ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか「シン・学問のすゝめ」
発売直後から話題を呼び、早くも6刷りと版を重ねている冨山和彦さんの新刊『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』。深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激な人余りが同時進行する日本。生成AIをはじめとする技術革新によってホワイトカラーの仕事が急速に奪われていく局面で、自分自身の生き方、働き方、スキルをどうすべきか?
IGPIグループ会長で企業支援の第一人者である著者が、組織や個人が生き残るための具体策を提言する本書から、「はじめに」を特別公開します。
シン・学問のすゝめ
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言えり。
この国が歴史的な大転換を行っていた明治初期、福沢諭吉翁は新しい時代の日本人のあるべき姿について、啓蒙書『学問のすゝめ』を著あらわした。これは有名な冒頭の一節である。福澤は新しい時代の扉を開くには、日本人自身をアップデートしなくてはならず、そのために何を学ばなければならないか、を啓蒙するためにこの名著を世に出した。『学問のすゝめ』は300万部の大ベストセラーになり、当時は人口3000万人程度だったので、実に日本人の10人に一人が読んだことになる。まさに国家のトランスフォーメーションは国民のトランスフォーメーションでもあったのだ。
ひるがえって現在、我が国は新たな大転換期を迎えている。グローバル化、デジタル革命、気候変動、権威主義国家の台頭と安全保障環境の変化、低迷する産業競争力・生産性・所得水準、少子高齢化の進行、財政危機などなど、我々に大きな変化を迫る要因がお互いに絡まりあいながら目白押しだ。
そこに決定的なインパクトを与える変化は、今まで社会の中心を占めていた「ホワイトカラーサラリーマン階級」が崩壊しようとしていることと、明治以来、一貫して増加してきた人口(若年層先行型)がいよいよ減少フェーズに入ったことである。過去には、明治維新で人口比1割ほどだがそれまでの支配階級だった士族が失業する一方で、産業化、近代化によって国全体は人口増加モードに転換した。これに匹敵する、極めて国民生活的リアリティーのある大変化が起きようとしているのだ。
明治維新がそうであったように、大転換期は危機であると同時に飛躍のチャンスでもある。まさに160年ぶりの大トランスフォーメーションを現代の日本人は迫られているのである。
これからの日本は、少子高齢化による深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激なホワイトカラーサラリーマンの減少と人余りが同時に起こる社会に突入する。人手不足はローカル産業で生じ、人余りはグローバル産業で顕著に起こる。これを放置するとローカル産業が成り立たなくなり、人々の生活を支えるサービスが停滞する。同時に、日本の競争力の源となるグローバル産業の競争力が極端に落ち、国際競争力の低下によって日本は経済植民地化される危険性がある。
これは、近い将来に現実に起こることであり、すべての日本人が避けては通れない。こうなったのは、私たち日本人が自らさまざまな選択をしてきた結果であり、その結果はすべての日本人が受け入れなければならない。だからこそ迫りくる危機的状況を回避するための方策をすべての日本人が考え、議論し、自らの生存を懸けて実行しなければならない。我々自身の選択と変容、まさに福沢諭吉翁が明治初期に問うた日本人の選択と変容が、令和の今、再び問われているのだ。
かかる衰退を受け入れ、精神的にも物理的にも貧しい暮らしを選択するのか。
あるいは、然るべき手段で然るべき方向に日本を導き、危機的状況から脱するのか。
脱するために、何をしなければならないのか。
私たちは職業人として生活者として、どう自らをアップデートすべきなのか。
衰退の途上にあるホワイトカラーは、このまま座して緩慢な死を待つのか。
それとも、自らの思考と行動を改めることで活路を見出すのか。
そのためには何を学び直すべきなのか。
ホワイトカラーの見出した活路は、日本の危機的状況を回避する決定打になるのか。
新しい日本と日本人のありようとはどのようなものか。
本書は、その解を導くための書、まさに令和版の「シン・学問のすゝめ」となることを意図したものである。
1937年、同じく歴史的な変曲点に向かっていた日本で書かれた吉野源三郎氏の『君たちはどう生きるか』。最近、その漫画版が出され、200万部をこえる大ヒットとなった。世の多くの人々が、既存の標準的な生き方が失われていくことを実感している証左ではないか。国家レベルの問いも、企業レベルの問いも、結局は最後の「新しい日本と日本人のありようはどのようなものか?」に収れんする。ホワイトカラー消滅を前にして、まさに「私たちはどう生きるか」が最重要な問いになっているのだ。
本書をお読みいただいた皆さんが我が事として問題を捉え、解を模索し、個人として、リーダーとして行動することで、喫緊の課題として迫る人手不足の問題を克服することを願ってやまない。さらに、日本人の生活を身近で支えるローカル産業とエッセンシャルワーカーが活性化し、人口減少が避けられない日本の労働生産性が上昇し、魅力あふれる国家になっていけば本望だ。
そして同時に、グローバル産業が再び世界に伍して戦えるようになり、ホワイトカラーが、シン・ホワイトカラーとしてその能力を伸ばすとともに、多くのホワイトカラーが自らの存在価値と働き場所を新たに見出し、実りある人生を送ってほしいと願うばかりだ。
2024年10月
IGPIグループ会長 日本共創プラットフォーム代表取締役社長 冨山和彦
冨山和彦(とやま・かずひこ)
IGPIグループ会長。日本共創プラットフォーム代表取締役社長。1960年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。スタンフォード大学でMBA取得。2003年、産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年、経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEO就任。2020年10月よりIGPIグループ会長。2020年、日本共創プラットフォーム(JPiX)を設立し代表取締役社長就任。パナソニックホールディングス社外取締役、メルカリ社外取締役。