先生や経験者のアドバイスに心が揺れて。「通常学級か、特別支援学級か」直前まで迷った就学問題【読者体験談】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
直前まで就学先に悩み……。知的障害特別支援学級に通う小学1年生の息子
DQが82で境界域の小学1年生の息子は、現在知的障害特別支援学級に在籍しています。問題もなく、毎日楽しく通学しています。
交流級と特別支援学級、だいたい半々くらいで過ごしているようですが、やはり息子は特別支援学級を自分の居場所と感じているようです。ですので、就学先選びはうまくいったのではないかと非常に満足しています。
このように結果からみれば正解だった選択ですが、息子の就学先をどうするかについては直前までかなり悩みました。比較的早くから「息子には特別支援学級が合っているだろう」と思っていたのですが、それでも周りの意見を聞いたり、学校見学、就学相談する度に「本当にいいのかな」と揺らぐ気持ちはなかなか消えなかったのです。
そんな就学にあたってのわが家の体験談です。少しでも皆さんの参考になれば幸いです。
先生からの「通常学級でもいけるかも?」、知人からの「楽なほうに行くと、どんどんそっちに流れる」。さまざまな意見を聞いて
私は、息子が年中の時点から、特別支援学級を視野に入れていました。ですが、周りの方の意見はさまざまで、「本当に特別支援学級がいいの?」という思いは浮かんだり消えたりと、最後までかなり悩みました。
まず先生方の意見もさまざまでした。
息子のこども園で発達支援センターとの窓口役をしてくれていた先生からは、「●●くんはできることが増えてきたので、通常学級でも問題なく過ごせるのでは?」と言われていました。一方、息子の発達検査をしてくれていた発達支援センターの担当者の方は「正直、迷うところです」とのこと。プロの方の意見が合わず、いったいなにを基準にしたらいいかとても悩みました。
また、知人の発言も私を揺さぶりました。
息子の就学先で悩んでいる頃、よく行くお店のなじみの店員さんに、ついポロッとその話をしました。すると、偶然にもその店員さんの娘さんが特別支援学級に通っているとのことで、熱心に話を聞いてくれました。
「で、あなた的には、どっちがいいと思ってる?」と聞かれたので、「息子の特性を考えると、知的障害特別支援学級が合うのではないかという気がしている」と答えたのですが、それに対して、その人から「でも、最初から特別支援学級を考えてるのって、子どもに楽をさせていることになりませんか?」と言われたのです。
その方は、娘さんが小学校高学年のとき、担任の先生から特別支援学級への転籍を進められ、それを機に受けた知能検査の結果も踏まえて転籍したのだそうです。ですが、そのことに今も納得していないようで、「中学校でも特別支援学級に進むと、進学の幅が狭くなる可能性もあるから、中学校では通常学級に戻したい」という思いがあるようでした。なので、息子の子ども園の先生が「通常学級でもいけるのでは?」と言ってくれているのに、私が特別支援学級という選択肢も視野に入れているのが受け入れられなかったのだと思います。
私はその人の考えに影響されることはなかったのですが、特別支援学級を選択することが「子どもに楽をさせること」だという言葉は嫌な感じに引っかかりました。多分、そういった考えは、子どもをとりまく社会に少なからずあるだろうと実感したこともあり、余計に引きずってしまったのだと思います。
その後、夫にその話をしたら、「仮に楽させていたとしても、別に良いのでは?今の息子がどこならより良く学べて、学校生活を楽しめるかで決めれば良いと思うよ」と言われ、その通りだなと思いました。
また、公立中学校で教員をしている友人にもその話をしたら、「通常学級に入っても、その環境が子どもに合わない場合、二次障害で不登校になり苦しむこともある」とも言われました。
私が信頼する二人もそう言っているんだし……と、改めて特別支援学級という選択を前向きに捉えることができました。
学校見学、聞けばよかったと後悔していることと、息子の残念な反応
見学は通常学級と特別支援学級の見学に行くことになったのですが、今も後悔していることがあります。
小学校の見学を申請する際、見学したい学級を選択する必要があり、私は「通常学級」「知的障害特別支援学級」「自閉症・情緒障害特別支援学級」のすべてを選択していたのですが、こども園の先生から「自閉症・情緒障害特別支援学級の見学は必要ないと思います」と言われ、「あ、そうなんだ……」と思って素直に従い、その後、息子の就学先を「通常学級」か「知的障害特別支援学級」かの二択に絞りました。
結果的に、うちの子には知的障害支援学級が合っていたと思うので良かったのですが、なぜ「自閉症・情緒障害特別支援学級の見学は必要ない」という判断だったのかは、確認すべきだったと思いました(こども園の先生がいい方だったので、面倒な親だと思われたくないという思いが働いてしまいました)。今でも後悔はあるので、みなさんは気になること、なぜ?と思うことはしっかりと聞き返すことをお勧めします!
