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波乱と歓喜、新たなモータースポーツ体験が東京に

PARCFERME

photo: J.ハイド 赤旗中断後のピットロードの出口から。セイフティカーと毎レースで上位陣に食い込む力のあるポルシェ同士が並ぶ

開幕戦は波乱の予感

2024年12月、フォーミュラEの新シーズンはブラジル・サンパウロで幕を開けた。サンパウロはブラジル経済の中心地でありながら、治安の面では不安視されることもある都市だが、中心街の明るい時間帯では、身の危険を感じることは一切なく、実際に女性が一人で歩く姿も普通に見かけられるほどだった。ただし、現地での移動には公共交通機関を利用せず、主にUBERを活用するスタイルを取った。

市街地で最もよく目にするのは、韓国・日本・アメリカ製のコンパクトカーやリッタークラス車両で、カローラクロスのような小型SUVはもはや高級車の類として扱われるお国柄だ。UBERのドライバーはMT車を上手にドライブし、小型車のためか交差点で物乞いに囲まれるリスクも少なく、高級車よりかえって安全だと感じられたのも興味深い。

開幕戦の舞台は、毎年のカーニバルで知られるサンパウロの中心部エリアに設定された市街地コース。全長約2.93kmの舗装面にはかなりばらつきがあり、各チームはコースウォークの時間を使って、路面状態をレーザー機器などで細かく計測していた。

筆者自身も実際にコースを歩いたが、市街地特有の非常に狭いコース幅、直角に近い鋭角コーナーが各所に見られ、視覚的にも直感的にも、レース中に何らかの波乱が起こる予感を強く抱かせた。

1日目のプラクティスは無事に終了し、心配された豪雨も回避。迎えた12月7日の予選・決勝日は快晴に恵まれた。予選では、マドリードテストで好調を示していたポルシェ勢が順当に速さを見せ、2台が上位を占めた。さらに、昨シーズン後半から勢いを増しているニッサンのオリバー・ローランド、そして同じニッサン製パワーユニットを搭載するマクラーレンも上位に食い込んだ。

意外だったのは、昨年コンストラクターズチャンピオンを獲得したジャガーが2台とも予選序盤で脱落したことだ。そのうちミッチ・エヴァンスは、なんと最下位グリッドからのスタートを余儀なくされたのである。

photo: J.ハイド テールのデザインはLEDが対角線を描いているのがフォーミュラEのマシンの特徴。タイヤのカラーラインも加わって独特の迫力と表情を見せる
photo : J.ハイド 開幕戦から第4戦まで振るわなかったローラ ヤマハABTだが、先日のマイアミでの第5戦でカーナンバー11のルーカス・ディ・グラッシが2位表彰台に

奇跡の逆転劇と衝撃クラッシュ

決勝では、最下位スタートだったミッチ・エヴァンスが、混戦をかき分けるような力走を見せ、奇跡ともいえる逆転優勝を果たした。さらに、マクラーレンのルーキー、テイラー・バーナードがデビュー戦にもかかわらず堂々の3位表彰台を獲得するという、まさにドラマチックな展開となった。

photo: J.ハイド 上位2車が姿を消す中、ミッチ・エヴァンスが最下位から猛然と追い上げた。

これにはもう一つの大きなアクシデントが絡んでいる。昨年のワールドチャンピオン、今回もポールポジションと好調だったパスカル・ウェーレインが、トップを争うなか、後続のジャガー、ニック・キャシディのマシンと接触。コーナーの出口でタイヤが乗り上げ、完全に横転する事態となったのだ。

会場に設置されたモニターでも、ハイスピードで運転席丸出しのマシンが真っ逆さまになる事故の映像が流れ、誰もが息を呑んだ。しかし、幸いパスカルの身体的なダメージは少なく、次戦から復帰できる状態であるとの速報が流れた。

