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東京タワーのバンジーで大爆笑。バンジーオタクが作った半分アナログの「VRバンジー」

スタジオパーソル

東京タワーやあべのハルカスからバンジージャンプをしたら、どれだけの恐怖を感じるでしょうか。そんな恐怖体験ができてしまうのが『VRバンジージャンプ』です。東京タワーやあべのハルカスの展望台で最新型のVRゴーグルを装着し、シーソー型の装置で体を上下逆さにすることで、あたかも展望台からバンジージャンプをしているような体験ができます。ただ、そのシュールな見た目に爆笑が絶えないのだとか。

開発者は、バンジージャンプが好きすぎる“バンジーオタク”の野々村哲弥さん。今でこそ人気の『VRバンジージャンプ』ですが、リリースしてから半年以上も反響がなく、赤字だったそうです。株式会社ロジリシティの代表取締役を務める野々村さんに、『VRバンジージャンプ』の開発秘話を伺いました。

「やりたいことをテーマにしてみたら?」と言われ、バンジージャンプに着目

――VRバンジージャンプ』を作ろうと思った理由を教えてください。

私は、ラジオ業界で会社員としてはたらいていたのですが、30歳手間でキャリアを見つめ直し「自分の裁量でやりたいことにチャレンジしたい」と思いました。とはいえ何をしたらいいのか分からず、起業を支援する団体に相談したところ「君がやりたいことをやったらいい。やりたいことに絞って、テーマを考えてみたら?」と言われ、昔から大好きだったバンジージャンプに着目したんです。

最初はバンジージャンプのメディアを作るか、リアルのバンジージャンプを提供するかなど、いろいろと迷ったのですが、バンジージャンプは「やってみたいけど怖くてできない」という人が多いので、気軽にできるバンジージャンプを提供したらいいんじゃないかと思いました。もともと体験型アトラクションが好きだったので「バンジージャンプの疑似体験ができる体験装置を作る」というアイデアに至り、VRに目を向けました。

――それからどのように開発を進めたのでしょう?

VRの知識はゼロだったので、まずは論文を読んで「VRはどんな仕組みになっているか」「どうしたら人に恐怖を与えられるか」といった基礎を学びました。

それから一緒に開発してくれるエンジニアを探すため、エンジニアが集まるイベントに足を運び、VRバンジーの企画をプレゼンして「おもしろそうだからやってみたい」と言ってくれたエンジニアをスカウトしました。彼はちょうど転職期間だったので時間に余裕があり、お互いにタダばたらきで開発に打ち込み、プロトタイプのVRゴーグルを作ってもらいました。

ただ、視覚的には恐怖を感じられるほどの映像開発ができたものの、実際に飛ぶ感覚が得られる仕組みを作らなければビジネスにはなりません。2018年9月末に会社を辞めて、翌10月から本格的に体験装置の開発に着手しました。

――体験装置とはどんなものですか?

鉄パイプで作った鉄棒のようなものや、体を括り付ける車輪のようなものなどでした。ホームセンターで売っているような材料を組み合わせた簡易的な装置ですが、材料費だけで100万円くらいかかっています。その後も半年間かけて5種類の開発装置を作り、完成に至るまで延べ500万円くらいの支出がありました。

――その資金はどうやって集めたのでしょうか。

最初は貯金を崩して材料費に充てていましたが、足りなくなってからは法人化して銀行から借り入れを行い、開発費につぎ込みました。5回目の試作品でようやく「これなら商売になる」と手応えを感じ、2019年4月に会社を作っています。

売上が立たず先行きも不透明な状態で、資金繰りには本当に苦労しました。通帳の残高がまずい状態になり、前職のつながりで営業の業務委託仕事を受けて、何とか生計を立てていました。

法人化してからは開発力のあるVR開発会社を巻き込んで、世の中に送り出せる完成度が高い装置開発に着手しました。材料も今までより安全性が高いものを選び、実際のアトラクションとして提供できるレベルにまで高め、開発着手から1年が経った2019年10月にリリースに漕ぎつけています。

リリースするも反響ゼロ。貯金残高もゼロに近づき、あえてスケールダウンさせた

――振り返ってみて、特に大変だったことは?

