若いチームで切磋琢磨しクラシックな料理に挑む ル ビストロ デ ブル(東京・広尾) 井口 章太郎 25年8月号
東京メトロ日比谷線広尾駅から歩いて数分の場所に建つ商業施設、イート プレイ ワークス。このビルの2階に、2023年にオープンした「ル ビストロ デ ブル」は、「レフェルヴェソンス」などのレストラン事業を展開するサイタブリアが経営するビストロだ。
その店構えはちょっとユニーク。同じフロアに和洋中、エスニックなどさまざまなジャンルの飲食店が壁で仕切られることなく並び、その一角にある同店は「横丁ビストロ」のようなたたずまい。ドアがないのでふらりと立ち寄り、ワインと一緒に本格的なフランス料理がサクッと楽しめる、そんな気軽さがうけている。また営業時間は、平日は15時から、週末と祝日は正午から21時までの通し営業のため、昼飲み目当てに訪れるお客様も多い。
定番メニューは前菜18品、主菜6品、デザート3品。黒板にはおすすめや季節料理以外に新作を入れて、お客様の反応を見ることも。
お客様をサポーターにしながら日々の仕事で学び、実践を積む
店名の「ル ビストロ デ ブル」は「青き者達のビストロ」という意味。平均年齢27歳の若いスタッフ5名が結集。オープン当初は系列店「ラ・ボンヌターブル」の中村和成シェフが店に立ってサポートしていたが、現在は「レフェレヴェソンス」でサービスを務めた相川翔悟マネージャーと、地元・北海道やサイタブリアの系列店で腕を磨いた井口章太郎シェフが中心となって店を盛り上げる。
厨房スタッフは井口さんを含め4名在籍
切磋琢磨しながら日々の仕事に向き合う若手の彼らにとって、この店は学びの場であり、実践の場でもある。キビキビと働く姿がカウンター越しに見えて、お客がサポーターとなって思わず「応援したい」と思う、よい意味での「青さ」がこの店の魅力だろう。
調理風景を見ながら食事ができるカウンター10席。テーブル席12席。
店のコンセプトは「ストレスフリー」。「予約の取れない名店ではなく、お客様が行きたい時に行って、食べたいものを食べ、帰りたい時に帰られる。そんな居心地のよい店を目指しています」と相川さん。そのためにきめ細やかでありつつ、フレンドリーなサービスでお客様を和ませるのもテクニックの一つだ。
「料理を選ぶ楽しさこそがビストロの醍醐味」と考え、料理はアラカルトで提供。オニオングラタンスープやドフィノア、パイ包み焼き、タルトタタンといった、古き良きフランス料理を回顧するようなメニューが並ぶ。「若手であえて王道のクラシックなフランス料理を現代に甦らせる、というのがオープン当初からの方針ですが、そもそも僕は食べて純粋においしいと思えるクラシックなフランス料理が好き」と井口さん。ただし、アラカルトでいろいろな料理を楽しんでもらうために調理法は現代人の嗜好に合わせる。バターの量を控えたり、パイ包み焼きのサルミソースも濃厚なレバーの量を抑えたりなど、食べ疲れないよう工夫している。
ランド産ピジョンとフォアグラのパイ包み
丹念な仕事を感じさせる断面が美しいパイ包み焼き。旨みの強いエトフェのピジョンの胸肉をロゼ色に焼き、フォアグラ、ホウレンソウと共に京都府産七谷鴨のミンチで包む。系列店「ブリコラージュ」から仕入れたスペルト小麦を混ぜたパイ生地は、焼くと香ばしい風味が漂う。七谷鴨のレバーを使ったサルミソースと赤ワインソースを同量で合わせて流し、ピジョンの手羽先、モモ、砂肝やレバーのソテーも余すことなく盛り付ける。
ドフィノア
井口さんが北海道の修業時代によく作っていた温前菜。北海道真狩村の三野農園の越冬熟成メークインにニンニク、牛乳、生クリームを加え、煮崩れない程度のほろりとした食感に仕上げる。メークインの甘味が引き立つ、人気の一皿。
