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初めての無重力空間は「温かくて、懐かしい」~宇宙飛行士・山崎直子さん

TBSラジオ

ファッションデザイナー:コシノジュンコが、それぞれのジャンルのトップランナーをゲストに迎え、人と人の繋がりや、出会いと共感を発見する番組。

山崎直子さん
1970年、千葉県松戸市生まれの日本人宇宙飛行士。東京大学大学院工学系研究科を修了後、宇宙開発事業団に入社。国際宇宙ステーションの開発業務に従事しながら宇宙飛行士を目指し、2度目の受験で宇宙飛行士に選抜され、2人目の日本人女性宇宙飛行士として2010年にスペースシャトル・ディスカバリーに搭乗。その後は宇宙政策委員会委員、札幌市青少年科学館名誉館長、女子美術大学客員教授、鳥取県宇宙部長などを歴任しています。

出水:子どもの頃はどんな夢を抱いていたんでしょう?

山崎:のんびりした子どもで、親に聞くと、散歩に行ってもすぐおんぶや抱っこをせがむ子で「この子は歩かないんじゃないか」って心配していたらしいです(^^)

JK:それが最終的に宇宙に浮くなんてね(笑)宇宙に興味を持ったのは子どものころから?

山崎:はい、星がきれいだなっていうところから始まりました。それと当時は「宇宙船ヤマト」とか「スターウォーズ」とかSFが流行ってましたから。

出水:最終的に進路を宇宙に決めたターニングポイントはあったんですか?

山崎:中学校3年生の時にスペースシャトル・チャレンジャー号の打ち上げをたまたまTVで見て、あいにく事故になって乗っていた方も犠牲になってしまったんですが、逆にSFの世界ではなく、現実の世界で、こうして失敗を乗り越えながら宇宙で活躍しているんだ、ということが印象に残って。「私も宇宙飛行士になりたいな」と思いました。

JK:今は女子美の先生をしてらっしゃるんでしょ? 宇宙飛行士のデザインですか?

山崎:私はコシノ先生のようにアートは教えられないんですけど(^^;) 面白いのが「宇宙史とアート」という授業があって、その宇宙のパートを担当しています。例えば、無重力の中でインテリアをデザインするとしたら、どんなデザインができるか?とか。

JK:人間が浮いてる中で、どういうインテリアにするかってことね。

山崎:そうです。テーブルも上だけでなく、誰かが下も同時に仕えるようにするとか。寝る時も床だけでなく、天井に寝袋を置いて寝ることもあるし、壁に立ったまま寝ることもできるので、狭い空間でもけっこう広々と感じられるんです。

JK:そうですね、上も下もないものね。また不思議! 宇宙のファッションってなると、スカートなんか上にあがっちゃうのかしら?! 逆に上がることで、スカートの裏がかっこいいとか。面白いじゃない? 女子美でやってください!

山崎:ぜひ一緒に!

JK:色も同じに見えるんですか? 地球でみるのと、宇宙で見るのと。

山崎:おそらく一緒だったと思うのですが、宇宙船の中は白だったりところどころ青だったり、どうしても無機質なんですが、みんなで宇宙食を食べるときに集まる場所があって、そこはサーモンピンクになってたんです。地上で見た時は「サーモンピンクなんて変だね」って話してたんですけど、宇宙に行ったらそれがすごく落ち着く! 暖色ってあんまりないんです。

出水:地上で見るのとは印象が変わるんですね。

山崎:あとは一部の壁のカーテンが深い緑になっていて、どこか地球の自然を感じさせたり。実験室っぽい配色だけでなく、生活空間には温かみが必要だなと思いました。

JK:そういう宇宙デザイン専門の人がいたのね。もっとこうすればよかったのに、って改革するところはないんですか? スイッチ入れたらぱっと色が変わるとか。そのぐらいやってもいいんじゃないですか?

山崎:スペースシャトルの場合、飛行機のように機械的な装置が壁一面にあって、それをひとつひとつ覚えるのが大変だったんです。ただ今はそれがほとんどなくなりまして、タッチスクリーンパネルでほぼ全部操作できるようになりました。なのでスマホを操作するような感覚で宇宙船を操作する時代になりました。

出水:こんな言い方したら失礼ですけど・・・昔と比べて簡単になったってことですか?

山崎:打ちあがって、宇宙ステーションにドッキングして、また地球に戻るまで全自動。人が操作しなくても自動運転で戻ってくれるようになったんです。そこまで進化しました。もちろんハプニングは起こるので、その時は対処できるように訓練しなければいけませんが。

JK:電気自動車の自動運転と同じですね! 今は楽ですね~。日本から打ちあがるってことはないんですか?

