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福岡・天神の賃料動向と都市開発 ーデータで見る成長性と将来への視点ー

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福岡・天神の賃料動向と都市開発 ーデータで見る成長性と将来への視点ー

福岡市の都心部、天神。九州を代表する商業・ビジネスの中心地であるこのエリアは、現在進行中の大規模再開発「天神ビッグバン」によって、その姿を大きく変えつつあります。今回、天神エリアの賃料相場が近年どのように推移しているのかを具体的なデータに基づいて分析するとともに、その背景にある福岡市の成長要因や都市開発の影響について考えます。

福岡市の中心に位置する天神エリア

福岡市中央区に位置する天神は福岡市内で最も商業施設が集中しているエリアであり、多種多様な店舗が集積しています。百貨店、ファッションビル、飲食店、ホテルなどがひしめき合い、あらゆるニーズに対応できるショッピング体験を提供しています。

 

これにより、地元住民はもちろんのこと、福岡市外や九州各県からはもちろん、国外からも多くの人々が買い物を目的に天神を訪れています。その商業的な魅力に加え、圧倒的な集客力も誇るのが九州最大の商業・ビジネスの中心地、天神です。

 

 

2025年4月に開業した商業・オフィス・ホテルを備えた都市型施設「ONE FUKUOKA BLDG.」

 

福岡市が公表しているデータによると、天神エリアの昼間人口は約36万人にのぼり、夜間人口の約4倍にも相当します。これは、単に商業施設で働く人々だけでなく、交通の利便性から通勤・通学で天神を経由する人々、そして天神を目的地として訪れる人々が多いことを示しています。

 

また、福岡市全体では、2023年にはコロナ前を上回る過去最高の2,309万人の入込観光客が訪れています。これらの観光客の多くが天神エリアを訪れることを鑑みると、国内外からの観光需要も天神の集客力を一層高めていることがわかります。

 

現在進行中の大規模再開発プロジェクト「天神ビッグバン」により、エリアはさらなる変貌を遂げており、ここ1~2年の間に、天神エリア内では新たなランドマークとなる施設が次々と誕生しました。

 

例えば、2023年6月には「旧大名小学校跡地」に複合施設「福岡大名ガーデンシティ」が開業し、国際的なホテルブランド「ザ・リッツ・カールトン福岡」が入居しました。2025年4月には天神ビジネスセンターの隣接地に「ONE FUKUOKA BLDG.(ワンビル)」がグランドオープンし、新たな商業ゾーンとして注目を集めています。これらの新施設の開業は、天神の魅力を一層高め、ビジネスや観光、居住における多様なニーズに応える中心地としての地位を確固たるものにしています。

 

天神エリアは高価格物件が増え、賃料も上昇傾向

天神エリアは利便性と高いブランドイメージから、賃貸市場においても常に高い注目を集めています。実際の賃料相場は、この数年間でどのような変化を示してきたのでしょうか。二種類のデータから、その具体的な動きを詳しく見ていきます。

 

 

10年間の間で賃料が7万円を超える物件の供給が3倍に!

まず、天神エリア(天神1~5丁目、長浜1~3丁目、舞鶴1~3丁目、大名1~2丁目を含む)の賃貸物件について、家賃帯別の供給戸数と平均価格がどのように変化したのかを、「2015年4月~2020年3月」(以下、前期)と「2020年4月~2025年3月」(以下、後期)の2期間で比較し、市場の構造変化を読み解きます。

 

出典:アットホーム「不動産データプロ」のデータを基に作成

 

両期間を通じて「~7万円以下」の家賃帯が供給戸数において最も多く、天神エリアにおける中心的な価格帯であることがわかります。前期の340戸から後期には397戸へと増加しており、この7万円以下の物件に対する根強い需要が続いている状況です。

 

一方で、「~5万円以下」の比較的リーズナブルな価格帯に目を向けると、前期に86戸あったものが後期には61戸へと減少しています。平均価格自体は4.94万円から4.95万円とほぼ横ばいであることから、この価格帯の物件供給が絞られてきている可能性が考えられます。これは、エリア全体の地価上昇や建築費の高騰などが影響し、低価格帯の物件が供給されにくくなっている状況を示唆しているのかもしれません。また、前期に1戸だけ存在した「3万円以下」の物件は、後期には見られなくなっています。

 

