国蝶「オオムラサキ」の幼虫すくすくと 釜石・日向ダム湖畔でふ化 観察会参加者「いた、いたー!」
釜石市の小川川上流、日向ダム周辺で、環境省の準絶滅危惧種に指定されているチョウ「オオムラサキ」の幼虫が見られている。8月に産み付けられた卵からふ化したもので、体長2~3センチの黄緑色の幼虫が、餌となるエゾエノキの葉を食べて元気に育っている。15日には、同所での繁殖を願いエゾエノキの植樹を続けている、かまいし環境ネットワーク(加藤直子代表)が観察会を開いた。
オオムラサキの幼虫が見られるのは、同ダム管理棟の北西に位置する多目的広場に向かう途中の“語らいの森”。同ネットワークが2007年に苗木を植えて育ったエゾエノキがある場所だ。会員で同所の保護、オオムラサキの観察を続ける菊地利明さん(59)が「目の前にいる」「葉の先端」などとヒントを与えると、必死に目を凝らす参加者から「見つけたっ」「あーいた、いた」「目が慣れてくると、いっぱい見える」と歓声が上がった。
菊地さんによると、今の時期に見られるのはふ化後、3回脱皮した三齢幼虫。頭に大きめの2本の角、背中に4対の突起があるのが特徴。正面から見ると、漫画のキャラクターになりそうな愛らしい顔をしている。野鳥やスズメバチなどの天敵に見つかりにくいように、この時期は葉とほぼ同色で、餌を求めて活発に動き回るのは朝や夕方。寒くなって落葉するまでは樹上で過ごすが、寝床と餌場は別の場所で、葉を食べた後、再び寝床に戻る習性があるという。
オオムラサキの雌の成虫は1匹で約500個の卵を産むというが、卵100個のうち成虫にまでなれるのはわずか1%。観察会では、無精卵か寄生虫の侵入が原因とみられる、ふ化できなかった卵の痕跡も見つかった。
幼虫は葉を食べながらさらに大きくなる。11月初め~中ごろに落葉すると、樹上から下りてきて落ち葉にくるまって冬眠。冬季の体は枯れ葉のような保護色に変わる。年を越し、芽吹きの季節になると再び木に登り、6月にかけてサナギを形成する。7~8月が羽化の時期。雄が先に羽化する。
昨年5月、同ダム周辺で行われたエゾエノキの植樹会にも参加した同市の川上凜さん(23)は、初めて見るオオムラサキの幼虫に感激。「最初は全然見つけられなかったが、よく見ると角があったり特徴的。来年はサナギや成虫も見てみたい」と期待を膨らませる。成長過程を知ることで植樹の意義も感じ、「自然は1年や2年でどうこうなるものではない。地元の人たちが環境を守り、次世代につないでいこうとする活動は素晴らしい」と敬意を示した。
この日は、ダムが完成した1997年から続けられてきたエゾエノキの植樹箇所も見て回った。ダム完成時に植えられたものは大木に成長。近年植えられたものはシカの食害を防ぐために防護ネットで囲われていて、まだ低木ながら順調に成育している。エゾエノキにはオオムラサキのほか、ゴマダラチョウやテングチョウも卵を産むという。
案内した菊地さんは「野生に近い形で環境を守ることが大事。オオムラサキは北海道から九州まで広く分布するが、地域によって羽の色や模様が異なる。その独自性を維持することも保護活動の重要なポイント。決して他の場所から卵や幼虫を持ち込んではいけない」と教えた。“日向ダム周辺をオオムラサキの里に”と、植樹やその後の保護活動を続ける同ネットワークの加藤代表は「ダム完成時に一緒に植えたクリやミズナラも林となり、樹液を餌とする成虫のオオムラサキも寄ってくるようになった。来年はぜひ成虫の観察会も開きたい」と話した。
オオムラサキはタテハチョウ科に属し、羽を広げると10センチ前後になる。雄は羽の表面が青紫色、雌は黒褐色で、白や黄色の斑紋がある。日本昆虫学会が1957年に「国蝶(こくちょう)」に選定している。