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【歌手・いしだあゆみ】当時は全く売れなかった “名盤” と呼ばれる2枚のアルバム

Re:minder

1977年04月25日 いしだあゆみのアルバム「アワー・コネクション」発売日

いしだあゆみと歌謡曲


いしだあゆみさんが亡くなりました。今年(2025年)3月11日。訃報があったのは同月17日で、テレビでも繰り返し報道されましたが、そのBGMは必ず「ブルー・ライト・ヨコハマ」(1968年12月)で、紹介も「ブルー・ライト・ヨコハマ」などのヒット曲で知られ、映画やドラマでも活躍した…… といったものでした。

もちろん歌手としての彼女の代表作は間違いなくこの曲で、彼女にとっても、また作曲の筒美京平さんにとっても初のオリコン1位獲得となった記念碑的作品ですが、個人的には、他にも好きな曲はたくさんあります。たとえばその2作前のシングル、「太陽は泣いている」(1968年6月)。やはり京平さんですが、彼が彼女に初めて提供した曲です。

ドラムやベースが思い切り暴れていてロックっぽくて、でもストリングスなど “上モノ” は “ド歌謡曲”。こういう “ビート歌謡” が私はだいたい好きなんですが、そんなサウンドにも負けない強さとハリを持ちながらも、鼻にかかってややハスキーで色っぽいという、独特な彼女の歌声がそこに乗っかると、もう完璧です。ちなみに「ブルー・ライト・ヨコハマ」はドラムが、イントロはけっこうハデなのに、歌に入ると突然奥に引っ込んでしまいます。声をしっかり聴かせたいと考えたのでしょうが、余計なお世話だと思いますね。

それはともかく、筒美京平という天才メロディメーカー、ヒットメーカーが登場したことで、歌謡曲というジャンルは黄金期を迎えるのですが、彼をプロ作曲家の道に引っ張り込んだのが、上記の2曲でも作詞を担当している橋本淳さんなのです。京平さんは生涯でチャート1位曲を39曲生み出しましたが、その最初の曲が「ブルー・ライト・ヨコハマ」。そういう意味でも、いしだあゆみさんの存在は、歌謡曲の発展になくてはならないものだったと言えます。

歌謡曲は、その根幹にあるのはあくまでも “日本的情緒” なんですが、あとはロックでもジャズでもラテンでも、使えるものは何でも使うという “雑食性” が特徴です。“売れるが勝ち” という下品な一面もありながら、日本人にしかつくれないポップミュージックの形であることは間違いなく、もっぱら洋楽に追随するその後のニューミュージックやJ-POPよりは、よほどオリジナリティとおおらかさがありました。上記の2曲「太陽は泣いている」と「ブルー・ライト・ヨコハマ」は、いずれもキーはマイナーだし、悲しげなメロディなのに、全体としてはなんだか明るく、開放感すら感じませんか? つくり手たちのエネルギーや愛情が、音にしっかり埋め込まれているからじゃないか、なんて私は考えています。

「アワー・コネクション」で再興を期す


しかしやがて1970年代中盤になると、歌謡曲人気にも陰りが差し始めます。新しいスタイルが次々と生まれ、音楽が多様化していったからで、演歌やアイドル歌謡は依然として活況でしたが、前者はシニア中心、後者は少年少女世代中心とファン層が偏り、音楽リスナーの中心をなす青年世代の多くは、フォークやニューミュージック、また洋楽などをより好むようになりました。“歌謡曲のほうがニューミュージックよりもオリジナリティがある” と言いましたが、多くの人々にとってオリジナリティなどはどうでもよく、フィクションの歌謡曲より、自分の言葉とメロディで歌うフォーク / ニューミュージックのリアリティと親近感のほうが魅力的だったのでしょう。

いしださんも、1972年頃からシングルがチャートの上位に届かなくなり、1975年からはそれまで年3、4枚コンスタントに出していたシングルのリリース数も減っていきます。そこで立ち上がったのが再び橋本淳さんです。まぁ彼が自ら立ち上がったのか、それともレコード会社のディレクターなりマネージャー、あるいは本人の発案なのかは分かりませんが、歌謡曲とニューミュージックのコラボアルバムをつくる企画が生まれました。

プロデュースと全12曲の作詞を橋本さん、作曲を歌謡曲畑から萩田光雄さん、ニューミュージックから細野晴臣さんが半分ずつ、アレンジもその2人で分担し、演奏は細野さん(bass)、林立夫さん(drums)、鈴木茂さん(guitar)、つまり “ティン・パン・アレイ” を中心に、矢野顕子さんや山下達郎さんもコーラス参加という陣容でつくられたのが、1977年4月に発売されたアルバム『アワー・コネクション』(Our Connection)でした。

名義が “いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー” となっているのは、彼女本来の路線じゃないことを明示して、既存ファンの離反に備えたか、あるいは、ティン・パン・アレイの名を出して音楽好きの青年世代へのアピールを狙ったのか。しかし結局、発売当時はチャートインもできず、橋本さんが目論んだであろう “歌手いしだあゆみの再興" を果たすことは叶いませんでした。ただ、口コミなどでジワジワと広まり、何度もCDが再発され、オリジナルのLPは1万円近くで取引されるまでに評価が高まっていきます。1990年代後半からのシティポップ・ブームでは、名盤としてもてはやされています。

