猫の『祖先になった動物』2種 イエネコが誕生するまでの歴史や進化をご紹介
1.イエネコの祖先はリビアヤマネコだった!
イエネコの祖先をたどると、リビアヤマネコに行き着く、と現代では考えられています。リビアヤマネコは、中近東の砂漠地帯に暮らすヤマネコの一種です。日本でもおなじみのキジトラによく似ていて、大きさも一般的なイエネコとそれほど変わりません。
イエネコの祖先が誰であるかわかったのは、2007年のことです。オックスフォード大学の研究チームによるDNA分析の結果、長らく謎だったイエネコのルーツがリビアヤマネコにある、ということが判明しました。
リビアヤマネコが誕生したのは約13万年前で、ヒトと暮らすようになったのは、約9500年前だと推測されています。野生動物のリビアヤマネコがなぜ人との共存を選んだのか、みなさんも疑問に感じるかもしれません。
リビアヤマネコが生息する中近東エリアは、「三日月地帯」と呼ばれる豊富な穀物の産地でした。穀物の保管にはネズミ食害がつきものです。リビアヤマネコが人間の暮らしに接近したのは、食料となるネズミを捕えるため、と言われています。
そこから、当時の人びとが、根っからのハンター、リビアヤマネコを穀物貯蔵庫の番人として重宝するようになりました。リビアヤマネコからすると、大切に扱ってもらえるうえに、人間の近くにいれば、食べ物にも困りません。利害関係が一致したわけです。
野生動物の家畜化のプロセスでは、人間との関わりに順応するため、遺伝子変異が伴うものですが、実は、イエネコだけは例外です。遺伝子変異が認められたのは、たったの13個。イヌの36個に比べると、圧倒的に少ないのがわかります。
イエネコの遺伝子変異がわずかにとどまったのは、変える必要がなかったからです。人間から頼まれたネズミ退治は、イエネコにとって、本来備わった習性であり、「仕事」のような特別なことではありません。
イヌのように何かを命じられることもなく、生まれつきの「らしさ」をふるまうだけでいい。つまり、イエネコは、今も昔も、無理せず、ありのままでいさえすれば、人間から喜ばれる存在だということです。
みなさんのおうちにいる愛猫とリビアヤマネコの間には、遺伝子的に大きな違いはありません。愛くるしさの中にふと見せる野性味、水がちょっと苦手、という特徴は、祖先であるリビアヤマネコの面影が濃厚に息づいています。
2.ネコとイヌの分かれ道となったミアキス
リビアヤマネコの誕生からさらに昔、現在のイエネコに続く起源として、ミアキスという動物が存在していました。ラテン語で「動物の母」と言われる通り、ミアキスは、ネコとイヌの共通祖先です。
ミアキスが暮らしていたのは、約6500~4500万年前のヨーロッパ大陸などの森林地帯です。体長約30cmで、見た目は現在のイタチに近く、ネコとイヌに共通する身体的特徴を持っていた、と言われています。
もともとミアキスは、樹上性の動物で、ネコのように、木々のうえで獲物を捕らえて暮らしていました。ところが、激しい生存競争の過程で、より良い暮らしを求めるため、地上に降り立つ者、樹上に残る者、両者の道に分かれます。
草地に進出したミアキスは、広々とした草原で生き残るため、長距離移動できる持久力と獲物を捕らえる際のチームワークを強化し、のちのイヌに進化を遂げていきます。
一方、森林にとどまったミアキスは、単独行動での狩りを信条とし、木々をしなやかに動き回る抜群の身体能力と優れた聴覚を手に入れました。このグループがのちのネコになったのは言うまでもありません。
生き残りを賭けて、それぞれの環境に合わせ、進化していった結果、ミアキスという種からネコ、イヌ、人間の暮らしに寄り添う2大動物に分かれていったわけです。
おうちで夢中になっておもちゃ遊びする愛猫の向こうには、キジトラによく似たリビアヤマネコがいて、さらに遠くには動物の母・ミアキスの背中が見えます。
そう考えると、どんな猫でも、さまざまな歴史をたどって、今ここにいる、ということがみなさんも実感できるかもしれません。
ちなみに、動物分類学的に示すと、イエネコは、「動物界脊椎動物門哺乳綱真獣下綱食肉目ネコ亜目ネコ科ネコ亜科フェリス属シルヴェストリス種カトゥス亜種」です。何だか早口言葉みたいで、やはり、「ネコ」のほうがかわいくて、しっくりきます。
まとめ
私たち人間と同じように、猫もまた遡れば祖先が存在します。今回は、「リビアヤマネコ」と「ミアキス」の2つの祖先を紹介しました。
進化の過程で、同じ「ミアキス」から「ネコ」と「イヌ」に分かれたのは実に驚きです。ささやかな記事内容がみなさんの探求心を刺激できたら、これほどうれしいことはありません。