三鷹さんぽのおすすめ7スポット。ただ受け継ぐだけじゃない、三鷹流の文化継承術とは
駅の南北でほぼ自治体は異なれど、文化的な街のイメージは同様に広がる三鷹駅周辺。近年、変化があったスポットを巡って見えてきたのは、絶え間ないチャレンジ精神だった。
コーヒーひと筋、40年。レジェンドの第2章『まほろば珈琲店』
ツタに覆われた建物を解体し豆販売に専念する予定が、場所に恵まれ喫茶もできる新店で再スタート。年を重ねてますますやさしくなったマスターは「ネルドリップをもう一度ちゃんと出したくて」と、ぽろり。朝の図書館みたいに静かな店内は個席だけ。コーヒーのみのメニュー表をぜひ裏返してみて。
13:00~18:00(豆販売は~20:00)、月休。
☎0422-45-5140
新たな実力派ベーカリーが誕生『siro(シロ)』
南青山と新宿の名店で、素材の味を最大限に引き出すパン作りを探究した後藤一哉さん。「独立するなら地元三鷹で」と2023年に開店した。シンプルながら個性ある表情のパンは、国産小麦を何種も使い分け、低温長時間熟成、高加水が特徴で、生地の引きと口どけに感動。
9:30~18:00、日・月休。
☎0422-66-2180
本を真ん中に人がつながる、自由度の高い私設図書館『まちライブラリー@MUFG PARK』
2023年6月、緑豊かな『MUFG PARK』に誕生。スタッフに元気よく「こんにちは」と迎えられ戸惑うが、ここでは会話も飲食もOKで、利用者が企画するイベントも館内でにぎやかに開催される。棚の本はすべてが寄贈本。贈った人、読んだ人の思いがつづられたメッセージカードが添えられている。
10:00~17:30、月・火休。
☎なし
コミセンの地下に可能性未知数の空間『珈琲 遊』
上條ヨシミさんが営んできた喫茶店に、姪孫(てっそん)の五十嵐竜さんが加わりパワーアップ。「彼は料理を学んできたからメニューが多彩になりました」とヨシミさん。竜さんは「広い空間で何でもできそう」と、地域の子供たちの笑顔を思い、新アクション始動!
11:00~20:00(日は~16:00)、木・祝休。
☎0422-34-8650
母と息子の最強コンビ。地域密着居酒屋『三丁目さち』
「友達が来ると必ず、おかんがお好み焼きを作ってくれた」と金原大佑さん。それが人気で2003年に母・幸秋さんが『お好み焼 幸』を開店。大佑さんは料理人を志し、調理師学校を経て『分とく山』などで10年修業し、帰ってきた。2022年に内装とメニューを一新して大佑さんの時代が到来。でも、お好み焼だけはおかんが担当。
17:00~23:00、不定休。
☎080-9686-0719
料理を入り口に遠い国を思う『ウクライナカフェ・クラヤヌィ』
戦争が始まる前から、母国の文化を伝えてきた日本ウクライナ友好協会KRAIANYが運営。避難者も含むウクライナ人スタッフが普段親しんでいる家庭料理、菓子やワインを紹介しながら、「スマチノーゴ(おいしく召し上がれ)!」と、もてなしてくれる。食文化から言葉、歴史へと興味が広がる。
10:00~17:30(金・土は~20:30)、水休。
☎070-1503-9082
生演奏×ワインの音楽サロン『Bella et Luna(ベラ ト ルナ)』
毎晩7時からピアノやギター、フルートなどの演奏が始まるカフェ&バー。音楽でくつろぐ大人時間を、店主の元木美歩さんが醸し出している。わずか10坪の大きな魅力は、演奏者との距離の近さと集う人との交わり。ジャンルは問わず「気軽に日常に音楽を」。
15:00~22:00(土の時間はInstagram:bella_et_luna__にて)、水・日・祝休。
☎0422-38-1531
コーヒー、パン、本。街の色は変わらない
「90歳を過ぎて、ここで本物のコーヒーと出合いました」と、静かに話すおしゃれな女性。「いつものをお作りしますね」。ゆっくりと手を動かし豆を挽くマスター。優しくて凛(りん)とした時間がここにある。
南口に名画座「三鷹オスカー」があった頃、自家焙煎のコーヒーといえば『まほろば珈琲店』だけだった。いわば三鷹におけるコーヒー文化の拠点が、少し移転し、見違える店構えになっていた。が、マスターの仕事ぶりは変わらない。近隣の飲食店も好んで仕入れるフレンチローストは、研鑽(けんさん)を積みたどり着いた賜物(たまもの)で、幾人もの人に技術を伝承してきた。「人に教えるとは自分が学ぶこと」と、マスター。自身も進化を続けていて、避けてきた酸味の豆に挑戦中だ。
禅林寺通りを歩き、『siro』のパンを頬張った瞬間、おいしい神様は場所に宿るんじゃないかと思った。『siro』は2023年、「菓子厨房 レヴェ」跡に誕生したのだが、素材への思いや職人気質が両店そっくりで、ファンもそのまま受け継いでいる。「街の人がお店を大切にしてくれる」と実感するオーナーの後藤一哉さんは、毎朝2時から生地に触れ、街の人を大切に思い、パンを焼き上げる。
さらに、いつの時代も文学の話題が豊富で、個性的な古書店が目白押しの三鷹。駅の北西、千川上水の向こうに『まちライブラリー』が堂々開館! 本につながる街自慢がまた一つ増えた。「著者ご自身が関わった本を寄贈してくださることが多いんですよ」と、主任の岩田瑠美子さん。ならば、著者が書いたメッセージカードを探さなくちゃ。カードを通じて思いを交わせるかも。ドキドキ。
さりげなく熱い個々の思い。チャレンジ精神が文化を守る
地域に必要とされてきた場所では、ゆるやかに世代交代が進んでいる。利用者が「子供を見守ってもらえる場所」と表現する『珈琲 遊』は、大叔母さんから姪孫へ。家族3代で集える『三丁目さち』は、母から息子へ。次世代はバトンをしっかり受け取り、新しい挑戦を楽しんでいる。
『Bella et Luna』には、『さち』の2代目大佑さんの友人も出演する。三鷹に暮らす音楽家が、地元で演奏できる貴重な場所だ。アーティストを支援してきた代表の元木美歩さんの、音楽文化への思いが形になった。
何事も変化は避けられない時代でも、街の色は揺るがない三鷹。それは、人を思う心とチャレンジ精神があるからこそなのだ。
取材・文=松井一恵 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2025年2月号より