パテ・アンクルートを極めるべく今年も世界選手権に挑戦
店のアイコニックな存在であるシェフの名前が入った「ショウタロウのパテ・アンクルート」は、“シャルキュトリーの王様”と呼ばれ、高い技術が求められる料理だけに熱い思い入れがある。井口さんは昨年に続き、今年もその腕前を競うパテ・クルート世界選手権に挑んでおり「まずはアジア大会の決勝に勝ち進み、世界一を目指したい」と意気込む。
ショウタロウのパテ・アンクルート
井口さんが“世界一”を目指して日夜研究を重ねる看板メニュー。フォアグラは火が入り過ぎないよう鹿腿肉と鶏胸肉で巻き、キノコのデュクセルで旨みを足す。ファルスは七谷鴨の腿と豚ネックの挽肉をベースに、牛、鶏、蝦夷鹿などさまざまな肉を角切りにして混ぜ、ピスタチオやヘーゼルナッツでアクセントを加えた。上部に流すコンソメも、鶏ガラをメインに鹿や兎の骨など使って重厚な味わいに。自家製マスタードとミニョネット、季節の野菜を添える。
井口さんが求めるのは「個性が突出することなく幅広いお客様においしいと思ってもらえるパテ・アンクルート」。豚、鶏、蝦夷鹿、兎、牛頬肉などさまざまな肉や部位を使って、複雑なコクや旨みがハーモニーを生むファルスで構成。これらを包むのは、本来使われるフィユタージュではなく、ブリゼ生地に置き換えてサクッとした食感を出す。
店で1番人気のパテ・アンクルートは16人分を2日に1回仕込む。
また、こうした王道的なメニュー以外に「カリフラワーのロースト カレー風味」のように、脇役になりがちな野菜を大胆にカットし、エキゾチックな香りをまとわせ主役に抜擢した変化球的なメニューも取り入れる。
カリフラワーのロースト カレー風味 ブールブランのソース
旬の野菜を主役にコリアンダーやカレー粉など数種のスパイスを振り、存在感のある仕立てに。カリフラワーはバターで香ばしく色付け、オーブンでロースト。ブールブランソースを敷き、揚げたピスタチオに塩をして添えている。
食材の仕入れは、サイタブリアの系列店である強みを活かす。たとえば、パイ包み焼きで使う七谷鴨は「レフェルヴェソンス」から、パイ生地は「ブリコラージュブレッド アンド カンパニー」から回してもらい、質の高い食材を安定して仕入れ。料理やワインのリーズナブルな提供価格の維持にも一役買っている。
サービスは基本的にソムリエでもある相川さんが務めるが、井口さん始め厨房スタッフもソムリエ資格を持っていて、カウンター越しにお客様と対話しながら、20種類以上の豊富なグラスワインから好みの一杯を提案することも。この接客スタイルは、SNSでクラシックな料理に興味を持って訪れる若い世代にも、料理を懐かしむミドル世代にも好評だ。
「まだまだお客様に提供したいクラシックな料理があります」と井口さん。青い炎を燃やしながらスタッフ一丸となって、日々ブラシュアップを重ねて前進する。
店内を飾るフランスのアンティーク小物が、クラシックな雰囲気を醸し出す。
井口 章太郎(いぐち しょうたろう)
1997年、北海道生まれ。高校卒業後、北海道「美瑛料理塾」にて2年間、料理とサービスの基礎を学ぶ。ラパンフーヅに入社後、フランス料理店「ビブレ」他で約4年間修業。2022年に上京し、サイタブリアに入社。「ラ・ボンヌターブル」などで働き、23年12月より現職に就く。
ル ビストロ デ ブル
東京都渋谷区広尾5-4-16
EAT PLAY WORKS 2階 THE RESTAURANT
TEL 03-6447-7131
15:00〜23:00(土日祝は正午から)水休
text: Kanami Okimura photo: Tomoko Osada