介護のピンチを解決! 認知症の方の「帰りたい」に隠された本心とは
ご自身やご家族の介護について、不安を感じることはありませんか? もしそうなら、この一冊があなたの心強い味方になるかもしれません。予約が取れないと話題の介護施設「くろまめさん」を運営する稲葉耕太さんの著書(KADOKAWA)。この本では、介護の中で直面する予期せぬ「大ピンチ」に、どのように向き合い、乗り越えていくかのヒントが具体的に紹介されています。稲葉さんのユニークな「めっちゃ笑える介護!」という視点を取り入れることで、日々の介護が、きっと今よりもっと心穏やかで、笑顔の多い時間へと変わっていくはずです。
※本記事は稲葉耕太(くろまめさん) 著の書籍『介護の大ピンチ解決します』から一部抜粋・編集しました。
家にいるのに「帰りたい」
「うちはここでしょ」と説得しても通じないんですよねぇ
自宅にいるのに「うちに帰りたい」と言われて戸惑う――。これもまた介護をしている人なら一度は直面する事態でしょう。「うちはここでしょ」と、いくら理屈で説明をしてもわかってもらえない......。くろまめさんにもそういう方がいます。
太一さん(84歳)の口癖は「家に帰りたい」。くろまめさんにいるときだけじゃなく、自宅にいるときもしきりにそう言ってはリュックに荷物を詰め込みます。
ご家族は、太一さんが外へ出ようとするのを引き留めますが、そうされればされるほど太一さんは興奮して「帰りたい!」と訴えます。あるときなど、ひとりで出かけて迷子になり、交番で保護してもらったことも。
そこである日、太一さんが「家に帰りたい」と言い出したとき、僕は「じゃあ一緒に帰りましょうか」と共にくろまめさんを出ました。すると太一さんは自宅方向ではない道を、すたすた歩きはじめました。
足腰の丈夫な太一さんは僕よりも速いくらいのペースで、くろまめさん周辺の農道を、しっかりとした歩みで進んでいきます。僕は黙って彼についていきました。太一さんの頭の中には今、どんな思いがあるんだろうなあと考えながら。
30分ほど歩き続けると、前方に喫茶店が見えてきたので、「お茶でも飲みませんか?」と太一さんに声をかけました。僕たちはアイスコーヒーをゆっくり飲んで休憩してから、「そろそろうちに帰りましょうか」と太一さんに促すと、彼はすっきりとした顔つきで、
「うん。帰ろう」
そして僕たちは来たときよりものんびりとした歩調で、くろまめさんに帰りました。
それ以来、太一さんが「うちに帰りたい」と言い出したら、スタッフの誰かが太一さんと一緒に散歩をするようになりました。
ピンチを分解
「うちに帰りたい」というのは「どこかへ行きたい」という気持ちのあらわれなのだと思います。太一さんの場合は、自宅やくろまめさんの中にずっといることにストレスが溜まって、その思いを「帰りたい」という言葉で表現していたのではないかな、と。ただ、本人の意識の中でそれが「外出」という言葉と結びついていなかった。
もし今度お年寄りから「帰りたい」と言われたら、「コンビニに行かない?」とか「ちょっとお茶でも飲みに行かない?」と口実を作って散歩に誘ってみてください。しばらく外を歩くと、ふしぎと落ち着く場合も多いです。もしも相手がひとりで歩きたい様子だったら、少し離れて、後ろからついていくのがいいでしょう。「ここが家だから!」とガチンコでぶつからず、しょうがないなとやり過ごすことも大切です。
※本記事に掲載されている情報は2025年4月時点のものです。掲載の内容には細心の注意を払っておりますが、万が一本記事の内容で不測の事故等が起こった場合、著者、出版社はその責を負いかねますことをご了承ください。