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7月16日は作詞家 松本隆の誕生日!吉田拓郎とのコラボアルバム「ローリング30」での格闘

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1978年11月21日 吉田拓郎のアルバム「ローリング30」発売日

「ももいろフォーク村」で毎年行われている “松本隆縛り”


7月16日は松本隆の誕生日。
松本隆は日本を代表する作詞家の1人であり、軽く2000曲を超える彼の作品群はどこから掘っても絶景を味わえる巨大な山脈のようなものだ。

僕の好きな音楽番組に『しおこうじ玉井詩織 × 坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT』(フジテレビNEXT)がある。村長の坂崎幸之助(THE ALFEE)と玉井詩織(ももいろクローバーZ)を中心にした2時間の生放送・生演奏による音楽番組で、毎回、地上波ではほぼお目にかかれない自由な選曲やゲストで楽しませてくれている。

この『ももいろフォーク村NEXT』で、12月の企画として2017年から毎年行われているのが “松本隆縛り” だ。スペシャルゲストである松本隆本人の前で出演者が松本曲を歌い、その曲にまつわるエピソードを聞くというものだ。

新型コロナ禍の時期には録画での参加だったりしたこともあるが、ほとんどの回で松本隆は直接スタジオに足を運び、肉声で楽曲について語っている。さらに2023年には鈴木茂と南佳孝もゲストとして出演し、2人で「ソバカスのある少女」をテレビ初演奏するという、たまらないぜいたくな番組なのだ。

“松本隆縛り” は去年までで7回行われているが、歌われてきた曲もはっぴいえんど時代のレパートリーから中川翔子の「綺麗ア・ラ・モード」(2008年)などの新しい曲まで多岐に渡る。しかも、その多くがリスナーにとって “知っている曲” だということだけでも松本隆作品の幅広さ、多彩さが伝わってくる。

吉田拓郎にとって楽曲作りのパートナーだった松本隆


松本隆の多彩なレパートリーのなかでも、僕にとって印象的な曲のひとつが吉田拓郎の「外は白い雪の夜」(1978年)だった。『ももいろフォーク村NEXT』でもこの曲は何度か歌われているが、聴くたびに吉田拓郎らしさをしっかりと感じさせる曲の凄みが再認識できる。

吉田拓郎はシンガーソングライターであるから、当然自分で作詞も行っている。その彼に対して30曲にものぼる詞を提供している松本はただものではないと改めて思うのだ。

デビュー当時の吉田拓郎はほぼすべての楽曲の作詞を自分で行っていた。しかし、1972年のアルバム『元気です』では収録された15曲中、本人が歌詞を書いているのは5曲で、シングルカットされて大ヒットした「旅の宿」をはじめ6曲を岡本おさみが書いている。岡本おさみは続くアルバム『伽草紙』(1973年)でも大半の作詞を担当するなど、吉田拓郎楽曲のメイン作詞家として活躍していく。ファンの間で人気が高い「落葉」や吉田拓郎が森進一に提供した「襟裳岬」も作詞は岡本おさみだ。

そして、吉田拓郎にとって岡本おさみとともに重要な楽曲づくりのパートナーとなったのが松本隆だった。吉田拓郎と松本隆が最初に一緒に楽曲をつくったのは1975年にトランザムのシングルとして発表された「あゝ青春」だった。ちなみにこの年の8月2日〜3日に行われた野外イベント『吉田拓郎・かぐや姫 コンサート インつま恋』で、吉田拓郎はトランザムをバックにこの曲をオープニングで歌っている。

同じ1975年、吉田拓郎はかまやつひろしに「わがよき友よ」を提供。この大ヒットを受けて同年、吉田拓郎は松本隆と組んだ「水無し川」をかまやつひろしに提供した。さらに吉田拓郎は翌1976年に発表したフォーライフレコード移籍第1弾アルバム『明日に向かって走れ』に「水無し川」をセルフカバー曲として収録。これが公式に吉田拓郎によってレコーディングされた松本隆との共作第1号となった。

吉田拓郎と松本隆が全身全霊で向き合った「ローリング30」


「あゝ青春」や「水無し川」の歌詞は、どちらもどこか挫折感と喪失感を感じさせる人生観をテーマとしている。これが吉田拓郎のメロディラインに乗ると、切ない情感にあふれた骨太の男歌となって迫ってくるのだ。これらの曲を自分でも歌ったということは、吉田拓郎も松本隆の詞との相性が良いこと、さらに松本隆と組むことでさらに新たな世界が切り開かれる可能性を感じていたということなのではないかと思う。こうして、1978年に発表された2枚組アルバム『ローリング30』で、吉田拓郎と松本隆は本気で全身全霊をかけてぶつかり合うことになる。

