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伊藤銀次とウルフルズ ⑤ 一番物静かな男 “サイレント・ウルフル” ジョンBの魅力

Re:minder

1994年08月31日 ウルフルズのセカンドアルバム「すっとばす」発売日

連載【90年代の伊藤銀次】vol.11

いよいよレコーディング、伊藤銀次からレコード会社へのお願いとは?


1994年の4月、ようやく曲もそろって、いよいよセカンドアルバム『すっとばす』のレコーディングをする段階となり、ここでレコード会社にいくつかのお願いをした。まずは、僕が曲の構成やアレンジなどに集中するために、ギターやベースの音色を任せる山添昭彦さんを入れること。山添さんは、当時としては珍しかったギターテクニシャンだ。

そしてミックス・エンジニアには、ブランキー・ジェット・シティのアルバムを手掛けていたマイケル・ツィマリングを起用したいこと。ブランキーのセカンドアルバム『Bang!』のサウンドが実に力強くて、ウルフルズのサウンドを押し出しの強いものにしたかった僕としては、マイケルがまさにどんぴしゃだった。

そしてレコーディングのほうはウルフルズのファーストアルバムでエンジニアをつとめていた小田実君をそのまま起用することに。加えてさらに、本チャンのレコーディングスタジオに入るまでに、みっちり練習スタジオでリハーサルしてアレンジを固めておきたいことと、とにかくレコーディングスタジオはできるだけ使用料金の安いスタジオをおさえてほしいことをお願いした。

というのも彼らのライヴでの演奏ぶりを見た限り、ある程度満足のいく仕上がりのアルバムの完パケまでかなりな時間がかかりそうな気がしたからだ。なかでも、ベースのジョンBのプレイはかなりおぼつかないものだったから、心を鬼にして、このリハーサルの間にある程度のレベルにならなければ、残念ながらベースはスタジオミュージシャンを使うことになると、彼に言い渡してのスタートとなった。

一度も間違えずにアレンジについてきているジョンB


この出来事はジョンBにとっても、他のメンバーにとっても、かなりなショックだったと思うが、まだ売れてないバンドのバジェット(レコーディングの予算)は低い。いろんなことに目をつぶって楽しくやっていきたくても現実はなかなか厳しいのだ。ところがいざリハーサルが始まってみると驚くことが起こったのだ。

ウルフルズは典型的なスリーピースのバンドだったから、ダビングでカラフルにいろんな楽器をダビングするわけにはいかない。あくまでステージでも再現できるアレンジの形でなければならない。そこで方針として僕がモデルにしたのは、楽器を増やすことに頼らない、曲の構成を工夫することで飽きさせない作りにしていた。イメージは、まだマルチチャンネルがなかった頃の初期のビートルズだ。そこでどの曲もアレンジの指示を出してはメンバーの演奏を聞きながら、曲のサイズをどんどん変えていくことになった。

“あ、やっぱりイントロはさっきの半分の長さに” とか、“サビのうしろの2拍余分につけて” とか、閃くとどんどん変えていき、それはそれはかなり目まぐるしいものだったから、混乱して前のサイズのまま演奏するメンバーが多い中、なんとジョンBだけは、一度も間違えずにアレンジについてきているのだった。

ウルフルズの中で一番物静かな男 “サイレント・ウルフル” のジョンB。ふむ、ひょっとすると、彼はこのバンドの中で一番冷静なミュージシャンかもしれない。確かにプレイはおぼつかないが、このクールさはベーシストにとってとても必要なもの。しかも、ベースを指でつまびくタッチがいい具合に強くなくて、いわゆるブーミーな響き。

いい具合に全体の音像の下の方に落ちて響いてくれるので、ヴォーカルの邪魔をせず中央の空間を空けてくれる。出音がよくてクールならば、間違えたらまたそこからパンチイン・パンチアウトして辛抱強くやってけば、なんとか録れるような気持ちが強くなって、レコーディングの始まる直前に、前言を撤回して、彼のベースでレコーディングすることにしたのだった。

覚悟の上でとはいえ、僕がかかげたハードルはジョンBだけでなく、すべてのメンバーにとっても高かったから、始まってみるとこれがなかなか大変な作業だったが、辛抱強くやりながら、その大変さに負けることなく、どの曲も見事にかっこよく化けていってくれたのはうれしかったね。

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