会社を作る前の半年間は「材料を買って組み合わせる」というアイデアと実装の繰り返しで、生みの苦しみを味わいました。知識不足で正解が見えない中、暗中模索で進んでいった感覚があります。

会社を作ってリリースするまでは「世の中にサービスとして受け入れられるのか」という不安がありました。実際、2019年10月にリリースしてから数か月間は思うような反響が得られませんでした。イオンモールなどの商業施設にイベントを提案しましたが、反応がイマイチだったんです。

――なぜ反応がイマイチだったのでしょうか。

当時の装置は今より大型で、高さ4メートルのやぐらを組んで作ったものでした。体験者がVRゴーグルを装着して自ら飛び込み、宙づりになるという仕組みです。自分の意志で高いところから飛び込むのは実際のバンジージャンプと同じで、かなりリアルに近い恐怖体験ができますが、装置を動かす複数人のスタッフと広いスペースが必要なうえに15分に1人しか体験できないことがネックになりました。

そうこうしているうちに2020年を迎えてコロナになり、とてもイベントができるような状況ではなくなってしまい、ますます追い込まれました。

――コロナ禍はかなりの逆風ですね。どんな対策をしましたか?

手軽に実施できるように装置のスケールダウンをして、今のシーソー型のコンパクトな装置にしました。一人で持ち運べるので、2020年5月に代々木公園に持って行って無料体験してもらおうと思ったら、組み立てして呼び込んでいたら警備員さんにすぐ止められてしまって、知人のレストランの片隅でやらせてもらったりしました。

コロナ禍の緊急事態宣言が解除されてからは「あなたのところへVRバンジージャンプを持って行きます」とSNSで宣伝して、公園やイベント会場で無料体験を行いました。全部無償のPR活動で売上にはなっていませんが、地道に認知度を高めていきました。

――忍耐の時期が続きますね。軌道に乗ったのはいつですか?

2020年の秋に、名古屋のテレビ局から「番組のアトラクションとして使いたい」と連絡が来て取り上げられ、翌2021年にはTBSのお正月特番で松本人志さんに体験してもらい、風向きが一気に変わったんです。そして同年4月に、東京タワーに「VRバンジージャンプの企画を実施しませんか」と提案した企画が通り、ようやく報われました。その後、大阪のあべのハルカスでもイベントの実施が決まり、人気が出た今では両施設で土日祝の常設イベントになっています。

本当に「軌道に乗った」と安心できたのは2022年度の3月期の決算を迎えた時です。東京タワーとあべのハルカスでのイベントに加えて、単発の出張イベントのお声がけもいただくようになり、地元のお祭りや住宅展示場などでも実施しています。おかげで売上も安定してきて、事業としての持続性が見出せるようになりました。

表現活動と商売は違う。笑ってもらえるなら、理想の形と違ってもいい

――改めて、野々村さんのキャリアを教えてください。

ラジオが好きなので、新卒でラジオ業界の営業職に就き、12年間はたらき続けました。やりたいことを仕事にしたい性格なので、ぼんやりと「ゆくゆくは独立したい」と考えていて、営業の仕事を通じて「自分のアイデアを形にする方法」について学んでいました。

30歳を過ぎて1年くらいは無収入で生活できるくらいのお金が貯まり、「バンジージャンプをビジネスにする」という軸も定まったので、33歳で独立して今に至ります。

――苦境でもあきらめずに継続するメンタルは、どのように培ってきたのでしょうか?

タフな性格ではなく、緊急事態宣言下は「このままでいいのかな」と思うこともありましたが、友人やパートナーなど周りの応援してくれる人の期待に応えたいという思いと、自分が今まで積み重ねてきた努力に報いたいという気合いで踏ん張れたと思います。

また、VRバンジージャンプのおもしろさを自信に変えていました。「自分がやっていることはおもしろい」という確信が、継続力につながっています。心が折れないよう、疲れた時は思い切って数日休むのも大事だと感じました。

――VRバンジージャンプの会場では、大爆笑が起きているそうですね。

見ている人も体験している人も、よく笑いますね。VRゴーグルをつけてはいるものの、シーソー型の装置に乗って、それを係員が逆さにしているだけなので、悲鳴を上げて怖がっている様子がちょっと滑稽なんです(笑)

もともとの大きい体験装置からバージョンダウンして気付いたのは、表現活動と商売は違うということです。僕はバンジージャンプの恐怖感を忠実に体験できる表現活動を目指していましたが、みなさんはもっと楽しくお手軽なバンジージャンプ体験を求めていました。

バンジージャンプオタクなので、こだわりをもっと追求したい気持ちがありますが、求められたことに合わせていくのが商売です。皆さんに笑って喜んでもらえるなら、今のお手軽な楽しさをもっと伸ばしていこうと考えています。いつかは自分の意志で飛び込める体験装置も作りたいですね。

(文:秋カヲリ 写真提供:株式会社ロジリシティ)

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