上位2台のリタイアと、2度の赤旗中断という波乱の末に幕を閉じた開幕戦。表彰式で驚いたのは、ブラジル色を出す演出だ。表彰台がサンバのカーニバルと共に移動しながら現れたのだ。フォーミュラEはSNSでの発信を一層強めており、この演出もその一環だったように思われる。

しかし、何よりも赤旗中断2回というシビアなレース、最下位からの逆転優勝、そしてデビュー戦で表彰台というスーパールーキーの登場で、現地でもSNSでも大いに沸いた開幕戦であった。

photo : J.ハイド 前日に表彰台を探したがついに発見できなかった。それがレース終了後、サンバとともにストレートに現れた。

「君が代」が奏でられた第2戦と第4戦

開幕戦の興奮も冷めやらぬなか、1月には第2戦がメキシコシティで開催された。舞台となったのは、F1グランプリでも使用されるエルマノス・ロドリゲス・サーキットを特設レイアウトに変更したコース。標高2,300mという世界屈指の高地に位置し、エンジン車では空気の薄さへの適応が求められる難所だが、フォーミュラEは100%電動ゆえに、パワーユニットに関しては影響が無いに等しい。トータルでのパワーマネジメントが問われることとなる。

この決勝で気を吐いたのは、そのマネジメント力に優れると言われるニッサンのオリバー・ローランドだ。実は、メキシコでは1966年から現地生産を開始しているニッサンが長年にわたりトップシェアを誇り、アルティマ(日本名ティアナ)などがタクシーとして広く普及。SUVのキックスもピカピカの状態で走っており、ブラジルと同様に、コンパクトSUVが「高級車」の位置づけにあると感じる。

サーキットにはニッサンの大型PRブースに加え、スタンドに応援席も設けられ、多くの地元ファンが声援を送るなか、オリバー選手は決勝でグリッド4位からスタート。終盤で首位のポルシェを抜き去るという会心の走りで見事な優勝を遂げ、メキシコシティの会場は異様な興奮に包まれた。

試合後のインタビューで、オリバー本人はセーフティカーの入るタイミングが勝利をもたらしたと語っていたが、実際にその走りはコーナー一つ一つが丁寧かつ速いもので、その積み重ねが結果に結びついたと言えるだろう。結果、昨年7月のロンドン最終戦と同じく、表彰式ではチームに敬意を表して「君が代」が流れた。

photo :J.ハイド 他のドライバーがジャンプするようなコーナーも、丁寧に走るオリバー・ローランド。

2月にはサウジアラビア・ジェッダでダブルヘッダー(第3戦・第4戦)が実施された。F1と同じ市街地サーキットながら、全長3001mのショートレイアウトだ。

ここジェッダは、メッカへの玄関口として知られ、治安も良く、深夜まで活気にあふれた街。厳格なイスラム教文化に基づく厳しい法律により、窃盗などの犯罪率も極めて低い。ここでもブラジルやメキシコと同様にUBERで移動したが、渋滞のため配車をキャンセルしても確実に返金されるなど、時間はかかるが安心感に満ちた移動であった。

それもその筈で、窃盗は手首切断にあたる重罪。厳しい禁酒や1日5回の礼拝も含めて、イスラム教がこの地で根付いた事で、多くの人々は犯罪と無縁なのであろう。産油国であるという恵まれた背景を理由に、都市部では今や非常に安心で日本の並みの豊かな生活を実現している点にも驚かされた。

今一度、レースに話を戻そう。第3戦では、新たに導入された30秒間のピットブースト義務化レースで、マクシミリアン・ギュンター(DSペンスキー)が今季初勝利を飾った。2位には再びローランド、3位にはまたもやルーキーのテイラー・バーナードが食い込んだ。

photo: J.ハイド 第3戦を制した、マクシミリアン・ギュンター。コーナーではフロントを大きく浮かせ、かなりアグレッシブだ。
photo: J.ハイド バックストレートを駆け抜けるオリバー・ローランド。
photo:J.ハイド 同 じくテイラーバーナード。大きなコーナーの手前でハイスピードから急減速となる。

