車だけじゃない!進む海の自動運転
今日は船の話題。トラックドライバーの時間外労働規制でモノの運び手が少なくなっている中、今注目されている「船の自動運転」って知っていますか?
輸送手段をトラックから船に切り替える動きが加速していて、これを「モーダルシフト」というのですが、船の世界も人手不足・成り手不足、おまけに高齢化で、対応しきれないという現状があるようです。そこで、この問題を解決しようということで「船の自動運転」の技術開発が進んでいるそう!
最先端をいく日本の自動運転技術
実は今、無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」というのが進められているんです。日本財団 常務理事 海野光行さんに伺いました。
日本財団 常務理事 海野光行さん
これは2020年から始めて、タンカーだったり、コンテナ船だったり、あるいは旅客船を無人で胸を動かした。第1ステージは世界初の実証実験だったんですけど、世界初の要素だと例えば「長距離・長時間」12時間以上の航行が成功した。それと、「大型船」全長200m以上の大きな船を無人で動かした。あとは「高速走行」50キロ。あと、桟橋に船を着ける技術ってすごく難しいんですけど、ドローンを使って係船(係船ロープ)を港で受け取って結び付けるということまで成功している。車(の自動運転)は先を越された感があるけど、海の世界でははやはり海洋国家、日本が頑張ってますので、冷静に見ても日本は一周半は先に行っている、最先端だと思ってます。
海の上は陸上より予測できない要素が多く、陸と違ってナビゲーションしようにも目印がほぼない、水の上で動きを制御するのも大変など、解決すべき要素が多い!これらの船舶運航の課題を洗い出し、2年の準備期間を経て2022年にやっと1回目の実証実験に漕ぎつけたわけなんです。
日本は、北欧・イギリス・シンガポール・韓国といった国をリードしていて、実証実験の第1段階では世界初の成果をいくつもあげたのですが、これはまだまだ序の口。今年の7月から第2段階、実証実験が始まります!陸上から無人の船を操る「陸上支援センター」という宇宙ステーションのような基地から遠くの海、しかも、より実用に近い条件で船を操るんです。ゆくゆくは陸上支援センターから、一度に何十隻もの船を同時に操るように・・・
陸上支援センターの様子 提供:日本財団
将来的には、船員の働き方改革にも?
こうした状況を船の関係者はどんなふうに見ているのか?この実証実験に協力しているコンテナ船「すざく」の遠藤達也船長のお話です。
コンテナ船「すざく」遠藤達也船長
漁船は急に方向を変えたりする。その時の対処法とか船のかわし方とかはやっぱり人間のほうがまだちょっと上。まあ新人で船に乗ってきた方よりは全然、機械のほうが(うまい)って思う時はあるんですけど。(自動運転が進んで無人運航になった場合、乗組員が必要なくなる未来もあり得る話?)複雑な気持ちはあるけど、逆に楽しみでもある。結局、若い人たちが船に乗りたがらない、何が嫌かって、ずっと船に乗ってると携帯の電波がないとか、そういう環境だと思うんです。だから陸上から船を動かすようになれば、船乗りだけど陸で暮らせるみたいになるから、人が増えるんじゃないかと思ってます。
コンテナ船「すざく」 提供:日本財団
船の種類によっても働き方は様々ですが、やはり環境面がハードな部分もありそうです。船乗りだけど職場は陸の上、なんて未来も近いかもしれませんね!
また船には、巨大なタンカーやコンテナ船ばかりでなく、小さいけれど生活には欠かせない船もたくさんありますよね。離島の間を一日数回だけど運航する船、観光船、水陸両用の船なども。先ほどのプロジェクトでは、2040年までに、日本で運航されているあらゆる船の50%を無人運航船にすることを目指しているそうです。
海難事故を無くす重要な役割
船の自動運転は、人手不足の解消のほかにも大事な役割を担っているといいます。
日本財団 海野さん
様々な社会課題がありますけど、「事故」ですよね。船舶の場合、海難事故の約7割はヒューマンエラーと言われています。ですからこの発想の原点は「事故を無くしたい」というところから始まっていますので、その辺からするとこのヒューマンエラー7割をどうやって減らすのか。だったら人が介在しない方が安全に動かせるんじゃないかというところで進めてきたという経緯も一方でございます。もう一つ忘れてはいけないのが、日本は技術があるけど、この技術をルールにちゃんと転化させないと、実入りが少なくなる。ルールを制する者は経済を制すると思っているので、ルール作りの分野でヨーロッパやアメリカなどに先行されることが今まで多かったので、そうならないように、これを最後に目指したいなと思ってます。
船の事故の7割がヒューマンエラーで、これは自動車や航空機と比べても割合が高いそうです。船は航空機のように自動化が進んでおらず、自動車のように自動ブレーキなどの機能がないのがその理由。クルーズフェリー「おりんぴあどりーむせと」中村船長も、完全な無人運転はまだ先でも、まずは自動運転を導入することで機械と人の力で海難事故は必ず減っていくと話していました。
遠隔操船の様子 提供:日本財団
海野さんは、この船の自動運転には専門業種含む国内の各分野100社以上の知見を集結させていて、たくさんの方が関わっているんだと。その一方で、自動運転は世界的にも始まったばかりの試みで何もルールがない状態なので、これを海洋国家である日本が、法整備を含め船の自動運転の仕組みを作っていくことに意味があるんだと話していました。日本がこの分野の先駆けになれるか、期待したいですね。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)