Yahoo! JAPAN

【ティム・フェールバウム監督「セプテンバー5」】 「速報性」と「正確性」のせめぎ合い

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーで2月28日から上映中のティム・フェールバウム監督「セプテンバー5」を題材に。

第97回アカデミー賞の脚本部門にノミネート。1972年9月5日のミュンヘン五輪で発生した、パレスチナ武装組織「黒い九月」によるイスラエル選手団9人を人質にするテロと、そのテレビ中継を担ったABCの放送クルーの奮闘を描く。

五輪初の生中継ということで力が入るテレビマンたちの、刻一刻と変化する事態への即応ぶりが作品の中心軸をなす。全世界で9億人が見たという歴史的なテレビ中継の緊迫感は、インターネットメディアの発達で即時性にならされた者としては「新鮮」とさえ言える。

ただ、そこで問われているのは「誰のための報道か」である。今もメディアに重くのしかかる命題だ。新聞に関わる立場としてもよく分かるのだが、彼らは「速報性」と「正確性」のせめぎ合いの中で仕事をしている。

テロリストは人質を連れて選手村をヘリコプターで脱出し、国外退去を図る。ドイツ警察の取材規制の中で、少しでも「現時点での事実」に近い伝え方を模索するクルーの姿は、半世紀後の今の報道関係者と変わりがない。

空港で何が起こっているのか。人質は無事なのか。テロリストたちの行方は。現場からの報告、現地メディアの報道、政府の公式発表の中から真実をつかみ出そうとする過程の描写は、ひとごととは思えなかった。

(は)

<DATA>※県内の上映館。3月13日時点
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区、20日まで)

【関連記事】

おすすめの記事