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四日市出身の俳優 高川裕也さんの朗読 静謐に潜む不穏な世界「薬指の標本」観劇レポート

YOUよっかいち

小川洋子作品の静かで奇妙、不穏な世界観を見事に表現した高川さん

 芥川賞作家小川洋子さんが1992年に発表した中編小説「薬指の標本」の朗読を、「カンブリア宮殿」などテレビ番組のナレーターとしても活躍する俳優の高川裕也さんが、2月11日に四日市市海山道町の三浜文化会館で開かれた「三浜ステージリーディング」(四日市市文化まちづくり財団主催)で披露した。無機質な空間で展開するミステリアスで静謐なドラマ。じっくりと聴かせる作品に仕上がった公演の様子をレポートする。

 白い布が垂らされ、不規則にふんわり揺れる空間に椅子2脚とサイドテーブル。照明が怪しい影を落とす。奥のドアから登場した高川さんは、テーブルに透明のティーカップを置くと来たルートを戻り、再びドアの向こうへ。次にタブレットを手に現れると、おもむろに椅子に腰掛ける。と、同時に物語の世界が動き出した。

 事故で薬指の先が欠けてしまった「わたし」が働くのは、人々の封じ込めたい思い出の品が持ち込まれ保管される「標本室」という風変わりな場所。ある日、経営者で標本技術士でもある弟子丸氏から、オーダーメイドのようにぴったりの靴を贈られ、彼との奇妙な恋愛が始まる――。

【サイドテーブルのティーカップ。静けさに寄り添うようなシンプルな小道具】

 淡々と語られる中に、胸の奥がチリっと焼け付くような痛みを感じさせられる。火災ですべてを失った少女が見つけた焼け跡のきのこ。老衰で死んだ文鳥の遺骨。きのこの保管を依頼した少女自身の頬の火傷。靴に侵食されてゆく「わたし」の足、そして欠けた薬指の先。

 静謐の中に不穏が見え隠れし、破滅的かつ耽美的な終幕に向かう物語を、なにしろ淡々とペースを乱さず読み上げる高川さんの声の力に、客席の方も身動きするのが憚られるほどの静けさで応えていた。

【高川さんの声の力で会場は物語に引き込まれた】

◆観客の声  
 「小川洋子さんの作品中、特に心に残っているものだったので、どんな風に読まれるのかわくわくしていました」と感想を語ってくれたのは、市内在住の70代女性。「読み手が自分の感覚を押し付けてくるのではなく、聴く者の感じ方が試されるような気がしました」。

 高川さんが三浜ステージリーディングの関連企画として講師を務めたワークショップ「はじめての朗読」(1月24日開催)を受講したという60代の女性は、「ワークショップは練習不足で参加し、反省しています。1時間以上を変わらないテンションで読み進めていくのはすごい技術だと思いました」と感心しきりだった。

◆朗読による実験的な挑戦
 終演後、高川さんは「三浜ステージリーディングは、読みたいと思った作品に挑戦させてくれる企画でありがたい。今回は静の中に波打つ不穏さの欠片、女性ならではの心情などを表現したかった」と語り、次回公演への意欲を見せた。昨年の「柘榴坂の仇討」では、朗読を活劇さながらに魅せ好評を博した。淡々と静謐に潜む不穏を読んだ今回の「薬指の標本」は、午後1時からの初演は満席、同4時からの2回目公演もほとんどの席が埋まった。高川さんの朗読による実験的挑戦の継続に期待したい。 

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