農業は「遅れているんじゃなくて、時間がかかる」ということ
大竹まことがパーソナリティを務める「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送・月曜日~金曜日13時~15時30分)、7月2日の放送にJT生命誌研究館名誉館長・中村桂子が出演した。発売中の著書『日本の「食」が危ない! 生命40億年の歴史から考える「食」と「農」』にちなみ、生命の歴史、日本の食が危ないという理由を語った。
大竹まこと「『日本の「食」が危ない! 生命40億年の歴史から考える「食」と「農」』という御本です。帯には“米が高い、野菜が採れない、魚も穫れない 食料自給率わずか38%(カロリーベース)”。大上段に構えた見出しのように思えますが、本の中身はとても優しく、わかりやすく、危うさと格差、いろんなことについてお書きになっています」
中村桂子「ありがとうございます。そう言っていただけると、とてもうれしい」
大竹「気になるところもたくさんあるんです。中村さんがこのお歳(89歳)で御本を書いたり講演されたり、忙しい日々を過ごされているようで。長年“生命誌”について研究されているそうです。生命誌とはなんですか?」
中村「生命科学というのを皆さん、よくご存じだと思います。生き物は地球の上に40億年前に、いまの生き物、皆の祖先である細胞がいた、とわかっているんです。それがDNAを持っていて。人間でもネズミでもなんでも、皆が持っているDNAを調べると、そこに40億年の歴史が書いてある。これを読みたい、というのが私の願いで」
大竹「はい」
中村「生命誌、英語でバイオヒストリーといいます。そういう分野をここ30年ぐらい研究しています。その中でいちばん大切なのは、人間が生き物だ、ということ。いまの社会、あまり生き物だとして暮らしていないじゃないですか。環境も人工的になって。土に触(ふ)れる、ということがずいぶんと薄くなった」
大竹「そうですねえ」
中村「土が地上の生き物の原点ですから、触れないで生きていると生き物だということを忘れてしまう」
大竹「中村さんは日本の食について、危機が来ているというふうに書かれています。食の大切さは、より感じていますか?」
中村「はい。生きていくために必要なもの、いろいろありますけど、いちばんの原点が食べ物ですよね。私が子供のころは貧しかった日本が豊かになってきた。それはいいけれど。工業でどんどん自動車などをつくって儲ければ、それがいい社会だと思って、農業を少しないがしろにしたところがあります」
大竹「そうですねえ」
中村「だけど遅れているんじゃなくて、農業は時間がかかる、ということ。時間がかかることをダメ、という社会にしてしまった。早くできればいい、と。自動車は『隣よりうちのほうが早くできます』と言える。でもお米は春にまいて秋にとる。『つくっている』んじゃなくて稲を『育てている』んです」
大竹「はい」
中村「『効率よくしよう、効率よくしよう』ばかり言って、農業は効率が悪いと決めつけてしまった。そこから間違い始まったんじゃないかな、という気がします」