366枚の記念日を描き続けたから見えたことーーアーティスト瀬崎百絵の個展が大阪で開催中「存在を尊重したいから女性を描いている」
アートフェス『UNKNOWN ASIA 2022』でイープラス賞を受賞したアーティスト・イラストレーターの瀬崎百絵。閏年だった2024年には、1月1日から「#1年後に366枚描く瀬崎」のハッシュタグをつけて、毎日SNSに「記念日」にまつわるドローイングをアップし続けていた。その366枚の絵を一挙展示する個展『“366” Everyday is Anniversary 瀬崎百絵 Solo Exhibition』が、東京・Monkey Cafe & Galleryに続き、1月24日(金)~2月2日(日)に大阪のギャラリー・Chignittaにて開催中だ。今回は大阪での展覧会初日を迎えた瀬崎に、展示の見どころやドローイングを通して得られた気付きについて語ってもらった。
1日1日が、尊い誰かの誕生日や記念日
ーー壁にずらり並んだ366枚の絵は圧巻ですね! 毎日ドローイングすることになったキッカケは。
まずは展示を目的として始めたわけではなかったんですね。私人生初の個展が、1年で描いた100枚の絵を展示するものだったんです。だからそれを超えたくて、100枚を上回るには毎日描くことかなと思って。自分の憧れの作家さんも毎日描いてらっしゃる方が多いので、自分に課してみようかなと思ったのがキッカケです。
ーーモチーフは「記念日」です。
自分が思ってもいないことや、得意じゃないモチーフの記念日もありますが、それがかえって自分のために良いし、見てる人も面白いかなと思ったので選んでみました。忙しかったり、逆にぼーっとしてるとあっという間に1日が過ぎちゃうけど、1日1日が尊い誰かの誕生日や記念日じゃないですか。日々を大事にする意味でも、良いテーマかなと思いました。
ーー1日に対して複数の記念日が制定されている日もありますよね。現在2年目を制作中ですが、同じ日でも違う記念日で絵を描かれているんですか?
そうですね。なるべく違う記念日にしたいと思っています。他の選択肢がない場合も、絵を変えてアップするように心がけているので、去年とはまた全然違う絵柄になってます。またご時世的にも国際デーや平和にまつわる日は、他に記念日が制定されていたとしても欠かさずに入れたいです。
ーー記念日を見ると、絵のアイデアが浮かぶのですか?
時折々です。例えば12月15日の「ザメンホフの日」は知らなかったのですが、調べるとエスペラント語という人工言語の考案者の誕生日らしいんです。権力に左右されない世界共通の言語を作ろうというのは、ザメンホフの平和主義的な思想から来ているので、肌の色関係なく喋れる象徴として、人種をないまぜにした女の子を描こうと思いました。そこにシンボルの緑の星も入れて。言葉の印象だけで描いた絵もありますけど、調べたから描けた絵も多いですね。
「私はこれが描きたかったんだ」自分の軸がさらに太くなる1年に
ーー制作する上での決め事はありましたか?
その日の23時59分までにアップしようと。続けているうちにトータル4時間かかっていたものが、今は資料探し込みで2時間くらいで完成できるようになったんです。今年は展示期間の合間を縫って描いていますが、一度も遅れずにやりきれています。普段はカラーの絵がメインなんですけど、毎日続けるにあたって、白黒にした方がシンプルで、線を綺麗に描く意識ができるかなと思って、今回はモノトーンで続けてみました。結果、フルカラー作品の作画スピードも上がったんですよ。鍛えられましたね(笑)。あとiPadは場所を選ばず描けるので、あったからこそ達成できた気もしています。
ーーお気に入りの作品はありますか?
11月7日の「いいおなかの日」は結構気に入ってます。自分は女性を描いてるので、腸活動を指す本来の意味とは少し離れるけど描きたいなと。細すぎない女性が好きなので、理想のお腹が描けたと思って気に入ってますね。
ーー展示を観ていると「こんな記念日あったんや」という発見もあります。ちなみに本日は1月24日ですが……。
「ゴールドラッシュの日」ですね。この絵はゴールドラッシュを調べるところから始めました。当時の写真を見ると、基本的に砂金を掘る作業をしているのが男性ばかりなんですよね。その上でカウガールを描きたいなとこの絵が浮かびました。調べる上でだんだんアイデアが固まってきましたね。
ーー「アダルトの日」「潤滑油の日」といった、セクシーなイラストの日もありますね。
女性そのものを尊重する意味でも、大人の女性を描きたいという気持ちがずっとあって。多分、大人の延長線にセクシーというものがあるんじゃないかなと、今回の企画をやって思いました。単発の絵だと、自分から出てくるアイディアの根源を突き詰めるタイミングが意外になくて。数を描いていると、共通するパターンが生まれてきたりするので、そうしていく上で「私ってこれが描きたかったんだ」「描きたくない題材にはこんな軸があるのか」ということに、今回気付けたというか。
ーーご自身の中で、主題に対する軸が太くなった感覚があると。
そういう意味でも、言語化できるようになったと思います。今までふわっとしか理由を言えなかったんですけど、考える時間も増えて、描いたからこそ言葉にできるようになりました。「多分今後もブレることはないだろうな」という軸に気付けたのは大きかった気がします。来年以降は記念日じゃなくなる可能性もあるんですけど、これからも毎日描くことと毎日アップすることは続けようと思っています。
瀬崎在廊中は、「セミオーダートートバック」ワークショップを開催
素敵な笑顔と明るい人柄で、目を輝かせながら作品について語ってくれた瀬崎。ぜひじっくり作品を見て、お気に入りを見つけてほしい。気に入った作品はアナログとデジタルで注文可能。額装された状態でオーダーできるので、詳細は会場で問い合わせを。東京会場のキュレーター・池田誠が企画で参加した日めくりカレンダーを手元に置くのも最高だ。
なお、瀬崎が在廊する24日(金)〜26日(日)の13〜17時は、トートバッグにアイロンでイラストをプリントするワークショップが行われる。瀬崎の描いた顔をそのまま印刷する「ノーマル」、目や口、輪郭など複数のパーツから好きなものを組み合わせて配置する「セミオーダー」、目を瞑った状態でランダムにパーツを配置する「福笑い」の3パターンが制作可能だ。瀬崎と一緒に楽しくトートバッグを作ってみよう。参加費用は3,300円(税込、トートバッグ付)で、所要時間は約15〜20分程度、飛び入り参加も歓迎とのこと。
会場では瀬崎のグッズや作品が販売されているほか、ダイカットステッカー(3種のうちランダムで1種)と瀬崎オリジナルおみくじが入ったガチャガチャも用意されている。ぜひ新年の運試しを!
取材・文=久保田瑛理 撮影=川井美波(SPICE編集)