『スラムドッグ$ミリオネア』今では撮れないとダニー・ボイル監督 ─ 「文化的盗用は、許容される時期もあるかもしれないが、そうでない時期もある」
第81回で作品賞ほか最多8部門に輝いた映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)。この作品で監督賞に輝いたダニー・ボイルは、製作から17年が経過した現在、「今ならあの映画を撮ることはできない」と率直に語った。
本作はインドの外交官ヴィカス・スワラップの小説『ぼくと1ルピーの神様』を原作に、インド・ムンバイの青年ジャマールが、人気クイズ番組「クイズ$ミリオネア」に挑む物語。いよいよ最終問題にたどりつき、億万長者のチャンスをつかんだジャマールだったが、クイズの不正を疑われてしまい……。少年時代の日々、警察署での取り調べ、そしてクイズ番組という3つの時系列を横断しながら全編が展開する。
現地のキャスト・スタッフを起用し、ヒンディー語のせりふを導入し、実際にムンバイで撮影を行った本作は、2008年当時としてはインドの文化をなるべく反映しようと試みた画期的な一本だった。しかし、「当時としては革新的だった」と語るボイル監督をはじめ、主なスタッフの大半はイギリス人。この映画はあくまでも“イギリス映画”だったのだ。
英にて、ボイルは「今ならあの映画を撮ることはできないでしょう。そうあるべきだと思います」と語った。『トレインスポッティング』(1996)や『28日後...』(2002)などと並び、自身のキャリアを代表する作品のひとつだが、いまの見解は当時とは変わっているようだ。
「すべてを振り返るべきタイミングです。我々は自分たちが育んできた文化的な価値観と、この世界に与えてきた影響を見直さなくてはいけません。」
もっともボイルは、『スラムドッグ$ミリオネア』という映画そのものが植民地主義的だったと主張するつもりはない。「ただし、あらゆるものがそうであるという意味で」と付け加えたうえで。
「ムンバイに行くのは少人数で、インドのクルーとともに、インドの文化で映画を作ると決めました。しかし、それでも僕たちはよそ者だった。欠陥のあるやり方だったわけです。その手の文化的盗用は、許容される時期もあるかもしれませんが、許容されない時期もあります。私はあの映画を誇りに思っていますが、現在では検討することも、資金を得ることもできないでしょう。」
ダニー・ボイルの撮る『スラムドッグ$ミリオネア』は、あくまでも2008年にしかありえなかったもの──まぎれもない本人が、そうはっきりと認めている。
では、もしも『スラムドッグ$ミリオネア』を現在撮るとしたら? プロデューサーとしても活動するボイルは、「たとえ僕が関わるとしても、若いインド人の監督に撮ってもらいたい」と述べた。
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