KOTORI 横山優也が語る、結成10年目のメジャー1stアルバム『KOTORI』ーー「KOTORIらしさしかない」原点回帰の1枚
メジャー1stアルバムでセルフタイトル。現体制となってから5年、KOTORI結成から10年。事実を列挙するだけで、前作『We Are The Future』から3年ぶりとなる最新作『KOTORI』への期待は高まる。「KOTORIらしさしかない」と横山優也(Vo.Gt)が語る今作には、その上がりに上がったハードルを悠々と超えていく、バンドの決意とリスナーに対する愛が刻まれた全11曲が収められている。6月18日(火)よりバンドの現在地を示すかのようなタイトル『Japanese Super Perfect』を掲げたワンマンツアーを持って、細川千弘(Dr)の脱退が発表されたが、より大きな空へと羽ばたき始めようとしている彼ら。今回SPICEでは、最新作についてはもちろんのこと、KOTORIが10年間描き続けてきた「東京」に対する思いや目指すライブ像について横山にたっぷりと語ってもらった。
“KOTORIらしさ”しかないアルバム『KOTORI』
ーー2023年10月に「秘密」をポニーキャニオンからリリースし、バンド結成10周年のタイミングでメジャー1stアルバム『KOTORI』がリリースになりました。なぜこのタイミングでのメジャーリリースだったのでしょう。
単純にキッカケも無かったですし、もともとメジャーにいく必要性を強く感じていたわけではなくて。でも『We Are The Future』(2021年5月リリース)をリリースした後、音楽が広がっている感覚が無くなってしまったんです。そこで新しい風を取り入れるために、メンバーと話し合ってメジャーの力を借りることにしました。
ーー実際にメジャーリリースしてみていかがですか?
純粋に良かったなと。これまで考えなくてはいけなかった音楽以外の部分に対してすぐに答えが返ってくるようになったので、制作がスムーズになりました。あとは、曲に対して純粋な意見をもらえるので、自分の中で一つの指標になっていますね。
ーー今作『KOTORI』は、音楽的に挑戦した3rdフルアルバム『We Are The Future』と原点回帰の会場限定盤『Good Luck』を経たからこそ生まれた1枚だと思いました。メジャーリリース1発目のアルバムかつセルフタイトルということで「KOTORIがどんなバンドなのか」を提示する作品だと感じていますが、もともとどういった作品を目指していたのでしょうか?
メジャーリリース1発目のアルバムを『KOTORI』にすることと「東京」を収録することは、アルバムを作り始める前から決めていました。『Good Luck』はインディーズ最後の1枚としてお別れの意味を込めた作品で。『Good Luck』をリリースすることになって作った曲が「FOREVER YOUNG」と「Masterpiece」だったんです。でもその段階で『KOTORI』に収録されている何曲かは既に完成していたので、気持ちとしては繋がっていますね。
ーー『Good Luck』と連続したモードで制作したとのことですが、実際に完成してもその感覚は変わらなかったのでしょうか。
『Good Luck』に対する反響を見ていたら、みんなが思う“KOTORIらしさ”は「FOREVER YOUNG」や「Masterpiece」なんだと思って。自分たちが外からどう見られているのかが分かった上で『KOTORI』を作ることができたので、“KOTORIらしさ”しかないアルバムだと思っています。
ーー歌詞カードにツアー、バンドの文字が記されている「悲しみの先」をはじめ、「LOVE」や「ラストチャンス」などバンドとリスナーの関係を歌った曲が多いと感じたのですが、いかがですか?
「悲しみの先」は『Good Luck』のツアーを経て作った曲なので、自然とツアーやバンドがテーマになりました。これまでは誰に対してか分からない怒りや自分に対する戒めを歌うことが多かったのですが、今作はお客さんも含めた周囲の人の顔が思い浮かんだ上で歌詞を書けたので、バンドとお客さんの関係が見えてくるのだと思います。
ーーこれまでは内省的な側面も大きかった中で、今作では歌う対象を意識して外へと向かうことができたと。この変化にはどういったキッカケがあったのでしょう。
歌詞に関しては、くるりの岸田(繁、Vo.Gt)さんに「こころ」をプロデュースしてもらってから考え方が変わって。それまでは力みすぎていた部分があったんですが、良い意味で深く考えない“抜け感”が、ステージでの佇まいや性格も含めて俺っぽいと気づいたんです。もちろん、メジャー進出するにあたって聴いてもらえる人が増えることも意識はしていましたが、無意識の部分では楽に歌詞を書くようになったことが大きいのかな。
東京を描き続けたKOTORI。10年を経て誕生した新曲「東京」
ーー『KOTORI』に「東京」を収めると決めていたというお話も含めて、今作のキーになっているのが「東京」だと感じています。クライマックスではくるりやきのこ帝国の「東京」を思わせるパートもありますが、「東京」という楽曲を書くことに対してどのような思いを抱いていましたか?