当時、吉田拓郎はフォークの人と見られていたし、それも間違いではない。しかし、もともと吉田拓郎はビートルズやR&Bが大好きな洋楽少年だった。しかし、当時の日本にはGSこそあったものの、アマチュアの少年がロックに没頭できる環境は乏しかった。自分の音楽を実践するためにはギター1本でできるフォークという手段がもっとも身近なものだった。

だから、フォークシンガーとして活動していても、吉田拓郎のロックマインドは失われていなかった。たとえば『よしだたくろう LIVE '73』を聴けば、彼のロックやR&Bに対する思い入れの深さがわかると思う。だから、当然吉田拓郎は松本隆が在籍していたはっぴいえんどのことも、そしてはっぴいえんどで松本隆が書いていた詞のことも知っていただろう。

ただし、都会生活者の喪失感をテーマとしたはっぴいえんどの歌詞をそのまま持ってきても吉田拓郎の世界とは合わない。けれど、「あゝ青春」や「水無し川」で松本隆は、吉田拓郎の世界観に寄り添う形での喪失感を描いていた。
吉田拓郎はこれらの詞を見て、これなら組める、と思ったのではないだろうか。

吉田拓郎とはあれ以上のものは作れない


松本隆も吉田拓郎の才能を理解していたのだと思う。松本隆ははっぴいえんど時代にフォークシンガー岡林信彦のバッキングを担当したこともあったし、はっぴいえんど解散直後の1973年には岡林信康のアルバム『金色のライオン』のプロデュースも行っている。だから、吉田拓郎の世界についても偏見は持っていなかったはずだ。

有名なエピソードとして、『ローリング30』は2枚組アルバムにもかかわらず、レコーディングに入るまで1曲もできていなかったという話がある。そこで吉田拓郎は松本隆に “伊豆のスタジオの近くにホテルをとったからそこで曲をつくろう” と声をかけ、約2週間ホテルとスタジオに籠って全曲を書き上げたという、

松本隆はホテルでひたすら歌詞を書き、それに吉田拓郎が次々と曲をつけていく。そんな話だけを聴くとやっつけの突貫工事ともいえるかもしれない。しかし、松本隆が2~3時間かけて書き上げたばかりの詞に吉田拓郎が数分で曲をつけて誕生したのがアルバムの代表曲のひとつ「外は白い雪の夜」だったという松本隆自身の証言にもあるように、まさにこれは松本隆と吉田拓郎が本気で火花を散らす格闘だったのだ。

松本隆は“吉田拓郎とはあれ以上のものは作れない” とも語っているが、『ローリング30』に松本隆が提供した詞を見ていくと、これまでの吉田拓郎が描いてきた世界を踏まえながら、30代を迎えた男の “想い” をさまざまな角度から浮き上がらせようとしていると感じられる。

松本隆は、吉田拓郎の想いを理解しながら、いわゆる “吉田拓郎らしさ” をなぞるのではなく、彼のリアルな心情と響きあう “言葉” を紡ぐと同時に、松本隆から見た吉田拓郎の “魅力” も投影する。そんな松本隆の詞に全面の信頼を寄せて歌い切った吉田拓郎の覚悟が、『ローリング30』をこれまで彼がリリースした数多くのアルバムのなかでも評価の高い作品にしているのではないかと思う。

その人の人生によりそって作品を紡いでいく作家


その後の吉田拓郎とのコラボレーションには岡本おさみと組んで制作されたアルバム『アジアの片隅で』(1980年)に収録されている「この歌をある人に」に続き、アルバム『無人島で…。』(1981年)では9曲中5曲の詞を提供している。さらにシングルでも「舞姫」(1978年)、「サマータイムブルーズが聴こえる」(1981年)、「恩師よ」(1994年)、「心の破片」(1999年)と味わい深い作品を残している。

吉田拓郎に限らず、本質的に松本隆は、歌い手のパーソナリティや想い、そして秘められた可能性を読みながら、その人の人生によりそって作品を紡いでいく作家なのだ。

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