88歳。川のように、命のように ― 世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」(取材レポート)
グラフィックデザイナー、美術家として圧倒的な作品群を築いてきた横尾忠則(1936-)。88歳になった現在も、なお旺盛な創作意欲で新たな世界を描き続けています。
そんな横尾の現在を映し出す展覧会「横尾忠則 連画の河」が、世田谷美術館で開かれています。
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場入口
今回の新作群は「連歌」にならい、昨日の自作を他者の作品のように受けとめ、今日の自分が自由に描き足していく「連画」という手法がとられています。
テーマを設けず、筆の赴くままに進んでいく制作スタイルは、意図や計画を超えた絵画の新たな可能性を引き出しています。
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
展示は、横尾が故郷・西脇で同級生たちと撮影した記念写真に端を発しています。そこから広がる川のモチーフ、そしてさまざまな記念写真や水にまつわるイメージが、画面の中に現れては消え、流れるように展開されていきます。初めて見るのになぜか懐かしく、そして時に生と死を感じさせる世界が広がります。
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
展示されている約60点の新作油彩画は、150号サイズが中心。川の流れに身を委ねるように筆を進めた日々がそのまま可視化されています。
画面には鮮やかな色彩、震えるような筆致、そして自在に変化するかたちがあふれています。
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
視力、聴力、腕力、脚力と、身体の衰えを受け入れながら、それでも絵筆をとり続ける横尾。その姿勢からは、絵画が本来もっている圧倒的な生命力がにじみ出ています。
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
世田谷美術館「横尾忠則 連画の河」会場
1972年にニューヨーク近代美術館で個展を開くなど、早くから国際的な評価を受けた横尾。「絵は、本当にわかりません。絵のほうが僕をどこかに連れていく。僕は、ただ描かされる」と語っています。
88歳にしてなお、未知なるものへ向かうそのまなざしが、観る者に深い感動と新たな発見をもたらします。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月25日 ]