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“秘めた美”に心ときめく。大人の粋な世界 萩市「春画(はるが)来た!」

山口さん

江戸の美と遊び心が、萩市で花開いています。
舞台は、萩藩御用達の豪商・熊谷家住宅内(重要文化財)にある「熊谷美術館」。現在開催中の展覧会「春画(はるが)来た!」(十三代 三輪休雪 実行委員長)では、江戸時代に「笑い絵」とも呼ばれた「春画(しゅんが)」約100点が展示されています。

春画とは、艶やかな性描写とユーモアが融合した、浮世絵の中でも独特のジャンル。
従来のイメージや18歳未満は入館禁止という制限のため、ちょっと気後れする人もいるかもしれませんが、実際に足を運んでみると、そこには江戸を代表する絵師たちによる、繊細で美しく粋な“日本の美”が広がっていました。

中国から伝わったとされ、平安時代になって日本でも盛んに描かれるようになった春画は、江戸時代に木版画の技術が発達するとともに、一般の町人の間でも広く楽しまれるようになりました。

「笑い絵」「枕絵(まくらえ)」「勝絵(かちえ)」とも呼ばれて、お守りや魔除け、あるいは嫁入り道具の一つとして多くの人々に親しまれていたそうです。

「春画は“教養”であり、“品格”がある」

5月16日に行われた特別鑑賞会では、世界的な浮世絵コレクターであり、本展の監修者・出品者でもある浦上 満氏(浦上蒼穹堂代表)が大人の美術鑑賞として春画の魅力を語りました。

「春画はただの”エロ”じゃない。そこには“品格”があるんです」と浦上氏。

色とりどりの着物や季節を感じさせる花や調度品が描かれ、背景や構図にまで美意識が行き届いています。

男女の行為を超えて、その前後の時間や関係性、物語までもが、繊細に、あるいは洒脱に表現されているのです。

「春画って“どう絡んでるか”だけを見がちだけど、背景に何があるか、どんな関係か、そこが面白い」

まるで短編小説のように、一枚の絵から多層的な物語が読み取れます。

名だたる絵師がこぞって描いた“春”

江戸幕府は享保7年(1722年)に「好色本禁止令」を出し、春画の販売を全面的に禁止。しかし、反骨精神旺盛な江戸っ子がこれに屈することはなく、秘密裏に制作・流通が続きました。
幕府の検閲を受けないことを逆手に取って、豪華で贅沢な春画が次々に制作され、高額で取り引きされるようになったそうです。

結果として、絵師も彫師も摺師も「春画の依頼を受けてこそ一流」とみなされるようになったのです。

その証拠に鈴木春信や喜多川歌麿、葛飾北斎など現在もその名を知られている一流の絵師たちのほとんどが、春画の作品を残しています。

北斎の「蛸と海女」は蛸が女性と交わる刺激的な作品ですが浦上氏は「実は“海女の玉取り伝説”という古典に基づいている。背景を知ると見方が変わるんです」と芸術性の高さと奥深さを教えてくれました。

こうした作品はヨーロッパにもひろがり、ロダンやピカソなど、大物アーティストの作品にも影響を与えたということです。

“ギンガムチェック”に見る粋なセンス

展示作品の中には、背景にギンガムチェックを取り入れた春画もありました。
市松模様や縞模様とは異なり、洋風のモダンさや軽やかさを感じさせるチェック柄は、当時としても斬新だったはずです。

こうした背景からも、春画がただの“性の絵”ではなく、流行や風俗、文化を映す鏡だったことがうかがえます。

高度な“分業制”が支えた印刷芸術

春画は、「絵師」だけでなく「彫り師」「摺り師」の三者による分業によって成り立つ、高度な印刷芸術でもありました。
摺りの美しさ、色の深み、繊細な表現。どれをとっても一流の技術が光ります。

『花鳥余情 吾妻源氏』という豪華絢爛な一冊は、『源氏物語』がモチーフで、華やかで詩的な世界が広がります。

「髪の毛を描いた細い線など、高い技術が見られます。海外の美術館にも収蔵される、日本が誇る文化遺産ですよ」と浦上氏は語ります。

壺にも!—春画が描かれた「古伊万里」

会場には春画が描かれた古伊万里の大壺も展示されています。
色絵金彩の花鳥文様の中に、なんと春画の一場面が織り込まれています。

「焼き物に春画を描くなんて、当時としても非常に珍しい」と浦上氏。

春画はもともと「隠れて楽しむ」文化ゆえに、陶磁器に施すというのは大胆な発想。しかしそこには、日本の技術・美意識・遊び心が融合しているように見えます。

幕末、江戸幕府が黒船のペリーに春画を土産として贈ったという逸話もあり、日本人にとって春画は“見せたくなる芸術品でもあったのです。

感性で楽しむ、知性で味わう。

春画の価値は近年、国際的に再評価されており、そのおおらかさ・自由さゆえに「世界における日本人の印象を大きく変えた」とも言われています。
若い世代や女性からの関心も非常に高く、2013年からロンドン・大英博物館で行われた「春画 日本美術の性とたのしみ」には約9万人、2015年に東京・目白の永青文庫で開催された日本初の「春画展」には3か月で21万人が来場するなど、大きな話題を呼びました。

今回の展示にあわせ、県立萩美術館・浦上記念館では美人画の展覧会、萩ツインシネマではドキュメンタリー映画『春の画 SHUNGA』の上映が行われるほか、飲食店が連携する街歩き企画も開催中。町ぐるみで“春の文化”を楽しむムードが広がっています。

「春画をどう見るか、どう楽しむかは自由」

春画展は、ただ“見る”だけではありません。笑っても、驚いても、考えさせられてもいい。人間の根源的な営みに、驚くほどの美意識とユーモアが込められているのです。

萩の春画展は、そんな“秘めた美”との出会いの場所。江戸時代の人々が育んだ柔らかな感性と、美を遊ぶ知性を、ぜひ感じに来てください。

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