実はオリバー・ローランドとテイラー・バーナードの2人は師弟関係でもあり、フォーミュラーEにデビューするまでのさまざまな助言をオリバーが与えたという。

そして続く第4戦ではこの2人が一騎打ちのレースとなった。バーナードが予選で堂々のポールポジションを獲得。国際モータースポーツにおいてルーキーが初年度でポールを取ること自体が極めて異例であるなか、唯一1分14秒台のタイムを記録する圧巻の走りだった。

決勝では、師弟関係にあるオリバー・ローランドとの激闘の末、2位に甘んじたが、ここまでの結果により、ドライバーズランキングでも2位につけるなど、驚異的な成績を収めている。マクラーレンのチーム体制と共に本物の強さが伺われ、第5戦以降のレースが楽しみとなる驚異のルーキーが誕生したのだ。

photo:J.ハイド 参戦4戦目にして、初のポールに輝いたテイラー・バーナード。彼の公式インスタグラムでもこのカットが使用されている。
photo: J.ハイド 上位を争う常連となりつつあるテイラー・バーナード。コーナーの先をしっかり見据えるのがファインダー越しに伺える。

モータースポーツの新たな体験を東京・有明で

フォーミュラーEを、レース結果とは違う「イベント」の視点で見てみよう。

メキシコシティでは、「BYD」がレース未参戦ながらニッサンやポルシェに匹敵する巨大ブースを設け、ジェッダでは中国EV大手「CHANGAN」が試乗イベントを実施していた。今後、こうした新興勢力がレースに正式参戦する日も遠くないだろう。

また、日本勢ではローラ・ヤマハABTが今季から新たに参戦開始。第2戦ではゼイン・マロニーが予選9位と輝きを見せた。また、マクラーレンの車体にTDKロゴが大きく掲出されているほか、多くのチームに日本企業が何らかの形でスポンサードしているのもフォーミュラEならではだ。日本選手こそまだ参戦してないものの、かなりの部分で日本企業が支えている国際レースイベントだと言えるだろう。

今シーズンのフォーミュラEは、4月のマイアミ、5月初旬のモナコ開催を経て、5月17/18日に東京にやってくる。昨年と同様に交通アクセスの良い有明のビックサイトを中心とした特設コースで開催されるダブルヘッダーだ。フォーミュラE独特の音・匂いをを含め、新たなモータースポーツを体感できる。まさに海外テーマパークが2日間だけ東京に出現する感覚だ。

photo: J.ハイド 5月の東京大会のチケット一般発売のPRとして都庁で開催されたプレスイベント。フォーミュラEのジェフCEOも来日した。

筆者の経験から言うと、FIAが主催するモータスポーツイベントは、どの国に行っても欧州の雰囲気を味わえる。そして今シーズンのニッサンの戦績からすれば、その中で日本の国歌が流れる可能性が大きいのである。

チケットは4月現在でまだ完売には至っておらず、時間帯さえ考慮すれば公共機関でのアクセスも快適だ。
新次元のモータースポーツイベントが体験できる絶好の機会。それを見逃さない事を強くお勧めしたい。

photo: J.ハイド シーズン11の序盤はトップとなったオリバー・ローランド。東京でも「君が代」が聞けるだろうか?

J.ハイド
写真家、ライター、ドローンパイロット。広告会社で大手企業の担当をする傍ら、ドローンなど最新の撮影技術を学ぶ。
現在は、フリーランスとしてFORMULA EでFIA公認フォトグラファーとして撮影を重ねる一方、
イタリアPHOTO VOGUE、スウェーデン1x.com に認定され、ポートレート作品が掲載されている。
新車の発表があるとディーラーで試乗も楽しむ一般目線の車好き。ランチア、アウディ、BMW、ボルボなど9台を乗り継ぎ、
2022年初代レクサスNX 200tに乗り換える。ニコンとライカのミラーレス機を駆使してココロが動く写真を追求している。

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