事業報告と有価証券報告書の一体開示、バーチャル株主総会など 経産省研究会で効率化を提言
経済産業省が会社法改正に向けて立ち上げた「『稼ぐ力』の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」(座長・神田秀樹東京大学名誉教授)は1月17日、報告書をまとめた。
報告書は、事業報告と有価証券報告書の一体開示などで効率化・合理化を推進し、自社株を無償交付して従業員拡大を進める人的資本投資の強化策で、企業が「稼ぐ力」を高めていくことを提案。政府は報告書を基に、会社法改正の議論を進めていく考えだ。
事業報告と有価証券報告書を一体開示へ
日本企業は、会社法に基づく事業報告、金融商品取引法に基づく有価証券報告書、東京証券取引所の定めるコーポレートガバナンス報告書などさまざまな形式で情報を開示している。
報告書では、情報開示は「株主とのエンゲージメントを行う上での基盤」との認識を示しつつ、事業報告と有価証券報告書の記載事項は大部分で重複しているにもかかわらず、法制度上は、両書類は別になっているため、両書類をそれぞれ作成し、別の日に開示する実務が定着するなど、企業や株主への負担となっている。
報告書は、事業報告等と有報の一体開示を通じて、開示書類作成を効率化・合理化することを志向する企業が、それを進めることができる環境整備を行うことが有意義だと結論付けた。
会社法で「バーチャルオンリー株主総会」開催可能に
物理的な会場ではなく、取締役や株主がインターネット上で出席する「バーチャルオンリー株主総会株主総会」は、物理的な会場の確保が不要となり、運営コストの低減をはかることができ、導入する企業も増加している。
現在の会社法は、バーチャルオンリー株主総会を開催することはできないとの意見が有力であり、産業競争力強化法に会社法の特例を措置することで、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能としてきた。
ただ、経済産業大臣、法務大臣の確認を受けることが必要とされており、企業に負担が生じているのが実情で、報告書では「会社法上、バーチャルオンリー株主総会の開催を可能とし、確認手続きを不要とすることが望ましい」と指摘している。
また、通信障害が発生した場合の株主総会決議の取り消しリスクを低減するため、企業が通信障害の対策を十分に行っていた場合は、「通信障害に起因する株主総会決議取消事由の範囲を限定することが望ましい」としている。
従業員への株式の無償譲渡、グローバルな人材獲得競争で「拡大を」
報告書には従業員や子会社の役職員に対する株式の無償交付なども論点として示され、「人的資本への投資が生み出すイノベーションで社会課題を解決し、それに見合った利益を実現することは、企業の『稼ぐ力』を強化し、中長期的に企業価値を向上させていく上で非常に重要な要素だ」と指摘。
その上で「従業員に対して株式を付与することは、企業価値や株価に対する意識を高める効果や、帰属意識の醸成効果が期待でき、企業価値を高めていく上で有意義と考えられる」としている。
従業員に対して株式を付与する企業数は増加傾向にある。ただ、欧米諸国と比較すると、依然として低い水準にあり、グローバルな人材の獲得競争の中で、日本企業が競争力を付けるには、通常の賃上げだけでなく、株式の付与を拡大していくことが求められている。
2018年の会社法改正で、取締役および執行役に株式の無償交付が認められた。ただ、従業員に対しては認められておらず、従業員に株式を付与する場合は、金銭債権を会社側に現物出資するといったテクニカルな方式を取らざるを得ず、説明や会計上の処理において実務上の負担が生じている。
また、子会社の役職員に対する株式付与も、発行会社と子会社で併存的債務引受契約を締結した上で、金銭債権の現物出資が行われ、各子会社から発行会社に対する金銭の支払事務負担がある
報告書では子会社の役職員への株式の無償交付について、「グループ全体の企業価値を向上させるという観点から、子会社の役職員に対しても株式を付与することは有意義」としている。
経産省の発表の詳細は同省の公式ホームページで確認できる。