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【見られたら即死?】邪眼を持つ怪物たちの神話・伝承 〜「バジリスク、ピロリスク 他」

草の実堂

画像 : バジリスク 草の実堂作成
画像 : 邪眼の使い手は見ただけで敵を殺すのだ pixabay cc0

邪眼」というものをご存知だろうか。

邪視、または魔眼ともいわれるこの能力は、視線だけで対象に呪いをかけ、時には死に至らしめる恐ろしい力を持つとされている。

現実にそのような能力を持つ存在がいるかどうかは別として、神話や幻想の世界では邪眼は非常にポピュラーな存在であり、多くの伝承が登場する。

今回は、そんな強力な視線を持つ邪眼の使い手たちを紹介する。

1. バジリスク

画像 : バジリスク イメージ 草の実堂作成

バジリスク(Basilisk)は、ヨーロッパで恐れられた伝説的な爬虫類であり、その名はギリシア語で「小さな王」を意味する。

古代ローマ帝国の学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスが記した百科事典「博物誌」にて、バジリスクは以下のように言及されている。

(意訳・要約)

バジリスクはキレナイカ(リビア東部)原産のヘビであり、体長は12cmにも満たない。
頭には王冠のように白い斑模様があり、体を曲げることなく直進し、音を鳴らすだけで他のヘビは一目散に逃げだす。
その風格はまるで、覇道を進む王者のようである。
バジリスクは、全身に致死的な毒を有しており、息を吐けば草木が枯れ、石が砕け散る。
騎兵がこのヘビを槍で突けば、毒が槍を伝って兵も馬も死ぬ。

さらにバジリスクはその視線にすら毒があり、見られた生物は絶命する。
唯一の天敵はイタチであり、その悪臭でバジリスクは死ぬが、イタチもまた死ぬ。

まさに死そのものを具現化した怪物であり、もしイタチの存在がなければ、人類は絶滅していたかもしれない。

ただし、仮にこの生物が実在していたとしても、その目撃者はかなりの確率で命を落としているはずであり、伝承が残っていること自体に疑問を呈する意見もある。

2. ピロリスク

画像 : ピロリスク(Pyrolisk)イメージ 草の実堂作成

バジリスクに類似した幻獣として、コカトリス(Cockatrice)が挙げられるだろう。

伝説によれば、雄鶏が産んだ卵(もちろん、雄鶏が卵を産むことはない)をヒキガエルが温めることでコカトリスが誕生するとされる。その姿は鶏とヘビを融合させたようなもので、バジリスクと同様に全身が毒を宿し、視線だけで他の生き物を殺す恐ろしい怪物として信じられていた。

コカトリスの亜種ともいえる存在に、ピロリスク(Pyrolisk)がいる。
見た目はコカトリスに似ているが、全体的に赤い羽毛を持ち、尾の先に一本の赤い羽根が生えていることが特徴とされる。

ピロリスクには、バジリスクやコカトリスのような猛毒は備わっていない。

変わりにその視線は、あらゆる生き物を焼死させるという、悍ましき力を有している。
ピロリスクは極めて邪悪な性質を持ち、獲物をジワジワと焼き殺すことを好むという。

このピロリスクは、世界初のロールプレイングゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に登場するオリジナルモンスターであり、古典的な伝承には存在しない。

しかし、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」は現代ファンタジーに多大な影響を与え、その影響力は古の神話に匹敵すると言っても過言ではないだろう。

このため、ピロリスクもまた、バジリスクやコカトリスに比肩する存在とされているのである。

3. カトブレパス

画像 : カトブレパス 草の実堂作成

カトブレパス(Catoblepas)は、エチオピア西部に生息すると信じられていた幻獣で、その姿はスイギュウに似ているが、非常に重い頭部を持ち、常にうなだれているという特徴を持つ。

この怪物もまた、古代ローマの学者ガイウス・プリニウス・セクンドゥスが『博物誌』において言及している。

(意訳・要約)

カトブレパスは、ナイル川の源流とされる架空の泉「ニグリス」の近くに棲む獣である。
頭部が重いため、動きは鈍く、ほとんど地面に顔を伏せて過ごしている。
しかし、バジリスク同様、カトブレパスの眼を見た者は即座に死ぬとされている。
そのため、この怪物が鈍重であることは、人類にとって幸運なことであった。

さらに、19世紀フランスの小説家ギュスターヴ・フローベールの『聖アントワーヌの誘惑』では、よりグロテスクなカトブレパスが描かれている。

フローベールによれば、カトブレパスはスイギュウの体に豚の顔を持ち、首はまるで空っぽの腸のように細長く、頭を持ち上げることができない。そのため、転がるように移動し、地面に生えた毒草を食べて生きているが、誤って自分の脚を食べてしまうこともあるという。

カトブレパスは、バジリスクのように致死性の眼を持つ恐ろしい存在だが、その鈍重さや滑稽な動作が、より奇妙で不気味な印象を与える怪物である。

4. ネラプシ

画像 : ネラプシ 草の実堂作成

ネラプシ(Nelapsi)は、スロバキア東部ゼムプリン地方に伝わる吸血鬼の一種である。

東ヨーロッパ各地には、「死者が吸血鬼として蘇る」という数多くの伝承が残されているが、ネラプシはその中でも特に危険な吸血鬼として語り継がれている。

ネラプシになる条件として、二つの旋毛(つむじ)を持つ者は死後、ネラプシになる可能性があると信じられていた。

吸血鬼が二つの心臓を持つという伝承は東ヨーロッパで一般的だが、ネラプシはさらに二つの魂を持つとされ、退治するのが極めて難しいとされている。また、死体でありながら死後硬直がなく、柔軟で優れた身体能力を持っているという特徴もある。

ネラプシは吸血鬼として、人間の生き血を好むが、血を吸うだけにとどまらず、殺戮そのものを楽しむという極めて邪悪な性質を持っている。また、彼らには視線だけで生物を抹殺する能力があり、高台に登って広範囲を見渡すことで、一瞬にして多数の命を奪うことができるとされている。

このようにネラプシは、吸血鬼の中でも際立って恐ろしい存在とされている。

終わりに

視線だけで命を奪う「邪眼」は、世界各地において制御不能な恐怖を具現化した存在として、現代に至るまで語り継がれている。

これらの怪物たちは、見えざる力への畏怖と、それにどう対処するかという人間の深層心理を反映していると言えよう。

参考 : 『博物誌』『幻獣辞典』『神魔精妖名辞典』他
文 / 草の実堂編集部

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