緑に包まれた西宮の高台で出会う、シャガールの世界『アガペ大鶴美術館』新館 西宮市
西宮市の中心部から車でわずか数分。緑に囲まれた丘の上に建つ『アガペ大鶴美術館』は、静かな環境の中でゆったりと名作アートを味わえるスポット。昨年10月に開館10周年を迎え、その隣に『アガペ・シャガール美術館』が新たな魅力として加わりました。
館内ではシャガール自身が制作に関わったオリジナルのリトグラフ(石版画)を中心に、油彩画や版画など約350点を展示。旧約聖書の物語、色彩に満ちた挿絵作品、愛と音楽を描いた油彩など、フロアごとに異なるテーマで紹介されています。
行列ができてもおかしくない名作が並ぶのに、公にはあまり知られていない場所。だからこそ、訪れたときの「こんなところで出会えた!」という喜びはひとしおです。
館内に足を踏み入れてまず目を奪われるのが、1階ホールに静かに佇む「スタンウェイ・ピアノ」。1898年に製造されたこのピアノは、深緑に金彩をまとったロココ様式の装飾が美しく、まさに芸術作品のような存在です。
長年、美術品として大切に守られてきたのち、現在は演奏会などでその音色を響かせることもあり、美術品でありながら、楽器としても生き続ける特別なピアノです。静かなホールの空間でその姿を目にすると、これから始まるアート鑑賞への期待がふくらみます。
一番印象に残っているのが、4階に展示されていた油彩《ザ・コンサート》。正直、美術に詳しいわけではないけれど、「きれい」でも「すごい」でもなく、まるで絵の中から音が聞こえてくるような、不思議な感覚で、ひきつけられる様に見入ってしまいました。落ち着いたブルーを基調とした展示室の正面で、この一枚は静かに、けれど力強く存在していました。
ブルーの壁に並ぶリトグラフが、まるで物語のページをめくるように次々と目を引きます。
3階で目を引かれたのは、美術文芸誌『ヴェルヴ』に掲載されたリトグラフ。とくに黄色を基調にした表紙絵は、何十年も前に描かれたとは思えないほどモダンで、壁にかけられているのを見て「今の雑誌のカバーみたい」と驚きました。
2階には、シャガールが旧約・新約聖書を題材に制作したモノクロの版画シリーズ「 バイブル」が並びます。
登場人物の表情や物語の場面が、色を使わずとも柔らかく、静かに語りかけてくるようで、見ていると心が落ち着いていくのを感じました。聖書をあまり知らなくても、その中にある祈りや物語のぬくもりが、時空を超えてじんわりと伝わってきます。
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館内の壁に掲げられた、マルク・シャガールの言葉。「心を込めて創り出したことは、頭でひねって作ったものよりも価値がある」この一言に、彼の芸術観が凝縮されています。
完璧さを求めすぎず、正しさに縛られず、「感じるままに、心で向き合うこと」が、どんな表現や日々の営みの中にも意味を持つ。これは芸術家に限らず、私たちの日常にも通じるメッセージではないでしょうか。
この言葉に触れたとき、完璧さよりも“心を込めること”を大切にすればいいのだと気づかされ、少し肩の力が抜けるように感じました。
美術に詳しくない私でも、気がつけば、作品の前で静かに立ち止まり、色や言葉に引き込まれていました。難しく考えなくても、ただ感じたままでいい。そんな優しさに包まれた美術館でした。
場所
アガペ大鶴美術館(AOM)
(西宮市甲山町53番地4号)
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
入場料
一般 2,000円(税込)
大・高生 700円
中・小生 500円
65歳以上 1,400円
※障碍者手帳掲示で無料
休館日
火曜日(祝休日の場合は開館、翌日休館)
※年末年始、整備休館など臨時に休館及び開館することがあります
駐車場
あり(無料)
問い合わせ
0798-73-5111