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「エネルギッシュでおもしろい!」密教・仏教が気になったときにおすすめの本5選【学びのきほんブックガイド】

NHK出版デジタルマガジン

「エネルギッシュでおもしろい!」密教・仏教が気になったときにおすすめの本5選【学びのきほんブックガイド】

密教が気になった方におすすめの入門書5選

お寺や神社などにお参りに行く方でも、「宗教を学ぼう」と言われると、なんとなく敬遠してしまうことが多くはないでしょうか。でも、宗教を信じる・信じないにかかわらず、歴史の中で積み上げられてきた教えたちは、現代社会の暮らしにおいても大きな学びにつながります。

2025年3月、近寄りがたいイメージを持たれがちな「密教」を、「今のみんなに必要な生き方のヒント」として読み解いた『NHK出版 学びのきほん みんなの密教』が発売後即増刷となりました。

著者の白川密成さんは四国遍路のお寺の住職を務めながら、多くの方に仏教・密教について伝え続けています。そこで今回、『みんなの密教』増刷を記念して、白川さんに「密教が気になった方におすすめの入門書」を伺ってきました。(聞き手:学びのきほん編集部)

『密教・コスモスとマンダラ』(松長有慶、NHKブックス、1985年)

 本書の著者である松長有慶氏は、私が密教や空海のことを学んだ方です。20代に高野山大学で学んでいた時に教壇に立たれていました。当時は恥ずかしながらあまり密教のことが分からずにいたんです。でも、この本もまさにそうなんですが、松長先生は密教とは教条的なものをマニュアル的に信仰するものではなく、もし「宗教」という枠組みを取り払ったとしても、自分がもっている生命力を爆発的に発揮するものなんだということを重ね重ね伝えてくださいました。そのとき、単純に「あ、面白そう」と思ったんですね。そのことは、自分にとってエポックになった部分があります。

 本書には私も『みんなで密教』で書いた「自分と宇宙」「私の同一性」「身体性の重要性」などのテーマが書かれています。松長先生は晩年までそうでしたが、講義で「面白いな!」と言いながら話されていた姿が印象的で、そういった姿が、密教が人間存在のエネルギッシュな部分を発揮する教えなんだということをも教えてくれているようで、私にとって出発点になった1冊です。

『空海』(松長有慶、岩波新書、2022年)

 いまご紹介した『密教・コスモスとマンダラ』が1985年刊で、こちらは2022年、松長先生の晩年の著作です。私は当時、10人くらいで先生のところへ通って毎月勉強会に参加していて、先生がご執筆されているときに近くにいたのですが、90歳を超えても「こんなこと書いてやろうと思ってんねん」とワクワクしながら書いていた姿を思い出します。『密教・コスモスとマンダラ』も『空海』も、内容的にいろんなことが網羅されていて、さすが研究者だなと感じます。そうした網羅性の中からエッセンスを取捨選択して提示したのが、私が今回書いた『みんなの密教』です。

 この『空海』を読んでいて印象的なのは、「大自然に仏の教えが潜む」という表現です。その大自然性をはらんでいるのが日本であり空海なのかな、ということは、今回この本を改めて再読して強く感じたことでした。

 あと、たとえば「成仏」というと雲をつかむような話で「成仏って言われても……」と思う方も多いと思います。その点に関して本書では、「自己の仏性に気づくことが成仏なんだ」ということを密教僧として端的に述べられていて、そういったところが、広く一般的な読者でも目を開かされるところなのかな、と感じました。

『仏教が好き!』(河合隼雄・中沢新一、朝日新聞出版、2003年)

 私が住職になったのが2001年で、この本が出版されたのが2003年です。なので住職になりたての頃に読んだのですが、この本は仏教・密教は面白いということを投げかけてくれた1冊です。著者の河合隼雄さんと中沢新一さんは仏教の関係者でもお坊さんでもないので、だからこそ言えることが結構あって、今回再読していてもとても面白い1冊でした。例えば、涅槃図のことを論じているところでは、「弟子よりも動物たちのほうが悲しんでいる、そこに大きなヒントがある」というようなことを言っていて、そういった視点はお坊さんからはなかなか出てきません。密教のことだと、大日如来のことを「曼荼羅のさらに奥にあるバーチャルな全体性だ」といったことを言っています。

