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標準軌、狭軌、ナローゲージ 日本で唯一の〝3ゲージ踏切〟で行き交う列車をウォッチング(三重県桑名市)【コラム】

鉄道チャンネル

近鉄名阪特急の名優「アーバンライナー」。デビューは1988年で30年以上経過した現在も古さを感じさせません(筆者撮影)

2024年8月の「全国高校生地方鉄道交流会at伊賀鉄道」(三重県上野市)取材後、筆者はJR関西線を桑名で途中下車しました。

桑名は関西線のほか、近鉄名古屋線、養老鉄道、三岐鉄道北勢線と鉄道4線が接続します。注目したいのが軌間(線路幅)で、近鉄は標準軌(1435ミリ)、関西線と養老鉄道は狭軌(1067ミリ)、北勢線はナローゲージ(762ミリ)。桑名駅南側には日本で唯一、3ゲージ横並びの踏切があることが、ファンに知られます。

今回は、滞在可能時間の関係で残念ながら養老鉄道は断念。限られた時間でしたが3ゲージ踏切で、行き交う列車をカメラスケッチしました。

伊勢湾台風被災を機に狭軌から標準軌に

まずは、順不同で3線のプロフィール。

全社で501.1キロと日本の私鉄最長のネットワークの近鉄で愛知県内唯一の路線が名古屋線。路線は、伊勢中川(三重県松阪市)~名古屋(名古屋市)間78.8キロです。

伊勢鉄道(現在の第三セクターの伊勢鉄道とはもちろん別会社です)、参宮急行電鉄、関西急行電鉄が建設した路線をつないで、戦前の1938年までに全線開通しました。

1944年には戦時統合で近鉄(近畿日本鉄道)が誕生しましたが、名古屋線は狭軌、伊勢中川で接続する大阪線は標準軌で直通運転はできませんでした。

近鉄が懸案の名阪直通に向けて改軌の準備を進める、1959年9月に見舞われたのが伊勢湾台風。死者数は5000人を越え、明治以来最大の被害を出した台風です。近鉄は名古屋~桑名間で大規模に被災しました。

近鉄中興の祖、佐伯勇

ピンチをチャンスに変えたのが、当時ヨーロッパに出張していた社長の佐伯勇(1903~1989)。災害復旧にあわせて名古屋線の改軌を決断しました。

被災から約2か月後の1959年11月27日には改軌が完了、2週間後の12月12日に名阪直通特急が運転を始めました。

「ビスタカー」から「アーバンライナー」、「ひのとり」へ。近鉄歴代の看板列車の栄光の歴史がこの時スタート。佐伯は、「近鉄中興の祖」と呼ぶにふさわしい業績を残しました。

〝仁義なき戦い〟に敗れた関西線

JR東海の313系電車。2両編成をつないで4両編成で運転されていました(筆者撮影)

続いてJR関西線。同線のプロフィールは2024年1月のコラム「名古屋から奈良へ一直線」で紹介させていただきましたが、ポイントを再掲すれば、私鉄の関西鉄道は1899年までに名古屋~奈良間を全通。官営の東海道線に対抗して、乗客獲得に努めました。

官の東海道線vs関西鉄道の〝仁義なき戦い〟は、関西鉄道が国有化された1907年まで継続。戦後も国鉄は、線区近代化に力を入れました。

しかし、並行する近鉄名古屋、大阪線に対抗できず競争から撤退。桑名を含む名古屋~亀山間はJR東海のエリアで、名古屋都市圏として特急「(ワイドビュー)南紀」、快速「みえ」などが頻発されます。

21世紀に生きるナロー

現代的だけどどこか懐かしい……そんな印象を受ける北勢線270系電車。真ん中にサハを挟んだ3両編成で運転されます(筆者撮影)

そして三岐鉄道北勢線。路線は西桑名~阿下喜(あげき、三重県いなべ市)間20.4キロです。大正年間の1914年に最初の区間が開業し、1931年までに全通。建設時は軽便鉄道の全盛時でした。

当初は北勢鉄道。戦時中に三重交通に統合され、三重電気鉄道を経て1960年代には近鉄に統合されました。40年にわたり近鉄北勢線時代が続いたものの、2000年に近鉄が廃線の意向を表明。地元協議などを経て、2003年から三重県で鉄道・バス事業を運営する三岐鉄道(本社・四日市市)に引き継がれました。

沿線は桑名市、東員町、いなべ市の2市1町。ナローゲージが21世紀の現代に生き残ったのは、近鉄や三岐鉄道の手で必要な近代化が進められてきたという理由が大きいように思えます。

3社それぞれの踏切名

桑名駅に降り立ったのは17時前。直ちに目的の踏切に向かいました。

踏切は車両通行止めで、渡れるのは歩行者だけ。東側から北勢線(単線)、JR関西線(複線)、近鉄名古屋線(同)が並びます。

踏切名は北勢線が西桑名第2号踏切、JRが桑名駅構内踏切、近鉄が益生第4号踏切とそれぞれ異なります。遮断機は北勢線とJRが共通、近鉄が単独です。

JRと北勢線の間に遮断機はありませんが、金網の柵があります。JRと近鉄の踏切の間には人一人分ほどの退避スペースがあります。

自治体も3ゲージ踏切の価値を理解しているのでしょう。北勢線終点の阿下喜駅があるいなべ市は「日本で唯一3種類の線路幅がそろう踏切」のタイトルでPRします(資料:三重県いなべ市)

最後に、3ゲージ踏切を行き交う主な車両のミニガイド。

近鉄は名阪特急や伊勢志摩特急が頻繁に通過し、〝特急銀座〟といえる名古屋線。名阪特急は「ひのとり」(80000系)や「アーバンライナー」(21000系)、伊勢志摩特急は「しまかぜ」(50000系)が代表選手です。

普通列車は1400系、2610系、5800系など多士済々ですが、ファンが盛り上がるのは2025年度の営業運転開始がアナウンスされる「8A系」。名古屋線への新車投入は、1997年度の5800系以来実に28年ぶり。

関西線の主力はJR東海の313系電車。名古屋~亀山間を走るのは2両編成の1300番台です。関西・紀勢線の特急「南紀」(HC85系)は次期特急車両。ディーゼルエンジンで発電する電力と、ブレーキ時の回生エネルギーを組み合わせて走行します。

北勢線の車両は見た目もスリム。「ひのとり」や「南紀」から乗り継げば、新鋭特急とひと味異なる鉄道車両の多様さを実感できるでしょう。列車は3、4両編成。電動車クモハ273形は1両でサハまたはクハ2、3両をけん引(推進)。クモハ270形、170形のペアは特殊で、2台の台車のうち片方しかモーターを装備しません。真ん中にサハ140形を挟んだ3両編成で運行されます。

今回は十分な撮影を確保できませんでしたが、それでも次々にやってくる車両に目を奪われ、なかなか現場を離れられませんでした。次回は、北勢線や養老鉄道にも乗車したい……そんな思いで、再び名古屋行きの列車に乗車しました。

どこか昭和の駅の風情を感じさせる北勢線の始発駅「西桑名」。有名なトリビアでは、JRや近鉄の桑名駅の東側にあるのになぜ西桑名? 理由は所在地の旧町名・西桑名町です(現在は桑名市寿町)(筆者撮影)
駅名の上にJR東海、近鉄、養老鉄道の3社の社名が並ぶ桑名駅。約50年ぶりの2020年8月のリニューアルで東西自由通路を備えた橋上駅舎に生まれ変わりました(筆者撮影)

記事:上里夏生

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