アカデミー賞長編アニメーション映画賞にもノミネート!大人も子どもも感動必至の話題作『ロボット・ドリームズ』
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメ映画『ロボット・ドリームズ』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
ノスタルジックなアニメ映画が大ヒット上映中
今回ご紹介する『ロボット・ドリームズ』は、スペインの監督が撮ったアニメ映画です。元々はサラ・バロンさんが描いたグラフィックノベルといわれる漫画形式の本で、これをスペインのパブロ・ベルヘル監督という実写の監督がアニメ化を希望し、交渉して5年ぐらいかけて作ったという作品です。東京などで上映が始まり、最初は20館ぐらいの小規模な公開だったのですが、10日間で興行収入が3000万円を突破して、12月からは公開館数が50館になりました。
主人公は擬人化された犬、いちおうドッグという名前がありますが、セリフがないのでキャラクターの名前が呼ばれることはありません。ドックは、80年代のニューヨークで一人暮らしをしています。ひとりでテレビを見ながら、電子レンジでご飯を温めて食べる…みたいなちょっと寂しい生活を送っていて、友達がほしくなり、友達ロボットを買います。
そのロボットと夏の間、とても仲良く過ごし、ふたりは夏の終わりにコニーアイランドへ海水浴に行くのです。ところが、海水浴をしたらロボットが錆びて動けなくなっちゃうんです。夜には海が封鎖されてしまうのでドッグは一度家に帰り、翌日助けに戻ったら、シーズンが終わりだと言われて封鎖された海水浴場には入れなくなってしまう。こうして2人が離れ離れになってしまうというお話です。
海外アニメというとアート色が強い印象を持っている人も多いかもしれないのですが、この作品はすごく親しみやすいキャラクターでお話も直球です。そういう意味では、わかりやすくエモい作品で、いろんな人が今、見て「ぐっときた」と語っている作品なんです。やはり評価も高くて、アカデミー賞の長編アニメーション映画賞にノミネートもされています。
この映画の面白いところは、原作ではアメリカのどこかの町と書かれているのをニューヨークにしたところです。パブロ監督自身はスペイン人なのですが、1990年代から10年間ニューヨークで暮らした経験があるそうなんです。この映画も舞台そのものは80年代のアメリカなので、ちょっとしたノスタルジーを込めつつ描かれています。
監督のお話では、原作のみでは短くてすぐに終わってしまうし、原作者からはエピソードを足してもいいと言われたので、原作というメロディーに対して、ジャズミュージシャンみたいに広げるという感じで、アレンジの1つに「80年代のニューヨーク」を入れたといいます。
パブロ監督には、去年の東京国際映画祭にもゲストで来ていただいてお話をうかがいました。ヨーロッパで手描きでアニメが描ける人は決してそんなに多くないので、有名な手描きアニメ作品をやっていたアニメーターをメインのアニメーション監督に据えて、この人のつてで、いろんなアニメーターに集まってもらい作画をして作ったそう。なので、アニメーションとしても非常に丁寧にできているんですよね。
あと、EarthWind&Fireの『September』という懐メロをテーマ曲として使っていて、これをいいところで流しているんです。このエモーショナルな感じと、楽曲の使い方のうまさから、僕の中では『秒速5センチメートル』(新海誠監督)と結構近い作品という位置づけです。『ロボット・ドリームズ』と『秒速5センチメートル』のテーマが一緒かどうかは見る人によると思うんですけれど、我々の心に訴えかけるポイントやそこへの持っていき方は近いように思います。
静岡では静岡シネギャラリーで12月6日、シネマイーラ浜松で12月20日から、沼津のシネマサンシャインで12月6日からです。こういうタイプの作品は静岡ではあまり上映されませんが、これはヒットの余力もあって、公開が拡大されたので、ぜひ皆さん行ってみてください。音楽や効果音はあるけれど、キャラクターの言葉で何かを説明することはないのでお子さんが見ても楽しめるし、大人は「人生ってこういうものだよな」と感じることのできる作品です。ぜひ楽しんでいただければと思います。