対照的に、10万円を超える高価格帯でははっきりとした変化が見られます。「~10万円以下」の区分では、前期22戸から後期66戸へと供給戸数が3倍に増加。

さらに、前期にはデータ上存在しなかった「~13万円以下」(後期38戸)、「~15万円以下」(後期7戸)、「15万円超」(後期1戸)といった高価格帯の物件が、後期において明確にその数を増やしています。この動きは、天神ビッグバンによる都市機能の高度化やビジネス環境の向上に伴い、より高品質で高価格帯の住宅への需要が高まっていること、そして市場がその需要に応え始めていることの表れと言えるでしょう。

各家賃帯の平均価格を見ても、「~7万以下」で前期6.14万円から後期6.38万円へ、「~10万以下」で前期7.63万円から後期8.77万円へと、それぞれ上昇しており、エリア全体の賃料水準が緩やかに上がってきていると言えそうです。

 

 

ワンルーム物件は5年間で14.3%の値上がり

続いて、天神エリアにおける単身者向け住戸の代表格である1R(ワンルーム)タイプの平均月額賃料(単位:万円)が、2020年4月から2025年1月までの約5年間でどのように推移してきたのか、具体的な数値でその動向を追います。

 

出典:アットホーム「不動産データプロ」のデータを基に作成

 

上記の時系列データから、天神エリアの1R賃料は、2020年4月の6.65万円からスタートし、2025年1月には7.60万円へと達しており、この約5年間で約14.3%の家賃上昇が確認できます。
特に2024年後半からの上昇が目立ち、7万円台を安定して超え、さらに値を伸ばしている状況です。

期間中の推移を詳しく見ると、市場には一定の波があることがわかります。
2021年初頭に7.20万円という一つのピークを迎えた後、2021年後半から2022年にかけては6.5万円台まで値を戻す調整局面がありました。この背景には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による一時的な市場の反応や、新築物件の供給タイミングなどが影響した可能性が考えられます。
しかし、2023年以降は再び上昇基調を取り戻し、特に直近では上昇の勢いが強まっています。この動きは、天神ビッグバンの進捗によるエリアの魅力向上、オフィス需要の回復・増加に伴う就業人口の流入、そして広範な物価上昇といった複数の要因が複合的に作用した結果だと推測されます。

 

 

天神エリアの賃貸市場は引き続き伸びていく

これら二種類のデータ分析を総合すると、天神エリアの賃貸市場の動向として、供給される物件の家賃帯構成が中~高価格帯へとシフトする傾向が見られること、そして1Rのような代表的な単身者向け物件の平均賃料も明確な上昇トレンドを描いていること、この二つの重要なポイントが浮かび上がります。

これらの動きは、天神エリアが元来持つ高い利便性やブランド力に加え、大規模再開発プロジェクト「天神ビッグバン」がもたらす都市機能の高度化と付加価値の向上が、賃貸市場にも具体的な形で影響を及ぼし始めていることを強く示唆しています。質の高い住宅への需要増大や、新たな層の賃貸契約者の出現といった市場の変化も背景にあると考えられます。

 

今後の展望については、福岡市全体の持続的な成長力や、天神ビッグバンが完了した後のエリアの更なる発展への期待値を考慮すると、天神エリアの賃貸市場は引き続き堅調に推移する可能性が高いと見込まれます。もちろん、マクロ経済全体の動向や金融政策の変更、将来的な物件の供給バランスなどは、常に注視していくべき重要な要素です。

 

 

天神および福岡市の成長を支える人口増加と地価上昇

天神エリアの賃貸市場に見られる活発な動きは、福岡市全体の力強い成長ポテンシャルと深く結びついています。福岡市の成長を牽引している主な要因として、以下の点が挙げられます。

 

 

2050年の将来人口が2020年比でプラスとなっている福岡市

まず、特筆すべきは持続的な人口増加です。

福岡市は、特に若年層を中心に、全国の主要都市の中でも高い水準の人口増加率を維持しています。


『日本の地域別将来推計人口―令和2(2020)~32(2050)年―』によると、20政令指定都市のうち、2050年の将来推計人口が、2020年に実施した国勢調査の人口(確定値)を上回っている都市は、川崎市、さいたま市、福岡市の3市のみ。2050年における将来推計人口について2020年を100とした場合、第1位:川崎市104.4、第2位:さいたま市101.2、第3位:福岡市100.6という順位となっており、なんと2050年の将来人口が2020年比でプラスとなっているんです。

 

このことが、住宅に対する旺盛な需要の根本的な背景となっています。国内からの移住者に加え、アジアをはじめとする海外からの留学生やビジネスパーソンの流入も活発で、街に活気をもたらしています。

 

出所:国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口 ―令和 2(2020)~32(2050)年―』

参考:【2050年将来人口】2020年比でプラスの政令市は川崎市、さいたま市、福岡市の3市

 

 

この10年間で住宅地の地価はほぼ倍増!

