東京都美術館で開かれる日本美術院「再興第109回院展」に出品する作品の前に座る大矢さん=8月5日、麻生区の自宅アトリエ

川崎市市民文化大使で、紺綬褒章を7回受章するなど数多くの受賞歴を持つ麻生区上麻生在住の日本画家、大矢紀さん(88)。6月には、卓越した作品、芸術の進歩に貢献する顕著な業績があると認められ、日本芸術院から「日本芸術院賞」を授与された。大矢さんは受賞の所感や創作への飽くなき意欲、半世紀以上を過ごす川崎への思いなどを語った。

大矢さんは6月10日、天皇、皇后両陛下が出席されて都内で行われた授賞式で、作品『北(きた)の神(しん)山(ざん)』に対し第80回日本芸術院賞の表彰を受けた。7月には宮殿に招かれ、天皇陛下に「何枚ぐらい写生されるのですか」と尋ねられると、「納得のいくまで写生いたします。描いたものに心を込めて、仕上げていくのです」と答えたという。

新潟県三島郡与板町(現・長岡市)に生まれ小学4年まで過ごした。雪中、ござぼうしをかぶり、わらぐつを履いて登校した。『北の神山』は晩秋の紅葉で染まった惠庭岳(北海道)が一夜にして白雪に覆われた情景を描いた作品。「50年近く毎年、北海道を訪れているが、見たことのない神々しい景色だった。自分も雪国育ちなので、そうしたものに惹かれるのかもしれない」と話す。

高2のある日、偶然足を運んだ展覧会で前田青邨氏の『洞窟の頼朝』に衝撃を受け、絵画の道へ歩を進めた。19歳で日本美術院の展覧会(院展)に初入選。以後も入選を続けた。自身に多大な影響を与えた前田氏を師とし氏の逝去後は兄弟子の平山郁夫氏に師事した。

川崎の芸術にも寄与

1964年、結婚を機に岡上へ転居し、長男誕生後まもなく上麻生へ。自宅窓から見える県市境の丘陵に落ちる夕陽が心を掴んで離さず、「2、3年住むつもりだったが終の棲家になってしまった」と笑う。長年暮らす川崎市に「何か還元したい」と多数の作品を贈り、今年1月には千代ヶ丘小敷地内にある椿を描いた屏風も寄贈。県市の文化賞も受賞している。

長岡市の小中学生に対し、出前授業を約20年にわたり続けてきた。子どもには「家で育てているキュウリやナス、全てに命がある。それをいただいて君たちの命になる。命を全うしないと罰があたるよ」と伝える。

「今の人は写真を見て描くが私はしない。花には見栄えする角度がある。山も同じ。花一輪にも、何億年もかかってできた山にも心がある。一木一草に神宿る、の精神で今日までやってきた」とし、「山、木、花、そういうものの本当の意味での命をこれからも描いていきたい」と創作意欲を隠さない。「歳は他人がとるもので自分はとらないと思っている。描きたいものはいっぱいあるよ」と微笑んだ。

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