支援が途切れる!?発達グレー娘の「18歳の壁」。成人支援移行での診断書トラブルで不安が募り…【読者体験談】
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
障害児から障害者へ。グレーゾーンゆえ?いまだ続くトラブルを抱えるわが家
私の娘は現在18歳、大学1年生です。小学校1年生の6月、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)のグレーゾーンと指摘をされました。周囲への気遣いができる優しい子ですが、片付けが苦手で時間感覚も乏しく、高校時代は遅刻が多くなりました。
さらに、パニック障害もあり、過度な緊張で負荷がかかると過呼吸や自傷行為(自分の頭を叩いたり、腕に噛みついたり、髪を抜くなど)に至ることがあります。実際、入試などの大きなテストでは過緊張になり、パニックを起こしてしまうことが何度かありました。
娘が18歳になったのは高校3年生の秋。その誕生日を境に、市の障害福祉の支援が「子ども対象」から「成人対応」に切り替わることになりました。しかし、その切り替えに関して、思いがけないトラブルが起きてしまいました。今回はその時の経験と、感じている「18歳の壁」の現状についてお話しします。
事前連絡なしでの診断書依頼に主治医が激怒
娘が18歳を迎えた昨年秋のことです。その時、私たち家族には何の連絡もないまま、市役所から娘のかかりつけ医に、通所受給者証の障害者区分変更のための診断書依頼書が直接送られてしまいました。私たちがそのことを知ったのは、主治医からの電話がきっかけでした。
「◯市から診断書の提出依頼が届いているが、これは何のための診断書で、何に使われるのですか?」
私たちも全く事情を知らなかったため、急いで障害者支援センターに連絡。しかし、センター側も市の動きを把握しておらず、センターから市役所に連絡してもらいました。
後日、市の担当者から「通所受給者証が障害児から障害者に切り替わるタイミングのため、新たに診断書が必要だった」と説明を受けました。娘は小学校6年まで放課後等デイサービス(以下、放デイ)を週3回利用し、中学入学と同時に卒業。高校1年で中高生向けの放デイを一時利用しましたが、学業の忙しさや体調不良から途中でやめています。また、わが家には2歳下の発達障害のある息子もおり、息子の激しい癇癪が止まらなかったときの事を考えて娘の緊急避難先としてショートステイの契約も結んでいました(しかし娘が実際にショートステイを利用したことはありませんでした)。
そういう状況でしたので医師には「ショートステイの契約継続のため診断書が必要なんです」と伝えたのですが、「今まで娘さんはショートステイを利用しましたか?利用していないのなら、契約継続の必要はありません。私は診断書は書くつもりはありません」と断られてしまいました。
実際にショートステイを利用していないことは事実なので、医師の言うことが正しい事は分かります。しかし市役所から保護者に一言連絡があれば、医師とも事前に相談し状況を整理したうえで話ができたので、こうした混乱は避けられたのではと思います。
市の担当者から医師へどのような連絡が行ったのかについて詳しいことは分かりませんが、嘆いてもすでにどうにもなりませんでした。
診断書をめぐる停滞
その後、障害者支援センターから「今後、就労支援など福祉サービスを受ける際には診断書が必要になります」と説明を受けたため、私たち親も、改めて医師に依頼を試みましたが、返ってきた言葉は「必要になったら書きます」。
市役所と支援センターにも相談し、「親からの依頼では難しいため、市側で医師に改めて説明してもらえないか」とお願いしました。しかし、医師は、手続きの不備(=市からの一方的な診断書依頼)に大いに怒っており、いまだに問題は宙ぶらりんのままです。
この診断書がなければ、娘が将来必要とする可能性のある福祉サービスが受けられない……必要な時には書いてもらえるとはいえ、そのタイミングで遅くないのかなど不安な気持ちがないとは言えません。
クローズで就労希望?将来への不安が消えない
娘は将来、クローズ(障害を開示しない)での一般就労を希望しています。ただ、朝にとても弱く、一人で起きるのも困難なタイプなので、仮にクローズ就労ができたとしても、体調や精神的な負担から継続できない可能性もあるのではないか……不安を感じているのも事実です。市の担当者の方も医師も悪意がある訳ではありません。ですが、「説明がない」「連携がない」ことで、将来への準備が進められない現状をつらく感じています。
娘が通っている大学は、障害学生支援が充実しており、就労に向けたサポート体制もあります。そこまでは見通しがついているのですが、社会に出た後の継続的なサポートが受けられるかどうかは、診断書問題もあるため不透明です。まだ大学1年生。先のことを焦る必要はないのかもしれませんが、支援が必要な子どもたちにとって、「支援があるうちにできる準備」を進められない環境は、障壁になると痛感しています。
これまで娘を守ってくれていた診断書がなくなったこと、それに加えて大学卒業後の支援の途切れが、わが家の感じる「18歳の壁」です。個人で頑張って情報を集め、手続きを進めるしかない状況に「このままでいいのか?」と疑問と葛藤を抱えている日々です。
イラスト/マミヤ
※エピソード参考者のお名前はご希望により非公開とさせていただきます。
(監修:室伏先生より)
貴重なご経験を共有してくださり、ありがとうございます。18歳を境に支援体制が変化する中で、ご家族の不安やご苦労がひしひしと伝わってきました。支援の移行期こそ、スムーズな引き継ぎと丁寧な連携が求められるにもかかわらず、それがうまく機能しなかったことで、支援の継続が危ぶまれるような状況に置かれてしまうこと自体が、本来あってはならないことだと感じます。
今後の支援を安心して受けていただくにあたって、もしこれまで小児の専門の先生の診療を受けていらっしゃったのであれば、成人の精神科への移行も含めて主治医を変更するということも考慮に入れてみてもいいかもしれません。小さい頃からずっと長くわが子を診てくれてきた主治医を変更することには、大きな不安や抵抗感を感じられる親御さんも少なくないと思います。しかし、医療機関にもよりますが、発達障害のお子さんの診療を担う医師は、小児科や児童精神科、小児神経科などが多く、成人に適応される制度や支援などに対する理解が不十分であったり、成人期以降の精神的な支援(就労や結婚など、小児期とは異なるライフステージの課題があります)や薬物治療などに関して経験が少ない場合もあります。私自身も、18歳以降の患者様には成人の精神科への移行をお願いしています。もちろん、小児期から引き続き、成人期以降も適切にサポートをしてくれる先生もいらっしゃることと思いますので、主治医の先生とも十分に相談された上で決めていただくのがよいかと思います。
娘さんが自分らしく、無理のない形で社会に踏み出していけるよう、そして支援がきちんと“つながっていく”仕組みが整いますよう、心より応援しております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。