もう1枚の “名盤”


で、実はいしださんにはもう1作、似たようなコンセプトのアルバムがあります。タイトルは『いしだあゆみ』、1981年11月の発売です。アルファレコードに移籍し(それまでは日本コロムビア)、その第1弾でした。村井邦彦さんの右腕として荒井時代のユーミンやハイ・ファイ・セットのディレクターとして活躍した有賀恒夫さんがプロデュース。“アーバン歌謡” というコンセプトの下、岩谷時子さんとユーミンが作詞。サウンドは井上鑑さんのアレンジと、彼が所属していた “PARACHUTE ” というバンドのメンバーたちの演奏が中心となっています。

同年4月にリリースされ、オリコン1位の大ヒットとなっていた寺尾聰の「ルビーの指環」およびアルバム『Reflections』が “井上鑑アレンジ+PARACHUTE演奏” であったことを踏まえての起用でしょうが、残念ながらこちらは、『アワー・コネクション』と同様、当時はまったく売れず、でもやはり、時が経つにつれて再評価され、2017年にはCD化もされました。

どちらも発売当時は知りませんでしたが、『アアワー・コネクション』は私もCDは持っていて、よく聴いていました。でも『いしだあゆみ』の方は最近まで存在も知らず、亡くなってから初めて聴いてみたのですが、正直がっかりしました。で、あらためて『アワー・コネクション』を聴くと、こちらはやっぱりいいのです。

何が違うんだろう? と思い、『いしだあゆみ』も3回聴きました。たしかにどちらも “歌謡曲+ニューミュージック” なんですが、『アワー・コネクション』はそもそも歌謡曲畑の橋本淳さんと萩田光雄さん、そもそもニューミュージック畑の細野さんがそれぞれ自分の得意なことをやっていて、それがうまく噛み合っているので、双方のよさが出ているのに対し、『いしだあゆみ』は、岩谷さんこそ歌謡曲畑だけど、それ以外、プロデュースの有賀さん含めみんなニューミュージック畑だからか、“歌謡曲部分” が弱いと感じます。何と言うか、頭でイメージする “歌謡曲” をひねり出しているだけで、メロディがどうにも面白くない。演奏はさすがにしっかりしていますが、メロディのつまらなさをアレンジでカバーしようとして、でも空回りしている、そんな感じがします。

そして何より、いしださんの歌が違います。“強さとハリを持ちながら鼻にかかってハスキーで色っぽい” のが彼女の歌唱の魅力だと言いましたが、『アワー・コネクション』ではそれがしっかり維持されているのに対し、『いしだあゆみ』での歌唱は鼻にかかってハスキーなだけで、地味で弱々しい。そういうふうに歌うようディレクションがあったのか、ひょっとしたら体調がよくなかったのか。それとも既に女優の仕事に軸足を置いていたので、歌い方を忘れてしまったのか。以前のいしださんなら、たとえメロディが弱くとも聴かせてしまうパワーがありましたが、この歌唱ではどうにもなりません。

“名盤”と言われても信じちゃいけない


ボロクソにけなしてしまいましたが、言うまでもなく私個人の感想で、中には『いしだあゆみ』を聴いて、いいなーと感じる人もいるでしょう。気を悪くされたらごめんなさい。でも私としては、『アワー・コネクション』ははっきり名盤と言えますが、『いしだあゆみ』はやっぱり駄作です。だけど、『いしだあゆみ』が2017年にCD化された時、宣伝コピーには “いしだあゆみの隠れた名盤が初CD化!” とありました。もちろん、レコード会社が自ら “駄作” と言うわけありませんが、メディアや評論家まで、安易に “名盤” という言葉を使い過ぎます。

“駄作” であることは全然悪いことではありません。大谷選手だって10回打席に立ったうち7回は打てないのです。“名盤” はそう簡単にできるものではありません。でもつくる時は誰もがいいものをつくろうと一生懸命やっているはずです。それでも “駄作” になってしまったら仕方ありません。ただ、つくり手は “駄作" であることをちゃんと認識しないといけないし、伝える人もどこがよくないのか理解した上で語らないといけないと思います。でないとその先に “名盤” は生まれてきません。

今はそのあたりがいい加減ですから、“名盤” とか言われてもすぐに信じちゃいけません。信じるのは自分の耳と感覚のみです。いちばんよくないのは “いいと思えないんだけど、自分の耳がおかしいのかな?” などと、自分を人に合わせようとすること。耳はおかしくありません。自信がなかったら確信できるまで聴けばいいんです。

とはいえ、現状『アワー・コネクション』は市場ですぐ買えますが、『いしだあゆみ』は2017年に発売されたCDがもう流通していないようですし、配信サイトでもYouTubeを除いて見当たりません。『アワー・コネクション』への需要はあるが、『いしだあゆみ』へはない。つまり、大衆の感覚は健全だという証拠なんでしょうか……?

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