北海道の原風景…900キロの馬が森にやさしい林業の相棒「馬搬」だからできること
馬が畑を耕し、木材を運ぶ、馬搬(ばはん)という仕事を皆さんは、ご存知でしょうか。
昭和の時代には当たり前だった北海道の風景に魅せられた家族を追いました。
林業を営む『西埜馬搬(にしのばはん)』の西埜将世(にしのまさとし)さん(45)。
馬搬とは、馬の力を利用して山林で伐採した木を運んだりすることです。
仕事の相棒は約900キロの“ばん馬”。
そこには、森にやさしいエコな林業の現場がありました。
北海道恵庭市出身の西埜さん。仕事の相棒はおよそ900キロの“ばん馬”、カップ(9)です。
野生動物の生態や自然体験施設のスタッフ、林業会社などで勤めていた西埜さん。
岩手で“馬搬”の存在を知り、“馬搬”の本場とされるヨーロッパを訪ねるなど、学びを重ねます。
そして2017年に、一家4人で北海道の厚真町に移住。
馬搬林業家としての日々が始まりました。
「林業や森づくりの現場でも、場所を選べば、今の時代でも馬のほうが活躍できるよさがあるなと思ったので、可能性を感じてやりたいと思ったんですよね」## 林業に馬を復活させる意味
1964年の日高町。雪の中、馬が林道で大きな丸太を運んでいます。
時には山に登り、時には畑を耕したり、収穫した大量の大根を運んだり…。
かつて馬は人にとって家族であり、仕事仲間でもありました。
その林業に馬を復活させる。利点はどこにあるのでしょう。
向かったのは、北海道栗山町のブドウ畑でした。
馬が繋げられたのは、ヨーロッパで伝統的に使われている農耕器具。
通ったあとには、20センチほどの溝ができています。
雑草の根を細かくして、土の養分にしながら溝を作る。馬の蹄も畑を耕す効果があるとされています。
機械では真似できない、土にやさしい作業です。
このブドウ畑を管理するヴァインシュトックさんは「いろいろいいことがあります。馬がいるだけで、楽しい」と話します。
元競走馬“カップ”の活躍
ばんばの“カップ”は元競走馬。
レースは一つも勝てませんでしたが、西埜さんの目にとまりました。
力仕事だけではありません。
時にはイベントにも参加します。
沢山のお客さんの前で次々に装飾品がつけられていくカップ。
東北・岩手の伝統神事で行われている「チャグチャグ馬コ(うまっこ)」のモデル馬に抜擢されたんです。
西埜さんの次女みのりさんを乗せて行進!
西埜さんはイベントには家族で一緒に参加して、馬の魅力を広く伝えていきたいと話しています。
機械では難しい場所でも…
この日の現場は、山に入り、木材運びなどする作業。
馬が一番必要とされる大きな仕事です。
傾斜のある山林。
機械を入れると倒れる危険性がありますが、馬は、いとも簡単に木々をすり抜けながら登っていきます。
この日、倒した木が隣の木に引っかかるアクシデントが発生しました。
そんなときにも“カップ”の力がピンチを救います。
丸太は1本200キロから300キロ。
馬の体重の半分くらいまでは、このような条件下でも運ぶことができるそうです。
作業を依頼した三菱マテリアルの川合英之さんは「機械だと森の中に入って、道をつくって木を取ってこないといけないが、馬搬は、ほかの木を切らなくても、森を傷めず木を出せるのが一番のメリット」と話します。
樹木をすべて切ってしまう“皆伐”ではなく、森を維持しながら未来を考える…。
馬が運搬するのでCO2も出さない、エコな作業となります。
西埜さんは馬搬に未来を感じています。
「生き物で大変なところもあると思うけど、やっている人が少ないからこそ、いろいろな人と興味ある人と一緒に(技術を)高められたらと思う」
最初は仕事はゼロだったそうですが、だんだんと仕事も仲間も増えているという馬搬。
見学に来る人がいたり、トレーニングを担当しているスタッフもいて、関心のある人も少なくありません。
実際、「山での仕事」は年間90日ぐらい。
効率化を求めるなら機械化した方がいいのかもしれません。
しかし、馬と一緒に暮らし、その環境を維持していくという西埜さんの日々は、単に効率を求める生活では得ることができない、とても豊かな時間になっています。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年2月10日)の情報に基づきます。