【第28回伊豆文学賞小説・随筆・紀行文部門最優秀賞「ノイジー・ブルー・ワールド」】 「あれ、なんかセカイ中で一番青春してんじゃないのあたしたち」
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は第28回伊豆文学賞小説・随筆・紀行文部門で最優秀賞に選ばれたナガノ・イズミさん(長泉町)の小説「ノイジー・ブルー・ワールド」を題材に。
県内外からの応募251編から村松友視さん(静岡市出身)、諸田玲子さん(同)、嵐山光三郎さん、太田治子さんの審査員4人が選んだ「ノイジー・ブルー・ワールド」は、下田市の高校2年生レナと幼なじみで感覚が過敏な同学年男子ナギの物語。何気ない会話の中ににじむ、互いへのちょっとした心の揺れを丁寧に描写した青春小説だ。
レナはテニス部に所属していて、野球部のカレシがいて、仲がいい3人の友達はそれなりに進路を定めつつあるのに自分はなんだかふわふわしている。ナギは口を開くとどもり気味で知らない人とのコミュニケーションに難があるけれど、頭が良いのでクラスではそれなりに「居場所」がある。
レナの「あたし」という一人称で進む物語は適度な「軽さ」があって読み心地がいい。レナは、幼少期からまるで小動物のように愛でていたナギが、知らない間に自分の「庇護」から出ようとしていることに、ちょっと戸惑いと抵抗があるようだ。
保護者のような感情が、もしかして違うものに変わっていっている? 自分でも分析しかねる気持ちを、それでもしっかり見つめようとするレナがたまらなくいとおしい。
おそらくは人生で一番輝いているだろう「高校2年の夏休み」を眩しく、みずみずしく描いている。「あれ、なんかセカイ中で一番青春してんじゃないのあたしたち」というせりふに、グッときた。
3月までに本作をはじめとした入賞作品を集めた優秀作品集が出る。読者の反応が楽しみだ。
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