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九大発の「アミン含有ゲル」技術  CO2回収のエネルギーコストを大幅削減 JCCL

TECHBLITZ

温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」の達成に欠かせない二酸化炭素(CO2)回収技術が、さまざまな形で模索されている。そうした中、福岡市に拠点を置くJCCLは、九州大学で開発されたアミン含有ゲルに関する特許や技術を活用し、CO2回収や利活用を低コストで提供する事業を展開。CO2回収にかかるエネルギーコストを大幅に削減する同社の技術の強みや事業戦略、今後のビジョンについて代表取締役CEOの梅原俊志氏に話を聞いた。

<font size=5>目次
技術者集団スタートアップの経営課題解決のため参画
JCCLのCO2回収技術の強みは?
スケールアップを念頭に置いた提携を模索
シリーズB調達後に海外展開を予定

技術者集団スタートアップの経営課題解決のため参画

―社外取締役としてジョインされた経緯を教えてください。

 もともと私は日東電工で技術畑を歩んできたエンジニアでして、2021年に三菱UFJ銀行とVCのICJ(インクルージョン・ジャパン)が共同で立ち上げたESGアクセラレータープログラム「MUFG ICJ ESGアクセラレーター」の審査員を務めていました。そこに参加していたのが、九州大学で研究されたCO2分離・利用技術の社会実装を目的とした「日本炭素循環ラボ」でした。同年のプログラムでは協賛企業賞を受賞するなど、その技術は高い評価を受けました。この会社が現在のJCCLです。

 2022年8月に同社がICJと、VCのQBキャピタルから1億円の資金調達を実施した際、VC側から私に声をかけていただいたんです。最初は月1回のオンライン相談から始まって、社外取締役への就任、そして2023年4月のCEO就任へと発展していきました。社名を「日本炭素循環ラボ」から英語名の略称だった「JCCL」へ変更したのは、私の提案がきっかけです。

―どのような課題の解決を期待されていたのでしょうか。

 創業チームは、九州大学の星野友教授を中心とした技術者集団で、優れた技術を持ちながらも事業経験に乏しいという課題を抱えていました。星野教授が開発したアミン含有ゲルによるCO2回収技術と選択的透過膜によるCO2回収技術という2つの技術を基盤とした事業化を加速させるため、企業経営の経験豊富な人材の参画をVCから求められていたことが、私が参画した背景にあります。技術シーズを事業化するという、日本のディープテック企業が直面する典型的な課題への対応が期待されていました。

―実際に参画されてから見えてきた課題は何でしたか。

 大学の研究環境では、チャンピオンデータと呼ばれる優れた実験結果の追求が重要視されます。論文や特許につながる画期的な成果を生み出すことが研究の目的で、そのアプローチ自体は決して間違いではないのです。

 しかし、事業化をするという側面においては、それと全く異なる視点が求められます。企業が求めるのは、同じ品質の製品を安定して継続的に供給できる技術です。そのニーズに対応するには、FMEA(故障モード影響解析)などの手法を用いて、材料、設計、装置、オペレーションなど多面的な観点からリスクを徹底的に洗い出し、それらを一つずつ解決していく必要がありました。

 もう1つ重要だったのが、パートナーシップの構築です。大学発のスタートアップは技術流出への懸念から、どうしても技術を囲い込む傾向にあります。しかし、今の時代では技術革新のスピードが非常に速まるとともに、参入障壁の高い技術が求められています。そのため、1つの組織ですべてをまかなうよりも、さまざまなパートナー企業と協力して互いに補完して完成度を高めるほうが重要になっています。この閉鎖的な姿勢を改め、適切なパートナー企業との協業関係を構築することが、事業化成功の鍵でした。

―CEO就任から約2年、その課題の現状を教えてください。

 現在はその2つの課題は、かなり改善されています。リスクを掘り起こしたうえで、解決策を探すというアプローチの重要性を理解し、企業でのビジネス経験を踏まえて指南できるメンバーもそろってきています。また、JCCLの持つ技術コンセプトに賛同したり技術を高く評価してもらい、自社での脱炭素の取り組みに活用したいと表面する企業や、JCCLに足りないリソースを補ってくれる企業も増えてきました。

梅原 俊志株式会社JCCL代表取締役CEO慶応義塾大学卒業。同大学院修了後、1984年日東電工株式会社入社。機械エンジニアとしてプロセス開発業務に従事、2010年にオプティカル事業部門長に就任しiPhoneビジネスに参入しスマートフォン市場拡大に貢献。2019年には代表取締役専務執行役員CTOに就任。2020年に退任後、上場企業の社外取締役、北海道大学理事や慶応義塾大学特任教授など多くの役職を務めながら、2023年4月より現職。これまでの幾多のキャリアで蓄積した経営力、知財戦略、幅広い人脈などをJCCLに惜しみなく注いでいる。

JCCLのCO2回収技術の強みは?

