保健師が働く場所完全ガイド!自治体・企業・医療機関など活躍の場を徹底解説
保健師の働く場所の全体像と最新動向
保健師の主な職場と分布状況
厚生労働省の「令和5年度保健師活動領域調査」によると、2024年現在、全国の保健師総数は38,528人に上ります。この数字は前年度と比較して525人(1.4%)増加しており、保健師の需要が着実に高まっていることがわかります。
保健師の働く場所は、大きく分けて以下の4つに分類されます。
行政機関(都道府県・市区町村) 本庁 保健所 市町村保健センター 医療機関 病院の健康管理部門 診療所 健診センター 企業・事業所 企業の健康管理室 事業所の衛生管理部門 健康保険組合 教育・福祉施設 学校 介護施設 福祉施設
特に注目すべき点は、全保健師の約85%が市区町村で勤務しているという事実です。これは、地域に密着した健康支援の重要性が高まっていることを示しています。
また、2024年の統計では、保健師の約15%が都道府県で勤務しており、残りの85%が市区町村で勤務しています。市区町村の内訳を見ると、保健所設置市に25.9%、特別区に4.2%、その他の市町村に54.9%が配置されています。
このデータからも、保健師は地域の保健医療の要として、幅広い場所で活躍していることがわかります。次のセクションでは、自治体における保健師の具体的な配置状況について詳しく見ていきましょう。
自治体における保健師の配置状況と特徴
自治体で働く保健師の配置状況について、詳しく見ていきましょう。厚生労働省の最新データによると、自治体における保健師の配置は以下のような特徴を持っています。
都道府県の保健師(5,795人)の所属部門別内訳は次のようになっています。
本庁(1,016人):保健部門、福祉部門、企画調整部門など 保健所(4,222人):保健福祉部門、企画調整部門 その他の施設(557人):精神保健福祉センター、児童相談所、保健師養成所など
一方、市区町村の保健師(32,733人)の所属部門別内訳は以下の通りです。
本庁:11,650人(35.6%) 保健所:4,186人(12.8%) 市町村保健センター:11,640人(35.6%) その他の施設:5,257人(16.1%)
特筆すべき点として、市区町村では本庁と保健センターにほぼ同数の保健師が配置されているのに対し、都道府県では保健所に7割以上の保健師が集中しているという特徴があります。これは、都道府県と市区町村で求められる役割の違いを反映したものといえます。
また、統括保健師の配置も進んでおり、都道府県では47自治体全てに、市区町村では1,149自治体(66.0%)に統括保健師が配置されています。特に保健所設置市では88.5%、特別区では78.3%と高い配置率を示しています。
このように、自治体における保健師の配置は、それぞれの行政レベルで求められる役割や機能に応じて、戦略的に行われていることがわかります。
近年の採用トレンドと求人動向
保健師の採用状況は、新型コロナウイルス感染症対策の影響もあり、近年大きく変化しています。厚生労働省の最新統計から、採用と退職の動向を詳しく見ていきましょう。
2024年の新規採用者数は全国で2,994人に達し、前年比で192人(6.4%)増加しています。内訳を見ると、都道府県で634人(21.2%)、市区町村で2,360人(78.8%)となっています。特に注目すべき点として、特別区での採用が前年比13.8%増と大きく伸びています。
一方、退職者数は全国で2,213人となり、前年比で64人(2.9%)増加しました。採用数が退職者数を上回っており、保健師の総数が着実に増加していることがわかります。特に都道府県では、退職者369人に対して採用者634人と、積極的な人材確保が行われています。
求人動向としては、まず自治体での求人が増加しています。これは地域保健対策の強化に伴う増員や、統括保健師配置の推進による管理職ポストの増加が背景にあります。
また企業での需要も拡大傾向にあり、従業員の健康管理強化や健康経営の推進による保健師ニーズが高まっています。
さらに医療機関でも、予防医療の重要性の認識や患者の生活指導ニーズの増加により、保健師の採用を強化しています。
このように、保健師の需要はさまざまな分野で高まっており、今後もこの傾向は続くと予想されます。特に公衆衛生や予防医療の重要性が高まる中、保健師の役割はますます重要になってきています。
保健師が働く場所別の業務内容と特徴