また見学で息子の反応を参考にしたいと考えていましたが、息子がかなり場所見知りをしてしまいました。通常学級、特別支援学級両方とも見学を嫌がって、ものの数分で帰りたいと言いだしたため、結局見学は私だけですることになってしまいました(その間、教頭先生が教室の外で息子の相手をしてくださいました)。このような場合は、2度目、3度目の見学を希望すれば良かったと思っています。
「私の言ったことで息子の進路が決められてしまう?」緊張の就学相談
そしてついにやってきた就学相談。私の住んでいる市の就学相談では、息子が担当の方と遊んでいる間、保護者とこども園の先生が相談担当の先生方(公立小学校の特別支援学級の先生、公立中学校の特別支援学級の先生、特別支援学校の先生の3人でした)と話をするシステムでした。
細かな質問項目は特になく、割と自由に喋る感じだったので、「私の言ったこと(言わなかったこと)で息子の進路が決められてしまうのでは」と不安でした。あとで振り返って、「息子のできることよりもできないことのことばかり言い過ぎてしまったのでは……」とも感じました。
そして待ちに待った自治体からの答申結果。緊張しながら見てみると、「知的障害特別支援学級が望ましい」というものでした。自分でもこれが息子にとって最善の選択肢だと分かっていたのにもかかわらず、答申結果を見て少し落ち込んでしまったのが、われながらめんどくさい奴だと思いました。
でも、夫と「今の息子にとってベストと思える選択を前向きに考えよう」と話し合い、知的障害特別支援学級の在籍を決めました。
「あれだけ悩んで出した結果だから!」と納得できた進路選択
息子は楽しく通ってくれるだろうかとドキドキしていましたが、実際に小学生になり楽しそうに登校する姿に心から安堵しています。当時はあんなに悩んだのに、あるいは、あれだけ悩んだからか、今は息子に合った選択ができたことにとても納得できています。
これからもきっと悩んだり迷ったりする場面はあるでしょうが、悩みつくし気になることは遠慮をせず聞いて、息子の幸せな毎日を守る選択をしていけたらと思います。
イラスト/ネコ山
エピソード参考/苗
(監修:井上先生より)
知能指数や発達指数が境界域にある場合、通常学級か特別支援学級かは悩ましい選択です。特別支援学級を考えられる場合、自閉症・情緒特別支援学級と知的障害特別支援学級の二つの違いを理解し、実際に両方の学級を見学させてもらうのがお勧めです。これらの在籍は変更することも可能ですが、中学校の特別支援学級選びの中で、自閉症・情緒の特別支援学級を選ぶのか、知的障害の特別支援学級を選ぶかは、そのカリキュラムの違いから高校進学にも影響してきます。発達レベルや学習の意欲、本人に合わせた柔軟な教育が可能か、将来の進路なども含めて総合的に考えていくのがよいと思います。地域によって違いがあるので、先輩の親御さんたちの情報も参考になるかもしれません。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。