―JCCLの技術の基礎となる研究について教えてください。

 JCCLが持っている技術の核心は、九州大学の星野教授が開発した、2つの異なるCO2回収アプローチから構成されています。第1の技術は、工場の燃焼排ガスなど比較的高濃度(10%程度)のCO2を含む気体からの回収を目的としたアミン含有ゲル技術です。ゲル状の固体吸収剤を筒状のユニットに充填し、50度程度の工場の廃熱とわずかな圧力差を利用してCO2を回収する仕組みになっています。

 第2の技術は、2021年ごろにJAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同研究で開発された選択的透過膜技術で、宇宙船内のような、CO2濃度が比較的低い環境からのCO2回収を目的としています。この2つの技術を事業展開しようと動き出しましたが、現在は限られたリソースを工場排ガス向けのアミン含有ゲル技術に集中させ、事業化を推進しています。

―従来の技術や競合企業の技術と比較したときの優位性はどこにあるのでしょうか。

 競合はたくさんあります。新しい回収技術を開発している東大発・京大発のスタートアップもありますし、活性炭を使った回収方法や、CO2と結合しやすいアミン水溶液を用いてCO2を分離・回収する化学吸着法という以前からある技術、MOF(有機金属構造体)という新しい材料を用いて回収する技術もあります。海外に目を向けると、特殊な膜で空気中から直接CO2を回収するDAC(直接空気回収技術)があります。この分野ではアメリカの企業が先端を走っていて、すでに台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場では排ガス中のCO2を回収するシステムとして導入が決定しています。

 JCCLの持つ技術の最大の特徴は、回収に要するエネルギーコストを大幅に削減できる点です。従来のアミン吸収法では約4ギガジュール、MOFを使った吸着法でも約2ギガジュールのエネルギーが必要とされるのに対し、私たちの技術では数分の1のエネルギーで同等の回収が可能です。工場の廃熱を利用したり、わずかな圧力差で回収ができる技術により、コスト低減が可能になっています。

 この省エネ性能は、CO2回収技術の普及における最大の障壁であったランニングコストの問題を解決できます。多くの企業や自治体がさまざまな回収技術を試験導入するものの、運用コストの高さから継続的な採用に至らないケースが多いなか、私たちの技術は実用的な解決策を提供できると考えています。

―回収したCO2の活用方法について教えてください。

 回収したCO2を大気中に放出させない技術や取り組みをCCUS(CO2回収・利用・貯留)と呼び、利用(Utilization)や貯蔵(Storage)フェーズまでが一連の動きになりつつあります。しかし、回収後のフェーズはまだ市場が形成されていません。経済的合理性がなければ企業も取り組みづらいのです。

 そのなかで有望視されているのがCO2と水素からメタンを合成する「メタネーション」技術です。環境省のプロジェクトでガス会社に2030年までの利用を開始し、既存インフラへ合成メタンを1%注入するという年間導入量目標を設定しています。この実現に向けて、JCCLは西部ガスやIHIなどと協力し、当社の技術で回収したCO2を水素と合成するメタネーションの社会実装テストに取り組んでいます。

 また、独自に環境ビジョンを策定して、自社やサプライチェーンで生じるCO2の回収にコミットメントするうえで再利用を掲げている企業とのビジネスを模索している段階です。

image : JCCL VSS1(減圧蒸気スイープ型 膜分離性能評価装置)

スケールアップを念頭に置いた提携を模索

―事業展開および顧客開拓の戦略について聞かせてください。

 JCCLでは回収装置のメカニズムに関する部分、および回収するための吸収材料についての特許をグローバルで保有しています。メカニズムについてはオープン戦略を採用し、より多くの企業に技術を活用してもらう環境を整備しています。装置が増えていけばその稼働に必要な吸収材料のニーズも高まります。そのため、装置内で使用される吸収材料については、クローズド戦略により自社の競争優位性を維持しています。

 この戦略により、装置の普及拡大と材料供給による継続的な収益確保の両立を図っています。装置が普及すればするほど材料需要が増加し、メンテナンスサービスも含めた長期的な顧客関係を構築できる仕組みになっています。

―国内の大企業との提携・協業はすでに行われていますが、今後はどのような提携を検討していますか。

 2025年3月には、東洋製罐グループホールディングスおよび三井物産プラスチックとの三者業務提携を発表しました。東洋製罐グループホールディングスは、鉄、ガラス、プラスチックなど多彩な素材を扱っている企業で、同社での脱炭素取り組みにおける技術活用と同時に、エンジニアリング部隊と一体となりJCCLの装置の完成度向上とスケールアップ支援を提供してくれています。三井物産プラスチックは商社としてのマーケティング機能を担い、市場開拓と顧客開発を支援してくれています。

 現状のJCCLの装置で回収できる量は1日に数キロ単位ですが、近い将来には1日で1トンを超えるレベルにスケールアップするための実証を模索しながら進めています。そのフェーズになるときにはどのような事業母体で加速させるべきかを、先に考えておかなければなりません。そのために資本提携のような形も検討して取り組みを進めています。

image : JCCL VPSA1(減圧蒸気スイング型 CO2回収装置)

シリーズB調達後に海外展開を予定

―直近の目標および展望について教えてください。

 2025年初頭を目標としたシリーズB資金調達の準備を進めています。この次のフェーズにおける最大の課題は、限られたリソースで確実な実績を積み重ね、企業バリュエーションの向上につなげることです。国際展開についても、シリーズBのタイミングで本格的な検討を開始する予定です。CO2回収に対するニーズは世界共通であり、海外市場での事業展開は大きな成長機会と見ています。

 技術面では、大型装置の開発とスケールアップが重要な課題です。CO2回収ニーズはあるのに、顧客の求める規模が大きくJCCLの装置では小さすぎるというケースも多々あります。スケールアップによって、そのような需要に対応することで、新たなオファーやビジネスチャンスも生み出せると考えています。

image : JCCL HP

従業員数なし

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