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【「UNMANNED 無人駅の芸術祭 / 大井川」年間プロジェクト成果展(2024年度)】 茶畑がギャラリー。「大井川アートキャンプ」

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静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は2月15日に開幕した島田市川根町抜里地区ほかで行われている「UNMANNED 無人駅の芸術祭 / 大井川」(NPO法人クロスメディアしまだ主催)の2024年度プロジェクト成果展を題材に。(写真・文=論説委員・橋爪充)

東弘一郎さん「茶畑のサイクリスト」の背後をSLが通過する

2018年の初開催から7回の芸術祭開催を踏まえ、「UNMANNED 無人駅の芸術祭 / 大井川」の2025年開催は年間を通じて実施したアーティスト・イン・レジデンスの「成果展」という形式とした。

芸術祭の活動を通じて誕生した、アーティストと地元の人々の交流拠点となるゲストハウス「ヌクリハウス」を発信地とし、旧川根町抜里地区を中心にアーティスト12組による14作品を発表する。14作品には30日間の期間中に各地に固定される立体作品の他、演劇やパフォーマンスも含まれる。

盆地の茶畑から大井川鉄道の乗客への挨拶。小山真徳さん「てのひら」

初開催から7年も経過すれば、芸術祭を取り巻く環境や外的要因も変化するのが自然だ。一方で、変わらないものもある。防霜ファンが回る茶畑の濃い緑もそうだし、クロスメディアしまだの地域密着型アートの探求姿勢と、それを支える各地の人々の献身性である。この点については、開催を重ねるたびに強く、深くなっている実感がある。規模の拡大は最大の価値ではない。

寺山(通称「ぼいんぼいん山」)を180分の1スケールで形成したさとうりささん「本人」

今回は新しい試みとして「大井川アートキャンプ」が実施されていた。表現を学ぶ大学生、専門学校生ら6人が全国から集まり、ヌクリハウスで7泊8日滞在。フィールドワークや住民との交流を経て作品を作る。

芸術祭に初期から参加するアーティストで女子美大専任講師の西田秀己さんをメイン講師に迎え、民俗学者の赤坂憲雄さんや、昨年2~3月に静岡県立美術館で「天地耕作 初源への道行き」を開いた浜松市北部が拠点の美術家村上誠さんが特別講師として参加した。

旧川根町界隈の歴史、風土、産業、景観をインスピレーションとした作品は15日、茶畑を「ギャラリー」に見立てて公開された。作品は多岐にわたっていた。流木を削った立体あり、映像インスタレーションあり、墨書したたこや写真あり。

太田遥夏さん「筋、そしてマッスル」は茶畑の中に設けた円形のスペースで繰り広げる、自作詩の朗読。炭焼きをなりわいにした過去の産業風景や、大井川流域の習俗を織り込んだ。人と人の結節点を「筋」という言葉に込めていた。

自作詩を朗読する太田遥夏さん(左)

クロスメディアしまだの大石歩真理事長に芸術祭の方向性を聞くと、「深度を高める」というフレーズが出てきた。2027年に新しい形の芸術祭を開くべく、構想を固めているという。アーティスト・イン・レジデンスは一つのヒントとなるだろう。

寺山の頂上付近に設置された西田秀己さん「境界のあそび場Ⅳ/音の要塞」

「大井川アートキャンプ」は集落の「外」と「内」をつなげる新しい回路となった。こうした回路をいくつも実験し、積み重ねることで芸術祭の輪郭はより太くなっていくはずだ。

<DATA>
■「UNMANNED 無人駅の芸術祭 / 大井川」年間プロジェクト成果展(2024年度)
会場:島田市川根町抜里エリアほか
会期:3月16日(日)まで
作品の鑑賞時間:午前10時~午後4時
鑑賞料:無料
問い合わせ:NPO法人クロスメディアしまだ(電話0547-39-3666、E-mail:info.unmanned@gmail.com)

マリアナ・クレメンテさん(ポルトガル)、レネ・アバロアさん(メキシコ)のユニット「Peixz(ペーイシ)」の「茶畑で泳ぐ」。茶農家の作業と現代都市の風景を合体させた平面作品など
杉本製茶(島田市)へのリサーチを踏まえ、耕作放棄地の茶の木を活用して制作したTAKAGI KAORUさんの「茶ノ木もぐりに招待します」

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