本庁・保健所での保健師の役割と業務
本庁と保健所は、保健師が最も多く勤務する職場の一つです。厚生労働省の統計によると、本庁には全体の32.9%(12,666人)、保健所には21.8%(8,408人)の保健師が配置されています。
本庁で働く保健師の主な業務は、以下のような部門で行われています。
保健部門:地域の保健医療計画の立案や健康づくり施策の企画立案 福祉部門:高齢者や障がい者の支援計画の策定 医療部門:地域医療体制の整備など 企画調整部門:さまざまな部署との連携調整や政策立案に関わる業務
一方、保健所の保健師は、より実務的な業務を担当します。具体的には、感染症対策、食品衛生、精神保健、母子保健などの分野で、直接住民の相談に応じたり、保健指導を行ったりします。また、地域の医療機関や福祉施設との連携も重要な業務の一つです。
本庁・保健所の保健師に特徴的な点として、行政職員としての視点が求められることが挙げられます。保健師としての専門知識に加えて、法律や制度についての理解、政策立案能力、調整力が必要とされます。
特に統括保健師として管理職を目指す場合、本庁や保健所での勤務経験が重要になってきます。統計によると、統括保健師の50.0%(598人)が本庁に、4.8%(57人)が保健所に配置されており、行政における保健師のキャリアパスの一つの到達点となっています。
このように、本庁・保健所の保健師は、地域の保健医療行政の中核を担う存在として、重要な役割を果たしています。
保健センター・地域包括支援センターでの活動
市町村保健センターには、全保健師の30.2%(11,640人)が勤務しており、本庁に次いで多い勤務先となっています。
保健センターでは、地域住民の健康づくりの最前線として、以下のような業務を行っています。
保健部門:乳幼児健診や予防接種の実施、生活習慣病予防の健康教育を担当 保健福祉部門:高齢者の介護予防事業や障がい者支援を行い、母子保健の分野では妊産婦への相談支援や育児相談を実施
具体的な1日の業務例を見てみましょう。午前中は乳幼児健診や特定健診の実施、午後は健診結果に基づく保健指導や家庭訪問を行います。また、定期的に健康教室や育児教室を開催し、地域住民の健康増進や育児支援に取り組んでいます。
一方、地域包括支援センターでは、高齢者の総合相談や介護予防に関する業務が中心となり、主に以下のような業務を担当しています。
介護予防ケアマネジメント 高齢者の権利擁護 地域のケアマネジャーへの支援 医療機関との連携調整
保健センター・地域包括支援センターの保健師の特徴は、地域住民と直接関わる機会が多いことです。そのため、コミュニケーション能力や個別支援の技術が特に重要になります。また、多職種との連携も必須で、医師、看護師、社会福祉士、介護支援専門員(ケアマネジャー)などと協力しながら業務を進めています。
最近では、オンラインでの健康相談や保健指導も増えており、ICTスキルの重要性も高まっています。
企業や医療機関における保健師の仕事
企業や医療機関で働く保健師は、厚生労働省の統計では「その他」に分類され、全体の15.1%(5,814人)を占めています。これらの職場における保健師の役割と特徴を詳しく見ていきましょう。
企業の保健師は、主に従業員の健康管理を担当します。具体的な業務内容は職員の健康診断の実施と事後指導やメンタルヘルスケア、生活習慣病予防の保健指導などを行います。
また、働き方改革の推進に伴い、従業員のワークライフバランスの支援や、職場環境の改善提案なども重要な業務となっています。
特に最近は、企業における健康経営の重要性が高まっており、保健師の専門性を活かした以下のような取り組みが注目されています。
ストレスチェック制度の運用 従業員向け健康セミナーの企画・実施 産業医との連携による職場巡視 感染症対策の立案と実施
一方、医療機関で働く保健師は、主に以下のような部門で活躍しています。
健康管理部門:人間ドックや健診業務
地域連携室:退院支援や在宅療養支援の調整
患者相談窓口:医療費や福祉制度の案内、療養生活に関する相談対応
医療機関の保健師の特徴的な業務として、以下の点が挙げられます。
生活習慣病の重症化予防指導 患者の退院後の生活支援計画作成 地域の医療・福祉資源との連携調整 患者家族への療養支援
これらの職場で働く保健師には、それぞれの職場特有の知識やスキルが求められます。企業の保健師は労働衛生や関連法規の知識が必要であり、医療機関の保健師は医療保険制度や地域の医療資源について詳しい知識が必要となります。
