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木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』製作発表会レポート〜“たった5時間”の大作「絶対に飽きさせることなく皆さまを興奮の渦に巻き込みます」

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前列左から)緒川たまき 眞島秀和 田中俊介 須賀健太、後列左から)木ノ下裕一 杉原邦生 川平慈英 藤野涼子

東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)が、2024年9月15日(日)より東京芸術劇場プレイハウスにて上演される。歌舞伎作者のレジェンド・河竹黙阿弥の原作を、木ノ下裕一が監修・補綴(既存戯曲を現代の価値観に照らして再編集する作業)し、杉原邦生が演出。2024年7月15日(火)、東京芸術劇場内にあるCafe de artsにて製作発表会が開催され、木ノ下、杉原とともに、俳優の田中俊介、須賀健太、藤野涼子、川平慈英、緒川たまき、眞島秀和が登壇した(お嬢吉三役の矢部昌暉は体調不良のため欠席)。

2014年初演、2015年には東京芸術劇場シアターウエストでも上演された本作は、2020年に予定されていた東京芸術劇場プレイハウスでの公演が開催中止の悲運に見舞われている。つまり、今回満を持して木ノ下歌舞伎のプレイハウス初登場が実現する形だ。上演時間5時間の大作だが、木ノ下は「お客様に大変申し訳ないのは、上演時間がたった5時間しかないこと」と発言し、俳優陣や会場に集まった記者をどよめかせた。続けて「黙阿弥の書いたものを一言一句変えずに上演すると10時間以上かかるんです。ですから、グッとエッセンスを圧縮いたしまして、たった5時間の上演でございます」と説明した。

木ノ下から「出会って20年。木ノ下歌舞伎にとってターニングポイントとなる作品の演出をご担当いただいてきた」と紹介された杉原は「(木ノ下歌舞伎は)僕にとっても新しい経験や挑戦をさせてくれる劇団」と返し、お互いの信頼関係が垣間見えた。

杉原もまた長時間の公演に自信をのぞかせ、「これまで6時間の作品も10時間の作品を演出してきたので、長時間の演出は任せてください。絶対に飽きさせることなく、皆さまを興奮の渦に巻き込みます」と力強く語った。

杉原邦生

物語の中心となる3人の吉三郎のうち、兄貴分の和尚吉三を演じる田中は、まもなく始まる稽古について「恐れず挑戦し、勇気をみんなで称え合えるような、あったかい稽古場にしていくことが大事だと思っています。助け合いながら5時間の舞台を頑張りたい」と抱負を述べた。

田中俊介

「(上演時間への)邦生さんのかなり強気な発言を聞いて、全部飛んでしまった感じではあるんですけれども」と前置きして話を始めた須賀は、血気盛んなお坊吉三を演じる。「今年30歳を迎える年で、もっと日本の文化や芸術に触れて成長していかなければならないと思っていたタイミングでした。そういう中で『三人吉三』は自分が挑ませていただくにあたって他にないくらいぴったりな作品だと感じ、オファーをお引き受けしました」と明かした。

須賀健太

花魁・一重役の藤野は、「俳優人生の中で歌舞伎を演じることはなかなかないチャンスだと思います。今からとても緊張しますが、いろんなことにチャレンジしていけたらいいなと思っています」と初々しく語った。

藤野涼子

和尚吉三の父・伝吉を演じる川平慈英は、「人間のドロドロした負の部分が入り混じるような舞台ですが、観終わったあとには生に対する賛美や前向きなエネルギーをお客様が感じられるよう、僕たちが届けられたらいいなと思います」と抱負を述べた。

川平慈英

文里の女房・おしづ役の緒川は「160年前の初演時はお正月公演だった」と触れ、「黙阿弥は不幸が渦巻くこの作品を人を楽しませるために書いたという風に読むと、江戸の庶民は粋な人たち、そして心が広い人たちだと感じられます」と当時の作品の立ち位置や作者の狙いを考察。その上で、「『日本の古典っておもしろい!』と感じてもらえる作品になればいいなと思います」と柔らかに語った。

緒川たまき

最後に意気込みを語った眞島が演じるのは、おしづという妻がありながらも一重に惚れ込んでしまう商人の文里。「歌舞伎の演目への挑戦は初めてで、右も左もわからない、どこから何に手をつけて準備したらいいのかもまだわからないような状態」と率直に吐露しながらも、「初日には堂々と舞台に立てるように、皆さんの足を引っ張ることなく稽古に励んでいきたい」と冷静に決意を述べた。

眞島秀和

質疑応答では「完コピ稽古」と呼ばれる稽古方法への質問が飛び、木ノ下が「約二週にわたり、歌舞伎俳優が演じている映像を一挙手一投足コピーしていただくという拷問のような稽古」と説明し、再び会場を静かにどよめかせた。ただし、闇雲に辛い思いをさせる目的で行うわけではもちろんなく、「テキスト以外にも仕草やセリフのどこを立てるかといった部分に解釈や物語が潜んでいる」「そういったところまで読み取った上で現代化していかないと、歌舞伎を扱ったことにはならないのでは、と感じる」などといった意図も併せて語った。

木ノ下裕一

続けて、昨年の木ノ下歌舞伎『勧進帳』から採用された「スウィング公演」についての質問には杉原が回答。「スウィング」の役割を「出演者が体調不良や事故のため出演できなくなった時に代演するため、すべての役柄を覚えて待機する」と説明した上で、「しかしその役割には『自分が出演しないことがハッピーな状態である』『だから出演したいと思ってはいけないと感じてしまう』というジレンマがあります。なので、その不健全な状態を少しでも解消したく、木ノ下くんたちに相談して、スウィングの俳優さんたちに重要な役柄を演じてもらう回を作りました」とその画期的な取り組みについて語った。

本公演は観客に対するサポートも厚い。聞こえない・聞こえづらい観客のための「ポータブル字幕機能」、見えない・見えづらい観客のための「音声ガイド」を実施する(どちらも要予約)。あらゆる人の事情に目を向けて環境を整備していくことで、劇場を開かれた場にしていく意気込みを感じる。

木ノ下歌舞伎4年越しのプレイハウス初登場、「あっという間の5時間」をぜひ体感してほしい。

取材・文・写真撮影=碇雪恵

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