尾道造船 進水式(2024年8月21日開催)~ 間近で巨大な船体が進水するようすに大興奮
瀬戸内海に面した美しい港町、広島県尾道市の造船業は長い歴史をもちます。
尾道市には尾道造船を始めとして多くの造船所があり、今でも重要な産業の一つです。
造船所では定期的に「進水式」がおこなわれており、時には一般向けに公開されていることもあります。
間近で巨大な船が海へ滑りおりていくようすは圧巻で、写真や動画では決して味わえない迫力が味わえるでしょう。
私も尾道造船の進水式を今回初めて見学したので、そのようすをレポートします。
進水式とは
進水式は、新たに建造された船を初めて水に触れさせる儀式です。船を設計して実際にできあがるまでには、おおまかに次のようなプロセスがあります。
・設計
・ブロック製造・組み立て
・塗装
・進水
・艤装(ぎそう)
・試運転・引き渡し(竣工)
勘違いしやすいのが、進水=完成だと思いがちな点です。進水の時点では船体ができあがっただけで、各種装備は取り付けられていません。進水後の艤装(ぎそう)によって各種装備が取り付けられ、試運転が問題なく済むとようやく完成です。
一般的にイメージされる進水式は、船台(せんだい)から船が海へ滑りおりるシーンではないでしょうか。
しかし、最近では安全性の高いドックでの進水が主流です。ドックでの進水は、ドックのなかに水を満たして船を出す方式のため、船台から滑りおりる進水と比べて迫力には欠ける面があります。
ドックでの進水が増えているなか、尾道造船では船台からの進水もおこなわれているため、迫力のある進水を見学できます。
尾道市と尾道造船
尾道市の造船関連産業の売上は、市の製造業全体における売上の約3割を占めており、市内には大小合わせて20の造船会社があります。まさに造船の町といって過言ではないでしょう。
尾道造船は1943年(昭和18年)に創立され、2023年の売上高は472億5600万円です。本社は神戸にあり、尾道には造船所があります。尾道造船では1年間に約10隻の船を進水させています。
「第823番船(C.S.COSMOS)」について
今回進水した「第823番船(C.S.COSMOS)」は「ばら積み貨物船」で、おもな要目は以下のとおりです。
・全長 179.99m
・幅 32.00m
・深さ 14.80m
・載貨重量トン数約3万9500t
ばら積み貨物船とは、鉄鉱石や石炭などをこん包せずに輸送する船で、大きさごとに「ケープサイズ」「パナマックス」「ハンディマックス」「スモールハンディ」などのクラスがあります。
C.S.COSMOSはスモールハンディに該当し、ばら積み貨物船のなかでは小さいクラスです。
進水式のようす
進水式では、通常立ち入れない造船所内に入れます。普段見ることのない工場などを見るだけでも、興味深いところがいくつもありました。
あらゆるもののサイズに圧倒される
尾道造船の敷地に入ってまず感じたことが「あらゆるものが大きい!」です。
工場やクレーンが大きいのはもちろんのこと、作られている部品がどれも大きいのです。船台の上で船の船尾部分が作られていたり、建屋のなかでブリッジが作られていたり。物珍しさに思わずカメラのシャッターを押し続けていました。
C.S.COSMOSは、ばら積み貨物船のなかでは小さいクラスではありますが、小さいとは思えないサイズ感でした。
深さ(船底から上甲板までの高さ)は14.80mもあり、5階建てのビルに相当します。見学場所から見る第823番船はまさに「仰ぎ見る」大きさの巨体です。
長さも約180mもあるため、船尾のようすは遠すぎてよくわからないほどでした。
進水式の見学場所
進水式の見学では、一般見学者は進水式の会場に入れません。
一般見学者は、進水式会場とは別の場所にある見学場所から進水を見学します。
見学場所に屋根などはありません。ミスト扇風機はところどころに設けられてはいるものの、当日は晴天だったこともあり大変な暑さでした。
夏に見学する際は、水分補給や帽子・日傘などで暑さ対策を万全にする必要があります。
私は日焼け対策をしていなかったため、後日苦しみました。
いざ進水!
開式時間になり参列者が会場に入場すると開式です。式典のようすはスピーカーで流されているため、進水式の進行状況は見学場所からでもよくわかりました。
まず、国歌演奏などのあとで命名がおこなわれます。この時点で第823番船はC.S.COSMOSと名付けられました。
命名の次が、進水です。進水のための最終作業が船の周りでおこなわれたあと、支綱切断(しこうせつだん)により進水します。
支綱切断とは、船と式典会場の間に張られた支綱を銀の斧(おの)で切断することです。支綱切断によって、支綱につながれた日本酒が船体に叩きつけられ、同時に船首のくす玉が割れて進水が始まります。
進水の際には日本酒やシャンパン、白ワインなどが船体に叩きつけられます。これは、大昔にバイキングが生贄(いけにえ)の血を進水する船にささげていたことにちなんで赤ワインが使われるようになり、赤ワインが白ワインやシャンパンに変化したものだそうです。
日本では、今回の進水式のように日本酒が使われることもあります。
船体が動き始めると、「ゴゴゴ…」と地鳴りのような音をさせながら、全長約180mの船体がゆっくりと加速していきます。
動画で船の進水を見たことはありましたが、実際に間近で見ると迫力がまったく異なります。巨体が速度を増しながら滑りおりていくようすには、私も含め見学者全員が大興奮です。
また、船首からなびくテープの美しさも見どころです。夢中でカメラのシャッターを押し続けているうちに、あっという間に船は進水してしまいました。
進水したC.S.COSMOSは岸壁で艤装がおこなわれ、2024年11月下旬に竣工する予定です。
餅まき
進水式の最後は餅まきで締めくくられます。参加者はかなり熱が入っており、さっきまでのんびりと歩いていた高齢者もダイナミックな動きで餅をキャッチしています。
かなりの量が用意されており、参加していた人のほとんどが一つ以上はもらえたのではないでしょうか。後ろで撮影ばかりしていた私も、運良く足元に飛んできた紅白餅を一つ手に入れられました。
紅白餅だけでなく、もみじ饅頭や子ども向けのお菓子袋なども配られていました。見学者も含めた全員で餅まきを楽しみ、みんなで進水式を祝う雰囲気が感じられたところで、進水式がすべて終了しました。
おわりに
初めて見学した進水式は、大変迫力があり「またぜひ見たい!」と思わせるものでした。また、餅まきもみんなで進水式を祝い合うという雰囲気が感じられました。
ただし、真夏の進水式はかなりの暑さなので、水分補給などそれなりの対策が必要です。快適さを求めるのであれば春や秋をねらって行くのが良いと思います。
尾道造船では定期的に進水式をおこなっていますし、内海造船などほかの会社でも進水式の見学が可能なようです。興味のあるかたは、各社のWebサイトで確認してみてはいかがでしょうか。