横浜で8000年前の<イルカの骨>発見? 遺跡から出土した骨のDNAで種や年代が判明
今から1万2千年前に始まった「完新世」は、人間活動や気候変動の記録がよく残された時代だといいます。
実際、日本では人類が文字をもつ前の時代である「先史時代(紀元前3千年以前)」から捕鯨をしていたことが各地の遺跡から明らかになっており、古いものでは縄文時代初期の貝塚からイルカなどの海棲哺乳類の骨が出土しているとか。
2025年に公表された論文「Hidden population turnover of small odontocetes in the northwestern North Pacific during the Holocene」では、日本各地から出土したイルカの骨からDNAを抽出し、種、年代、遺伝組成を明らかにしました。
54個体のイルカの骨からDNAを抽出
日本大学生物資源科学部の岸田拓士教授らの研究グループは、先史時代の捕鯨の記録が残る東京湾と北海道道東の遺跡から出土した計54個体のイルカの骨からDNAを抽出し解析を行いました。
調査した遺跡は、野島貝塚、元町貝塚、称名寺貝塚、目梨泊遺跡、東釧路貝塚、幣舞遺跡の3地域6地点です。
DNA解析の結果、北海道道東地方の遺跡(目梨泊遺跡、東釧路貝塚、幣舞遺跡)から出土したイルカの骨はカマイルカ、イシイルカ、ネズミイルカの3種に分類されることが判明しました。
また、東京湾からはカマイルカのみが見つかりました。
最も古い試料は8000年前?
さらに、DNA解析ではイルカの種のほかに遺伝組成と推定年代も明らかになりました。
最も古い試料は野島貝塚から出土したカマイルカで、驚くべきことに8000年前の年代を示しています。このことから横浜のような高温多湿な環境でも、保存状態がよければDNA分子が残されることが分かったのです。
釧路地方の遺跡(東釧路貝塚、幣舞遺跡)から得られた試料の年代からは、東釧路貝塚のイルカ漁はおよそ4200年前に終了し、その後3000年前に幣舞遺跡でイルカ漁が開始されるまで、1000年以上の空白があることが示唆されました。
個体群の入れ替わりが起きた?
加えて、東釧路貝塚と幣舞遺跡から出土したカマイルカでは、それぞれ共通するミトコンドリアハプロタイプがほとんど存在しないことも明らかになっています。
このことから2つの遺跡のカマイルカは遺伝子の異なるグループに属することに加え、異なる遺伝グループの個体群への入れ替わりが示唆されました。
4200年前に起きた気候変動
4200年前は世界規模の寒冷化・乾燥化が起きたことが知られています。この大規模な気候変動はエジプト古王国の崩壊の原因の一つとも考えられているようです。
当時、日本列島でも急激な気候変動に伴い、最大の集落であった青森県の三内山遺跡の放棄、礼文島の植生の大規模な変化が報告されています。
この世界規模の気候変動は東釧路貝塚でイルカ漁が終わった時期、そして、イルカの個体群の入れ替わり時期と同期しており、4200年前の気候変動は陸上はもちろんのこと、海にも大きな影響を与えたことが示唆されたのです。
遺跡は過去の人間活動や生物の記録を示す
このように、遺跡は過去の気候変動とそれに伴った人間活動や生物の変化を示してくれます。
過去の気候変動と人間活動、生物との関係を紐解いていくことは、現代における気候変動や生物多様性の解明につながることが期待されます。
(サカナト編集部)