また、企業や医療機関の保健師は、行政機関の保健師とは異なる視点で健康支援に取り組むことができ、より専門的な分野でのキャリア形成が可能という特徴があります。
これからの保健師に求められる役割と働き方
統括保健師としてのキャリアパス
統括保健師制度は、保健師活動の質の向上と組織的な展開を図るために導入された制度です。自治体における保健師のキャリアパスの一つの到達点として、重要な位置づけとなっています。
統括保健師は、組織横断的に保健師の活動を総合調整し、技術的・専門的な側面から指導・助言を行います。また、人材育成計画の策定や若手保健師の指導も重要な責務となっています。
このポジションに就くためには、いくつかの重要なスキルや経験が必要とされます。まず、保健師としての実務経験に加えて、組織管理能力やリーダーシップスキルが求められます。また、地域の健康課題を分析し、効果的な施策を立案できる政策立案能力も必須となります。
一般的なキャリアパスとしては、まず保健所や保健センターでの実務経験を積み、その後、係長級として組織運営や事業管理の経験を重ねます。さらに、課長補佐や課長として政策立案や組織管理の経験を積んだ上で、統括保健師としての役割を担うケースが多く見られます。
特に重要なのは、多職種連携のコーディネート力です。医療、福祉、教育など、さまざまな分野の専門職との効果的な連携を図りながら、地域全体の健康課題に取り組む能力が求められます。
多様化する保健師の活躍の場
保健師の活躍の場は、従来の行政機関や医療機関から、さらに多様な分野へと広がりを見せています。
災害保健活動の分野では、近年の自然災害の増加に伴い、災害時の公衆衛生活動の専門家として保健師の役割が重要視されています。平常時から災害に備えた地域の健康管理体制の構築や、災害発生時の避難所での健康管理、被災者の心のケアなど、保健師ならではの専門性を活かした活動が期待されています。
また、学校保健の分野でも保健師の需要が高まっています。児童・生徒の心身の健康管理はもちろん、感染症対策や健康教育、特別な配慮を必要とする児童・生徒への支援など、教育現場における保健師の役割は年々重要性を増しています。
さらに、デジタルヘルスケアの分野でも活躍が期待されています。オンライン診療の普及や健康管理アプリの開発において、保健師の知見が必要とされています。
実際の保健指導経験を活かしたアプリケーションの企画・開発や、オンラインでの保健指導プログラムの構築など、テクノロジーと保健師の専門性を組み合わせた新しい働き方が生まれています。
このように、保健師の専門性はさまざまな分野で必要とされており、従来の枠にとらわれない柔軟なキャリア形成が可能となっています。
これからの保健師に求められるスキルと心構え
保健師を取り巻く環境が大きく変化する中、求められるスキルや心構えも変化してきています。
第一に、デジタルリテラシーの向上が不可欠です。オンラインでの保健指導や健康相談が一般化する中、ビデオ会議システムの操作やデジタル機器の活用能力が基本スキルとなっています。
また、健康管理アプリやウェアラブルデバイスから得られるデータを活用した保健指導も増えており、デジタルツールを活用した効果的な支援方法の習得が求められています。
第二に、データ分析力の重要性が高まっています。地域の健康課題を把握し、効果的な施策を立案するためには、統計データの読み解きや分析が必須となります。特に、以下のようなデータ活用スキルが重要です。
健康診断データの統計分析 地域の人口動態の把握 健康施策の費用対効果の分析 事業評価のためのデータ収集と分析
第三に、多職種連携のためのコミュニケーション能力がより重要になっています。医療専門職だけでなく、福祉、教育、行政などの専門家と協働する機会が増えており、それぞれの専門性を理解し、効果的な連携を図る能力が求められています。
最後に、生涯学習の意識を持ち続けることが重要です。医療技術の進歩や社会制度の変化に対応するため、継続的な学習と自己研鑽が不可欠です。
このように、保健師には従来の専門性に加えて、時代の変化に応じた新しいスキルの習得が求められています。しかし、どんなに環境が変化しても、「住民の健康を守る」という保健師の基本的な使命は変わりません。新しい知識やスキルを積極的に吸収しながら、この基本的な使命を果たしていくことが、これからの保健師に求められる姿勢といえるでしょう。