 臨床心理と文化人類学という視点から語られていることには、むしろ本質をついたことが結構あるんじゃないかと思って、当時何度も読んだ本です。

『ブッダが教える愉快な生き方』(藤田一照、NHK出版、2019年)

 本書を改めて読むと、将来的には「お経」のように読まれる本なのではないかと感じました。10年後とか50年後を見たとしても、私たちがお経や注釈書を読んだりするように「こういうことを言った人がいるんだな」という感じになる気がします。

 僕たちお坊さんも、仏教の修行というのは苦しみに耐えることでこそ開かれてくる道があると捉えてしまっている部分があると思います。でも著者の藤田一照さんは、修行というのは愉快なものなんだ、楽しくて心地よいところから探求していくものなんだと言っていますよね。私にとっては晴天の霹靂でした。

 一照さんは「ガンバリズム」と呼んでいますが、「頑張る」仏教ではない視点があるんじゃないか、しかもそこが仏教の修行、学びにとってとても大切なんじゃないか。そういうメッセージに、お坊さん以外・修行者以外の方も目を開かされたというのは、その現象自体が面白いと思います。本書がこれだけ読まれているということは、お坊さん以外もこの本を読んでいるってことですからね。

 この本は仏教を非常にコンパクトにまとめた本でありながら、一照さんのエッセンスがものすごく凝縮されているように感じていて、本当に長く読まれる本だと思うし、長く読まれていってほしいと思います。

『沙門空海』(渡辺照宏・宮坂宥勝、ちくま学芸文庫、1993年)

 この本は1967年に出版されたものが文庫に入ったものですが、「空海伝」の中でも、かなりエポックになった本だと言われています。それまでお大師さんの伝記というのは、神話的ないろんな伝承や想像が散りばめられていたんです。お大師さんは宗教者なので、そういったことにも大きな意味があるのですが。そこで、本書の著者である渡辺照宏さん・宮坂宥勝さんという第一線の研究者が、とりあえず分かっていることで、事実や歴史に基づいた空海像をきちんと書いておこうということで書かれたのが、この『沙門空海』だと私は考えています。

 たとえば、出家得度の時期について、あるいは所属寺院などについてはそれを裏付ける資料は残されていないと書いてあるんですね。これは今でも議論のあるところです。今回再読してみて、何が分かっていないのかをはっきりさせることもアカデミズムの仕事なんだということを改めて感じました。

 伝記の題名で「空海」という呼称が使われること自体が、この本から一般的になったとも言われています。それまでは「お大師さん」「弘法大師」だったんですね。

 伝説の中で、なんとなくイメージしてきた空海の姿が、この本を読んで歴史的人物として「お大師さんってこういう人だったんだ」というのが腑に落ちました。いまだに一つの金字塔だと思います。

『NHK出版 学びのきほん みんなの密教』では、「そもそも、密教って何?/密教の基本思想/空海の教え/密教はみんなのもの、といった4つのテーマで、密教を「現代の生き方のヒント」として読み解いていきます。

紹介してくれた人

白川密成(しらかわ・みっせい)
1977 年生まれ。四国八十八ヶ所霊場第五十七番札所・栄福寺住職(愛媛県今治市)。真言宗僧侶。高野山大学密教学科卒業後、2001 年より現職。デビュー作『ボクは坊さん。』が2015 年に映画化。著書に『坊さん、父になる。』『坊さん、ぼーっとする。』(ミシマ社)、『マイ遍路』(新潮新書)、『空海さんの言葉』(徳間文庫)など。NHK こころの時代「空海の風景」(2023 年)に出演。
※刊行時の情報です

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