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【ミリオンヒッツ1994】シャ乱Q「シングルベッド」歌詞深読み!男らしさの象徴って?

Re:minder

1994年10月21日 シャ乱Qのシングル「シングルベッド」発売日

リレー連載【ミリオンヒッツ1994】vol.23
シングルベッド / シャ乱Q
▶ 発売:1994年10月21日
▶ 売上枚数:120.2万枚

シャ乱Qの「シングルベッド」歌詞を深読み


恋愛初期の男子は、見栄や虚勢を張ることで、恋に不慣れな自分を悟られないよう必死になるものだ。この行動は、経験の無さゆえに、恋愛の主導権を握ることが “男らしさ“ だと勘違いしている純情ボーイの通過儀礼だと言えよう。これが、見栄っ張りくらいならまだ可愛げがあるけれど、彼女のことを “俺の女“ とか抜かすイキッた “俺サマ男子” になると話は別だ。こうなると暴君である。僕は、彼女をモノのように扱う奴は最高に格好悪いと思うんだけど、みんなはどうかな?

ということで、今回の歌詞深読みコラムは1994年にリリースされ、累計120万枚以上の売上を記録したミリオンヒット、シャ乱Q「シングルベッド」である。この曲は、彼女を “おまえ” と呼んでしまう俺サマ男子が主人公だからだ。イキった男が無様な己を振り返るとき、果たしてそこから何がわかるのか… ぜひ期待して欲しい。

有線などでじわじわと広がってゆく演歌のような売れ方だった「シングルベッド」


どうしようもない男の弱さ、そしてむき出しの劣等感を余さず描いた「シングルベッド」は、1994年10月21日にリリースされたシャ乱Q6枚目のシングルだ。その人気はヒットチャートを一気に駆け上がるのではなく、有線放送などでじわじわと広がってゆく演歌のような売れ方だった。

それが、まさかミリオンヒット(120.2万枚)を達成する日が来るなんて、つんく♂をはじめメンバーの誰ひとり夢にも思っていなかっただろう。シャ乱Qが翌年にリリースしたシングル「ズルい女」と一緒にセールスを伸ばしていった。ということで、早速歌詞の深読みを始めていこう。

 早く忘れるはずの ありふれた別れを
 あの時のメロディーが思い出させる

彼女と別れてから1年… 新たな恋に向かおうと、オシャレに力を入れたり車を新しく買い替えてみたり… というのが冒頭の一節だ。サビ後半の歌詞で「♪今夜の風の香りは あのころと同じで」とあるので、この歌詞のシーンは、買い替えた車に乗っているときにカーラジオから流れてきた曲がトリガーとなり、別れた彼女との思い出をさめざめと振り返ったのだろう。つまり「シングルベッド」とは、失恋から1年余り経った今もまだ、心の傷が癒えぬまま彷徨っている男の心象風景の曲なのだ。

男が抱える悲哀の世界観を描いたアルバム「劣等感」


なぜ彼女と別れてしまったのかという未練、後悔、さらには、ダサい自分のうわべだけを取り繕ったところで何の変化もなかったという不甲斐なさと哀れな劣等感。そう、同曲が収録されたアルバムのタイトルが、まさに “劣等感” なのである。アイドルであれバンドであれ、アルバムを出すからにはしっかりとしたコンセプトが必要だ。

この『劣等感』に収録されたどの曲も、主人公が失恋における後悔や未練に引きずられ、新しい恋に邁進できず遅疑逡巡するウジウジした様子をテーマにして描かれている。つんく♂は、こういう人には言えない男の本音を引き出すのが本当に上手い。ぜひアルバムを丸ごと聴いて、男が抱える悲哀の世界観を味わってみてほしい。閑話休題。歌詞の深読みに戻ろう。

