発達障害娘、親への借金返済開始!休職を経て就労継続支援A型事業所に転職した彼女の変化
監修:渡部伸
行政書士/親なきあと相談室主宰/社会保険労務士
娘が両親(私たち)に借りた生活費の返済は『無利息の出世払い』
発達障害がある娘は高等特別支援学校後、特例子会社に勤めていましたが、4年たった頃メンタル面の不調から休職。
休職中、収入がないにもかかわらず、娘は買い物や携帯電話の課金でひと月に数十万円使ってしまいました。それまでの貯蓄も使い果たしてしまったので、グループホームへの支払いや生活費はしばらくの間は私たち親が立て替えることになりました。
その際、パソコン作業が得意な娘自身に『返済は利息なし。収入が安定したら返す』という、いわゆる出世払いの借用書をつくってもらいました。
娘の転職と就活
その後も復職の兆しが見えず、彼女は昨年の春に6年間勤務した特例子会社を退職しました。
高等特別支援学校在学中の就職活動には学校の先生や親が関わりましたが、現在はグループホームに入居し世帯分離しています。そのため、娘の退職・転職は、これまでチームで彼女を支えてきた相談支援センター相談員やハローワーク、ジョブコーチなどの支援者の方々がサポートしてくださいました(親はノータッチ)。
『障害特性に合った職種』のイメージ
面接と一週間の職場体験を経て、娘は就労継続支援A型事業所に通うことが決まりました。
仕事内容はパソコンを使った事務業務や動画編集業務、通販商品の検品梱包作業など多岐にわたります。どうやらそれが娘には魅力的だったようです。
「ASD(自閉スペクトラム症)にはルーチンが落ち着く・臨機応変が苦手という特性があるため、一日中同じ作業を繰り返す仕事が合っている」とイメージしがちですが、娘の場合は違っていました。
思い返すと、高等特別支援学校在学中の職場実習で、パソコン検定の資格を持つ娘が企業のパソコンでの文字入力業務を行った際「一日中ずっとパソコンでの入力作業をし続けるのは嫌だ」と言っていたことがありました。
娘のパソコンの知識や技術は、優れていると思います。でも「コミュニケーションは苦手だけど、人が好きで常に人と関わりたい」と思っている娘にとって、一日のほとんどの時間を一人でパソコンに向かうような職場は合わないようです。
パソコン作業中心の職場でも文字入力だけでなく動画編集や、通販の検品梱包作業なども行う就労継続支援A型事業所に通えることになり、娘は「人気がある事業所だから、採用されて良かった」と言っていました。
今回は、自身が働きたいと願った職場ということもあり、娘はその後休むこともなく仕事を続けています。
これは娘の意思だけではなく
・数年の付き合いの間に支援者の方が娘の性格や特性、好きなことや得意なことを十分に理解したうえで、娘に合いそうな業務内容の事業所を選んでくれた
・事業所の方も娘の課題点を把握し、それも含めた支援してくれている
おかげだと私は思っています。
両親への返済スタート
転職から一年が過ぎた今年の春、グループホームで生活する娘から連絡が来ました。
そして月に一度の『自宅への外泊』のタイミングで一万円ずつの返済が始まりました。
高等特別支援学校を卒業した同級生の中でグループホームで生活しているのは娘一人だけです。友達の中には車を買ったり、趣味に自分の収入を充てている人もいます。そんな実家暮らしの友達に比べると、娘が自由に使えるお金は少ないかもしれません。
私自身、親子の間で“返済”だなんて冷たいかな?と思うこともあります。
でも今までの経験があったからこそ、娘はお金の大切さやお金を稼ぐ大変さを本当に理解できたのだろうと私は思っています。そして、現時点で親以外の『相談できる支援者』がいることは、今後の彼女の人生にプラスとなっていくだろうと——。
先見の明
以前発達ナビのコラムで娘のことを書いた時、コラム監修の渡部先生が『必ずしも企業就労にこだわらず、就労継続支援A型やB型といった福祉的就労も選択肢になるかもしれません。大切なのは、本人が安心できる居場所であることだと思います。』とコメントされていました。
その時の私たち親子は復職に向けて模索していた最中で、福祉的就労については考えていませんでした。
でも娘はその後、渡部先生がおっしゃった通りの選択をし、現在、満足のいく職場で日々を過ごし、充実した余暇を過ごしています。
娘に会ったことがないのに、娘の未来をズバリ言い当てた渡部先生の先見の明に脱帽です!!
執筆/荒木まち子
(監修:渡部先生より)
娘さんが自分から返済したいと申し出たとのこと、素晴らしいです!休職中に課金で失敗した経験をしたことで、お金の大切さをご本人が理解できたのですね。
前回のコメントが少しでもお役に立てたのなら、私としても大変うれしいです。娘さんには、相談支援センターの支援員さんや、現在通われている就労継続支援A型事業所の職員さんなど、特性を理解して適切なアドバイスをしてくださる支援者の方がいらっしゃるとのこと、とてもありがたいですね。将来、もしかしたら違う形で壁にぶつかることがあるかもしれません。そのときには親御さんもいらっしゃらないかもしれません。でも、理解のある支援者の方がいることで、その壁を乗り越えていけるのではないかと想像します。荒木さんも書かれている通り、娘さんと支援者のみなさんとのつながり、これからも大切にしてください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。