ずっと「東京」は書きたかったけれど、曲を作ることへのハードルが高かったんです。一貫して歌ってきたテーマなので「東京」は絶対に作らなくてはいけないと思いながらも、書けなかった。だから、これまでは歌詞に組み込むことで遠回りしていました。でもこのタイミングしかないと思って作りましたね。
ーー<東京にやってきました>の一節で始まる「ラッキーストライク」をはじめ、「トーキョーナイトダイブ」や「東京より愛を込めて」などKOTORIと東京は切り離せないものだと思っています。その上で「東京」にはどのような思いを込めたのでしょう。
これまでの“KOTORIと東京史”を振り返ると、「ラッキーストライク」は上京したての気持ち、「トーキョーナイトダイブ」は地元の宮崎と東京の往来で感じた寂しさ、「RED」は音楽で頑張っていく決意、「東京より愛を込めて」はコロナ禍ですぐに帰れなくなった故郷に向けての思いを歌っていたんです。その上で「東京」を出すとなった際、当初はくるりの「東京」を意識した上京ソングにしようと考えていました。でもそれだと10年間の思い出巡りになってしまうと思ったし、上京した当時の気持ちはもうリアルに書けないなと。だからこそ、今東京に住んでいる人の目線で「東京」を書いたら、「これで正解だ」と思えるものになりました。
ーー10年間、東京で過ごしてきたから生まれたナンバーだということですね。東京を歌った各曲には横山さんと東京のその時々の関係が表れていますが、なぜここまで東京を歌い続けているのだと思いますか?
どうしてここまで東京に執着しているのかは自分でも不思議ですが、バンドをやるために必要だった上京の決断は自分にとって大きかったんですよね。大好きな地元から離れて東京に来たので、執着するのも自然なのかな。歌は記録なので、その時々でしか歌えないことがありますし、10年後東京に対して違った感覚を抱いていたら新しい「東京」を作ればいいと思っています。
ーー東京と不可分のキーワードとして夕日が挙げられると思うのですが、いかがですか?
GOING UNDER GROUNDの「同じ月を見てた」とイメージは近いと思っていて。同じ月や夕日を見ているはずなのに、見え方が違う。その違いから東京と宮崎の距離を切実に感じますし、2カ所を繋げる媒介が夕日だと考えているので絶対に登場してしまうんですよね。俺は夕暮れ時に独りで歩く帰り道が“エモ”だと思っていて。どうしようもない気持ちになるあの瞬間を表現したのがジャンルとしてのエモだし、KOTORIでやりたいのはエモなので、エモの象徴である夕日が登場するのは必然なんです。
ーー東京に対する思いが変化していくにつれて、夕日の見え方も変わってきたと思います。
「RED」の頃の夕日は見ると寂しくて泣きそうになってしまうもので、イメージとしては尻を叩かれるような鋭さのある真っ赤でした。でも最近は「東京」で<たまに涙が出るほど 優しい夕日がある>と歌っている通り、淡くて優しさのある真っ赤のイメージになってきました。
映画を観た後のような温度感に。KOTORIが目指す肉体的で音楽的なライブ
ーー6月18日(火)東京・渋谷 Spotify O-EASTより、ワンマンツアー『Japanese Super Perfect Tour』がスタートします。タイトルからもバンドの良い状態が伝わってきますが、今のライブの様子も含めてどういったツアーにしたいですか?
最近のライブは、ダイブモッシュやシンガロングなどフィジカル的な側面も大きくて。もちろんそれも楽しいですが、この前のNo Busesとのツーマン(『La.mama 42nd anniversary PLAY VOL.149』5月23日@渋谷La.mama)が痺れるほどに良かったんですよね。というのも、そのライブは久々に“音楽”に焦点を当てることができたと思っていて。“運動モード”と“音楽モード”がある中で、引きすぎず熱くなりすぎずのバランスを程よく届けることができれば、肉体的なライブハウスの良さと聴かせるショー的な良さを1本のライブに落とし込めると考えています。そのバランスが取れればアルバムの良さも最大限に引き出せると思いますし、終わった後に「疲れた」というよりも映画を観た後のような温度感にできたらいいなと。
ーーアルバムの話に戻りますが、今作はこれまでの作品に比べてミドルテンポの楽曲が多いと思います。それも“音楽”に焦点を当てつつアグレッシブなライブにしたいというモードと繋がっていますよね。
確かに、勢いで押すわけではないですね。アッパーな曲で盛り上げることができるのは、ある意味必然的で。ミドルテンポで音楽的に踊らせたいと思って『We Are The Future』を作ったけれど、あまりにも深いところにいってしまったのでできなかった。『KOTORI』は音楽的な部分もありつつ楽しませることを意識しましたし、これまでの作品全てを嚙み砕いた1枚になったと思っているので、今までやってきたことは間違いではなかったなと改めて感じます。
ーー外への広がりを意識した今作をキッカケにKOTORIと出会うリスナーも増えると思いますが、バンドの今後の目標や野望を教えてください。
KOTORIは先輩との共演が多く、同世代や年下のバンドとの繋がりをあまり意識してこなかったので、今回開催する『TORI ROCK FESTIVAL'24』で横の繋がりを作りたいなと思います。あとはずっと言っていることですが、各地の動物園で『TORI ROCK FESTIVAL』を開催して、最終的には宮崎で『地鶏ロック』をやりたいです。
ーー音楽的な側面ではいかがですか?
音楽的ロマンだと、100年後にもCDショップやレコードショップに並んでいるような作品を作れたらいいなと思いますし、きちんと人に覚えてもらって愛される音源を作っていきたいです。ライブに関しては、理由も分からないけれど「ヤバい」と思える瞬間を追い求めてバンドやライブをやっているので、トライ&エラーを重ねながら理想のライブに近づいていけたらいいなと思っています。
取材・文=横堀つばさ 撮影=日吉“JP”純平