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「息子がピンクばかり選ぶのがイヤ」 親の【ジェンダーバイアス問題】 坂東眞理子さんからのアドバイス〔令和の育児悩み〕

コクリコ

わが子の「好き」は大切にしたいけれど、心のどこかで引っかかる…そんな「モヤモヤ」との向き合い方を、ジェンダーバイアスを乗り越えてきた坂東眞理子さんに聞きました。

【画像で見る】「モヤモヤ」を解決する坂東眞理子さんの教えとは?

「女の子なのに電車好き」「男の子なのにお人形好き」──。そんなわが子の「好き」を大切にしたいと思っているけれど、心のどこかで引っかかる自分もいる……。これは押しつけ? それとも、気にしすぎ?

誰も教えてくれない「子育ての正解」に、日々迷いながら向き合っている親たちは少なくありません。

そんな親たちが抱く「モヤモヤ」との向き合い方を、坂東眞理子さんがやさしく語ってくれました。

「モヤモヤ」の背景にあるものは?

ジェンダー平等や多様性という言葉が、すっかり私たちに身近なものとなった令和の今。それでもなお、親として子どもに向き合うとき、ふと浮かぶ「常識」や「こうあるべき」に、戸惑いを覚える瞬間はないでしょうか。

「息子がピンクを選ぶ。親としては“その子らしさ”を尊重したいのに、なぜかモヤモヤしてしまう──。こうした感情の背景にあるのは、気づかぬうちに私たちの中に根を張っている“アンコンシャス・バイアス(無意識の思いこみ)”かもしれません」

こう教えてくれるのは、昭和・平成・令和を生きてきた女性のひとり、坂東眞理子さん。総理府や内閣府での官僚生活、大学の学長・理事長・総長としての教育現場、そして二人の娘を育てた一人の母親として、多面的な経験を持つ人です。

「今でも女性に対する偏見は至るところにあります。と言うと、『“偏見を持っている人”が悪い』となりがちですよね。もちろん、そういう人はたくさんいて、どうにかしなければならないのだけれど(笑)。それよりなにより、いちばんの問題は、親自身がアンコンシャス・バイアスにとらわれているということ」

「『女性は・男性はこうあるべき』などと、心のどこかで思ってはいないでしょうか。大切なのは、『自分自身も、気づかないうちに思い込みにとらわれているかもしれない』と、まず認識することなんです」

あなた自身が抱くアンコンシャス・バイアスこそが、「モヤモヤ」の正体。自分自身を振り返ってみましょう。

「『私は違う』と思いながらも、実は、けっこう“過去の常識”にとらわれている人は多いんです。『女の子なんだからお人形好きで当然』『男の子なのに泣き虫だなんて』……。そういうバイアスを、自分の中に持っていることに、まずは気づく。それが、“モヤモヤ”から解放される第一歩だと思います」

子どもへの心配──実は「親の問題」

令和の親たちは、ジェンダーに関して、価値観の過渡期を生きています。「こうあるべき」という「過去の常識」と、「多様性を尊重しよう」という新しい潮流の間で、親としての「正解」が見えにくくなっているのが実情です。

男の子なのにお人形遊びをさせていいのか、女の子に戦いごっこをやらせていいのか……。

「男らしさ・女らしさ」の押しつけを避けたいと思いつつ、“普通”とされる枠から外れることへの不安がある。性別に囚われず、わが子の好みを尊重したいけれど、周囲の偏見が気になってしまう。

(写真:アフロ)

いずれも、よく聞く迷いですが、令和の時代だからこその「揺れ」もあります。

例えば、娘がピンクを選ぶと、逆にモヤモヤしてしまうというもの。ピンクという色に付随する「男ウケ」「プリンセス願望」といった画一的なイメージやストーリーに抵抗があるというのです。

「娘がピンク好きでも、息子がお人形遊びが好きでもいいじゃないですか。親が『こうでなきゃ』と枠を作ることで、子どもを知らず知らずのうちに縛ってしまうんです」

子どもが何かを好きだと感じる気持ちは、ごく自然なこと。けれど、そこに親の「不安」が忍び込むことで、子どもは違和感や戸惑いを受け取ってしまいます。

「心配って、実は親の問題なんですよ。子ども自身の問題じゃないの。ピンクが好きなら、それはその子の好みとして受け入れる。『周りから変に見られないか』『それを親が許していると、変に思われるんじゃないか』──そんなふうに思う気持ちこそが、親のエゴなんです」

さらに、子どもの「好き」を見極める視点について、坂東さんは続けます。

「子どもの“好き”はどんどん変わる」

「好き嫌いは、小さいころからあるのよ。生まれながらにして、個人個人で違うもの。平均的には、男の子はメカニックなものを好み、女の子はヒューマンなものに惹かれる傾向があるけれど、それはあくまで平均の話」「一人ひとりは違う。その子が何が好きかを、ちゃんと見てあげることが大事なんです」

だからこそ、親は「こうあってほしい」という願いや、「周囲からどう見られるか」といった不安を切り離し、子ども本人の気持ちに耳を傾けてほしい、とも。

(写真:アフロ)

「親が『こうなってほしい』と強く思うあまり、その願望を子どもに押しつけると、子どもは無意識のうちに親の期待に応えようとしてしまいます。けれど、本当に大事なのは、その子自身が何に関心を持ち、何に向いているのかを、親がよく見てあげること」「誰よりも近くで子どもを見ている親こそ、その役割を担える存在なんです」