シングルベッドとは、ベッドそのものと、男が夢みる独りよがりの世界というダブルミーニング


 シングルベッドで夢とお前抱いてた頃
 くだらない事だって 二人で笑えたね

このサビの歌詞から過去の回想になってゆくわけだが、そこから想像すると、主人公の男は、次なるスターを目指す “まだ売れないミュージシャン“ といったところだろう。曲のタイトルである ”シングルベッド” とは、ベッドそのものと、男が夢みる独りよがりの狭い世界を兼ねたダブルミーニングだ。この頃の2人は、現実の社会から隔離された箱庭のような男の部屋で夢を語り、肩を寄せて抱き合いながら1つの毛布に包まっていたのだ。

 寄り道みたいな始まりが 二年も続いたあの恋
 初めてお前抱いた夜ほら 俺の方が震えてたね

付かず離れずの状態が2年… たぶん2人の出会いは、告白もままならないウブな高校生の頃だろう。なにせ初めての夜に震えていたくらいだ。やがて大学に入学する2人… 楽しい日々を過ごしながらずっと男の夢を応援していた彼女。けれど時は過ぎ大学を卒業した後も、男は定職に就かず夢を語るだけで少しも行動が伴わない。

働き始めた彼女は、好きという感情だけでは乗り切れない未来に対する無力さを知ってしまう。現実社会の厳しさだ。彼女は愛するがゆえに男を諭そうと試みる。けれど、その度に勃発する喧嘩… そう、イキった俺サマ男子ゆえに彼女の言うことなどそう簡単には受け入れられないのだ。徐々にすれ違ってゆく2人。何かの拍子に “じゃあ別れようぜ” くらいのことをこの男なら言っちゃうだろう。まさに若気の至りである。

男には、彼女がどれほど自分のことを支えてくれていたのかわからなかった。独りよがりの夢に翻弄されている男は、自分の置かれた現実に向き合って来なかった。そして、彼女を失ってから1年経ってようやく事の重大さに気づいたのだ。惨めだ。馬鹿だ。大馬鹿者だ。

“男らしさ” という美学は、だいたいやせ我慢からできている


 今夜の風の香りは あの頃と同じで
 次の恋でもしてりゃ 辛くないのに

こんなにも惨めな気持ちなのに、この期に及んでもまだこの男は「♪次の恋でもしてりゃ 辛くないのに」と軽口をたたいている。傲岸不遜にも程がある。最低な男だ。でも、このイキった男の虚勢こそが “男らしさ” のもう1つの顔なことに気づいただろうか? これ、男として生きてきた人ならば、思い当たるふしがあったりするよね。

気っ風がよい粋な気性や振る舞いこそが、世間的に認知される男らしさだ。肉体的、精神的に追い込まれたときでも “面白くなってきやがった” と強がってみせる姿はまさにナイスガイ。そう “男らしさ” とは美学であり、常に自分もそうありたいと願う憧れの姿である。けれどその姿とは裏腹に、男らしさの実情は、頼もしい男を演じているだけの痩せ我慢であって本音ではやっぱり辛いのである。

女の恋は上書き、それに対して、男は失恋の痛みを全て抱えて生きてゆく生き物


あれこれ言うかげには愛情があったことを、見ぬくべきだった。花って、ほんとに矛盾してるんだね!でもぼくはまだ、あまりに子どもで、あの花を愛することができなかった

『星の王子様』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著 新潮社 / 川野万里子(訳

これは、サン=テグジュペリの『星の王子さま』からの一節である。これを読むと、今も昔も人間という生き物は大して変わらないことがわかる。これ、「シングルベッド」の男そのものじゃないか。「♪次の恋でもしてりゃ 辛くないのに」とサビで繰り返された歌詞。この男は、自分が甘ちゃんだったことにもう気づいているのだろう。

失敗を積み重ねることで人は成長する。弱い自分を自覚したそのときから時は動き始めるのだ。女の恋は上書き保存と言われるけれど、失恋の痛みを全て抱えて生きてゆくのが男というもの。そのやせ我慢こそが真の男らしさではなかろうか。失意のどん底にいるこの男に幸あれと願って止まない。

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