そして二つ目として、これらの人口動態や経済活動の活発化をダイレクトに反映した地価上昇が挙げられます。
福岡市の住宅地の公示地価は、この10年間で目覚ましい上昇を見せているんです。特に近年ではほぼ倍増しており、その勢いがうかがえます。
例えば、2015年と2025年を比較すると、平均公示地価は大きく伸びています。これは、福岡市全体で地価が約2倍になったことを意味し、特に博多区や中央区といった都心部に近いエリアでは、さらに高い伸び率を記録しています。これらの地域では、公示地価が2.4倍を超えるような全国的に見ても顕著な急成長を見せており、福岡市の不動産市場の活況を明確に示しています。

 

出所:福岡市『令和7年地価公示(福岡市分):区別平均価格及び対前年変動率(住宅地)-平成15年~令和7年』

参考:【公示地価2025】福岡市は住宅地の地価上昇率で2年連続の日本一

 

さらに、積極的な都市開発によるビジネス環境の整備と、それに伴う企業誘致の成功もその要因の一つです。「天神ビッグバン」はもちろんのこと、博多駅周辺で進行する「博多コネクティッド」といった大規模な再開発プロジェクトが、高機能なオフィススペースの供給を拡大させています。これにより、IT関連企業をはじめとする多くの成長企業が福岡に新たな拠点を設けたり、既存の拠点を拡充したりする動きが加速しており、質の高い雇用機会が創出されています。

 

これらの要因が相互に作用し合い、福岡市は「成長する都市」としての評価を国内外で高め、その魅力を一層強化しているのです。

 

 

都市成長と個人の資産形成への道筋

福岡市、とりわけ天神エリアで見られるような顕著な都市の成長は、私たち個人のライフプランや資産形成戦略を考える上で、重要なヒントを与えてくれます。

 

近年の物価上昇の波や、社会経済情勢の先行きに対する不確実性を考慮すると、将来に向けた計画的な資産形成の重要性は、ますます高まっていると言えるでしょう。伝統的な預貯金だけでなく、インフレリスクに対応し得る実物資産への分散投資も、有効な選択肢の一つとして検討する価値があります。

 

成長を続ける都市における不動産は、そうした実物資産の代表例と言えるのではないでしょうか。特に天神エリアのような都心部では、安定した賃貸需要を背景に、中長期的なインカムゲイン(家賃収入)の確保や、エリア全体の発展に伴うキャピタルゲイン(物件価値の上昇による売却益)を期待できるケースも考えられます。

 

ただし、不動産投資には、価格変動のリスク、空室となるリスク、金利が上昇するリスクなども当然ながら伴います。したがって、十分な情報収集と専門的な知見に基づいた、慎重な判断が何よりも不可欠です。

 

重要なのは、都市の成長というマクロなトレンドを正確に理解し、それが自身の将来設計や資産形成の戦略にどのような影響を与え得るのか、多角的な視点から検討を深めることです。

 

 

まとめ:変化する天神を起点に考える未来戦略

福岡市天神エリアの賃料相場は、都市の再開発と経済成長という大きなうねりを背景に、家賃帯の構成変化と全体的な水準の上昇という形で、ダイナミックな動きを見せています。この動きは、天神が今後も九州経済を牽引する中心地として、さらなる発展を続ける大きなポテンシャルを有していることを表しているといえるのではないでしょうか。

 

このような都市の成長と変化は、福岡に住む人々、働く人々にとって多様な機会をもたらすのはもちろん、自身の資産や将来の生活について深く考える上での重要な視点を提供してくれます。変化の速い現代において、信頼できる情報を的確に捉え、主体的に未来を設計していくことの重要性は、今後ますます増していくと考えられます。福岡市の「天神」の進化を一つの具体的なケーススタディとして、将来戦略を再考する、そのきっかけとなれば幸いです。

 

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