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「シャトー・ムートン・ロートシルト」伝説の当主を讃えた2022年ヴィンテージのアーティストラベルを公開

ワイン王国

「シャトー・ムートン・ロートシルト」伝説の当主を讃えた2022年ヴィンテージのアーティストラベルを公開

フランス・ボルドー、ポイヤックの「シャトー・ムートン・ロートシルト」が、2022年ヴィンテージのアーティストラベルを公開した。伝説的な当主、故バロン・フィリップ・ド・ロートシルト氏の就任100周年を記念する特別なデザインだ。

シャトー・ムートン・ロートシルトのアーティストラベルは、1945年以来の伝統で、毎年、世界的な芸術家が手掛け、これまでサルバドール・ダリ、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホルなど、20世紀を代表する巨匠たちの作品が並ぶ。2022年のラベルは、フランスの現代美術を代表する画家ジェラール・ガルースト氏が手掛けた。

日本人アーティストもこれまで、重要な役割を果たしてきた。1979年、堂本尚郎氏が日本人として初めてラベルデザインを手掛け、その後、1991年には節子バルテュスさん、2021年には塩田千春さんと、3名の日本人アーティストがこの伝統に参加してきた。

1979年、堂本尚郎氏の作品を使ったラベル

芸術家の家系に生まれた堂本尚郎氏(1928-2013)は、日本の伝統的絵画を学んだ後、1952年にヨーロッパへ渡り、西洋美術に触れて従来の様式を脱却。抽象画風に転じ、「アンフォルメル」の美学から影響を受け、色彩の対比を重ねた「連続性の解」シリーズを制作。後期には「連鎖反応の可能性」で鎖と円のモチーフを流動的なリズムと鮮やかな色彩で表現。1979年のムートン・ロートシルトのラベルデザインは日本人アーティストによる最初の作品となった。

節子バルテュスさんは1942年に日本の武家の血を引く家に生まれ、西洋教育を受けながら伝統芸能も学んだ。1962年に画家バルテュス氏と出会い、ローマで結婚。スイスに移住後、本格的に画家として活動を始める。静物画を得意とし、緻密な線描と色彩で日常の物を生き生きと描く。1991年のワインラベルには、ブドウが花から実となり、収穫され、ワインとなる過程を独自の視点で表現した。

1991年、節子バルテュスさんの作品を使ったラベル
2021年、塩田千春さんの作品を使ったラベル

日本人アーティストの塩田千春さんが「Universe of Mouton(ムートンの宇宙)」と題して制作した作品は、豊かで輝かしい自然の前に人間は小さな存在として描かれている。4本の赤い糸は四季を表現し、それぞれが冬の孤独、春の希望、夏の豊かさ、秋の実りという感情を象徴している。塩田さんは、ワイナリーを訪れた際、シャトー・ムートン・ロートシルトが気候に従い、自然と人間の繊細なバランスを保っていることに感銘を受けた。ワインには年ごとの記憶が保存されているという考えは、物には記憶が宿るという塩田自身の芸術観とも重なり合っている。

今回ラベルを担当したガルースト氏は、バロン・フィリップの孫にあたるジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロートシルト氏との対話から着想を得たという。

「祖父の写真を見せてもらい、その存在感に心を打たれました」とガルースト氏は語る。

「優雅さと勤勉さを兼ね備え、自信に満ちた表情の中にも、いたずらっぽさが垣間見える。その魅力的な人物像を捉えたかったのです」

「シャトー・ムートン・ロートシルト」のラベルデザインは、単なる装飾を超えて、ワインの品質とブランド価値を高める重要な要素となっている

作品は、深紅の背景に青を基調とした構図で、バロン・フィリップ氏の肖像と、シャトーの象徴である雄羊、そして館の正面ファサードが描かれている。雄羊は、バロン・フィリップ氏の星座(牡羊座)であると同時に、「ムートン(羊)」の名を冠する館の象徴でもある。

実は、バロン・フィリップ氏は1981年に出版した自叙伝「生きるぶどう樹」の中で、「自分の就任100周年を誰かが祝ってくれるだろうか」と問いかけていた。その願いは、41年の時を経て、見事に叶えられることとなった。

バロン・フィリップ、バロネス・フィリピーヌ夫妻

バロン・フィリップ氏は、20歳でシャトーの経営を任された1922年から、従来の慣習を打ち破る革新的な取り組みを次々と実行した。それまで一般的だった、ネゴシアン(仲買人)に樽売りする方式を改め、シャトーでの瓶詰めを実現。品質管理の徹底と、ワインの個性の完全な保持を可能にした。

さらに意外な一面として、バロン・フィリップ氏は優れたヨットマンでもあった。1928年のアムステルダム五輪にフランス代表として出場し、1937年には「フランス・レガッタ・カップ」を制している。この功績を記念し、2022年ヴィンテージのリリースに合わせ、特別なオークションも開催される。

出品されるのは、2022年ヴィンテージのさまざまなフォーマット(通常ボトル6本、マグナム3本、ダブルマグナム1本、アンペリアル1本、ネブカドネザール1本)に加え、二つの特別な体験が含まれる。落札者は2025年末に行われる2023年ヴィンテージのラベル発表会への参加権と、国際ヨットレース「SailGP」のVIP観戦権を獲得する。オークションの収益は、フランスの海難救助組織SNSMに寄付される。

右からカミーユ・ド・ロートシルトさん、フィリップ・スレイ・ド・ロートシルト氏、ジェラール・ガルースト氏、ジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロートシルト氏

現在、シャトー・ムートン・ロートシルトは、バロン・フィリップ氏の孫世代であるカミーユ・ド・ロートシルトさんとフィリップ・スレイ・ド・ロートシルト氏、そしてジュリアン・ド・ボーマルシェ・ド・ロートシルト氏の3人によって経営されている。そして「ブドウ樹のために生きよ」というバロン・フィリップ氏の言葉は、今も館のモットーとして生き続けている。それは単なる標語ではなく、良い時も困難な時も、技術と芸術をもってブドウ樹に仕えよ、という強い意志の表明なのだ。2022年のアーティストラベルは、そんな精神を100年にわたって体現してきた偉大な当主への、最高の賛辞となった。

ラベルに使われたデザイン画作品は2013年より、醸造庫に隣接して造られた「芸術とワインラベル」展示スペースで一般公開されている

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