そう語ったうえで、坂東さんは子どもの自我の芽生えに触れ、こんなふうにアドバイスしてくれます。

「物心がつかないうちは、親が好きな服を着せたって構わない。でも、子どもが『これが好き』と自分の意志を持つようになったら、親はそれを尊重する。そういうバランス感覚が大事なのではありませんか」

子どものころ、『鉄腕アトム』に夢中だったという坂東さん。自身の「好き」が時代を超え、いま令和を生きる親たちへのやさしいエールとして響いてくるようです。

「ちゃんとした親」じゃなくてもいい──肩の力を抜くという選択

「いい母親」「ちゃんとした父親」でありたい──そう願う気持ちは尊いものです。けれど、その「正しさ」に自分を縛ってはいないでしょうか。

「私もね、『自分はちゃんとした母親じゃない』って、ずっと罪悪感を抱えていましたよ。特に働きながら育てるのは、本当に大変だった。0歳児保育は東大より入るのが難しいって言われていた時代ですから」

高い倍率をのりこえて無事に保育園に入れても、日々の送り迎えに苦労したと坂東さんは振り返ります。

お迎えに行けないので、近所の方に頼む。病気になれば実家の母に助けてもらい、「総動員体制」で子育てを乗り切っていたといいます。

「それでもね、子どもから『ママなんて大嫌い』『私は絶対、働く母親にはならない』なんて言われて、落ち込むこともありました……。でも、子どもの意見はどんどん変わっていきます」「ある時期までヒラヒラの洋服が好きだったのに、『こんなのもうイヤ』と言い出したり、『働くママなんて大嫌い』と言っていたくせに、『私も働くお母さんになる』と言ってみたり。その時々、揺れ動く子どもの発言に親が振り回されないことも大事なのではないでしょうか。ちなみに、結局娘は二人ともワーキングマザーです(笑)」

完璧な親なんて、どこにもいない。坂東さんは、そこに気づいたときから、少し肩の力が抜けたそう。

「子どもは、親のすべてを条件として受け止めて育つ。だったら、親が“100%じゃない自分”をまず認めてあげることも、大事なんです」「私の場合、仕事を一生懸命やっていて、子育ては十分でなかったという自覚があった。だから、“謙虚な母親”だったと思う。その点は、良かったのではないかと思います」

「割り切り」と「対話」のバランス

子育ての場面では、祖父母やパートナーとの価値観の違いに直面することもあります。

とくにジェンダーの話題は、世代間での感覚のズレが大きくなりがちです。

「祖父母と親で意見が違うのは、ある意味当たり前。世代が違えば、価値観も違う。祖父母が孫に対して、『男の子はしっかり』『女の子はおしとやかに』なんて言うこともある。そこで『そんなこと言わないで』と正すより、『おじいちゃんやおばあちゃんは、そう思っているんだな』と割り切って受け止めるくらいのほうが、うまくいくはずです」

坂東さん自身、子育てをしていた当時、母親の存在が大きかったと振り返ります。

「私は母がいなかったら、とても育児はできなかった。だからこそ、母が私の娘たちにどう接していようと、基本的には母の自由にしてもらっていました。私が母の言葉をいちいち制限するより、母なりの愛情を受け取ってもらったほうが、子どもにとっても良いと感じていましたから」

▲祖父母が子どもへどう接するかを全てコントロールするのは難しい。相手を信じて任せることも時には大切です。

そもそも、「祖父母に限らず、子どもに入ってくる情報を親が100%コントロールするのは無理」と坂東さんは力説。

「例えば、私が母に向かって『うちの娘にそんなこと言わないで』と頼んで、母が言うことを聞いてくれたとしても、子どもは学校や近所など、いろんな場所でいろんな価値観に触れるもの」「ですから、家庭だけで“正しい型”を教え込むなんて、そもそも無理があるんです。親は、子どものまわりに集まってくる情報の全部はコントロールできないと覚悟しておいたほうがいいと思いますよ」

とはいえ、「ジェンダーの価値観を含め、親は子どもに自分の考えを伝えておくべき」と坂東さん。

「『別の考え方をする人もいるけど、ママはこう考えているのよ』と、子どもには伝えるようにしていました」「言ったところで、子どもは忘れてしまうし、『はっ?』という感じで、反発されることもあるでしょう。実際、うちの娘からは、『それはママの考えでしょ』と言われたこともあります。そんなときは、『そうよ』で流しちゃう。自分が言いたいことが子どもにうまく伝わらなくても、クヨクヨしないことが大切なんです」

「子育てに限らず、いろいろなシーンで、自分の言うことが100%相手に伝わることなどほとんどない。そう思っておけば、気持ち的にかなり楽になります」

子育てに迷うのは、子どもと真っ直ぐに向き合っている証。坂東さんの言葉に、「今日の“もやもや”は、きっと明日につながっている」と勇気づけられますね。

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坂東眞理子さんへ「子育てとジェンダーバイアス」をテーマに伺う連載は前後編。前編の今回は、親の「モヤモヤ」の背景と、子どもの個性との向き合い方をお話しいただきました。

次回の後編では、坂東さんの半生と子育てについてお聞きします。「女の子」で落胆された幼少期から、大学・就職・官僚時代のエピソードまで。

「逆風」の中でも歩みを止めず、仕事と子育てに向き合った坂東さんの半生は、ジェンダーバイアスとの静かな闘いでもありました。

「女だから」の枠に挑み続けてきた坂東さんに、令和の子育て世代に向けたメッセージを伺います。

撮影/市谷明美

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