山崎:それを目指そうといくつかの企業が頑張ってます! 私もSpace Port Japanというプラットフォームを作りました。人工衛星は日本からもたくさん打ちあがっていますけど、いずれは人間も打ち上がるようになると思います。

JK:山崎さんの人生マサカだらけだと思いますけど・・・

山崎:そうですね、最初のマサカは宇宙飛行士の候補者選抜に受かった時ですね。誰が受かってもおかしくない状況で、毛利衛宇宙飛行士から直々に電話をもらうんです。最初は「今日は何食べましたか?「昨夜はよく眠れましたか?」雑談から始まって、でもこちらは緊張してそれどころじゃないですよ、毛利さん!っていう感じだったんですけど、それから「おめでとう」と言っていただいて・・・マサカでした!

出水:選抜試験はどんな内容なんですか?

山崎:1年ぐらいかけて行うんです。最初は書類審査、筆記試験、医学検査、そして最後は1週間、みんなで大型バス2台分ぐらいの閉鎖環境施設に閉じ込められて、その中で缶詰になって心理テストやグループワークを行いました。

出水:おそらくそこで見られているのは、協調性だったり、統率力、リーダーシップ・・・

山崎:そうですね、宇宙空間そっくりの閉鎖環境で・・・でも皆さんとても良い方ばかりで、楽しかったです。目的が一緒なので「仲間」という感じでした。今でも時々同窓会をやっています(^^)

JK:また行きたくないですか?

山崎:行きたいです! 私は今JAXAから離れているので、またイチからになりますけど・・・宇宙に初めて到達して無重力で身体が浮いた時に、すごく懐かしいなあと思ったんです。宇宙に到達したのは初めてでしたけれど、故郷のような温かい感じがしたのがマサカ体験でした。上も下もない世界でぷかぷか浮いていた時に、私たちも地球もみんな宇宙の一部なんだなあ、と。宇宙は遠いところではなくて、自分の故郷やルーツを探りに来ているように思えたのが不思議でした。

出水:それは行かないと感じられないですね!

JK:人間も宇宙の中で生きてるんだものね。お母さんのおなかで、羊水の中で人間が生きてるってこと自体も宇宙でしょ。

山崎:小宇宙ですね、その時のことを思い出すのかもしれませんね。また宇宙に戻れたらいいなと思いますし、その時にはたくさんの人が宇宙に行ける世の中にしてほしいと思います。そうなったら月に小さな寺子屋を作って、小さな学校ができたらいいなと思います。

JK:宇宙に?! 良いわね!

山崎:世界中の子どもたちが集まって、地球を見ながら、地球のこと、歴史のこと、138億年前にビッグバンで始まったといわれる宇宙の成り立ち、そこからみんな1人1人生まれたという共通の歴史を学んで、それぞれの国にまた戻っていけたらいいなと思います。

JK:今デザインの学校で教えていらっしゃるでしょ。デザインの原点って整理することなんですよ。何かあったら、デザインされてるわけでしょ。何もないところから整理して、プラスにするのかマイナスにするのか判断するところからデザインが始まる。いろんな生活すべてがデザインだから。

山崎:すべてがデザインと関わってくるんですね! そうすると宇宙の生活もすべてが新しいので、ひとつひとつデザインしていくことになるんでしょうね。宇宙船の中も上下ないんですが、逆に分かりやすくするために、天井はどちらの面と決めて照明を配置するんです。逆に床面は濃い目の配食をしたり。それもデザインなんですね!

出水:将来的に私たちも、もしかしたら宇宙に住むことになるかもしれないじゃないですか。未来の宇宙の家は、山崎さんはどんなものになると思いますか?

山崎:無重力は実は身体に優しくて、歩かないで済むので、足が不自由になっても不自由ではなくなるんです。肩こりもなくなりますし(^^)いろんな方が過ごしやすくなる宇宙基地が作れたらどうかな、と考えています。

JK:宇宙って平等ですね! 地球にたくさん星がありますけど、どの星に行きたいとかは?

山崎:まずは月に行きたいですね。でもやっぱり、子どもの時に天体望遠鏡で見た土星の環っかの近くまで行けたら、とも思いますね。

出水:最近、月の裏側に到達したっていうニュースがありましたけど、裏側って??

山崎:そうなんです、私たち地球から見ているお月様は表側しか見えていないんです。地球と同じスピードで動いているので、裏側はふだん見えない。

JK:裏は真っ黒ですか?

山崎:裏側はまた材質が違っていて、黒っぽく見えます。探査機を裏側に着陸させるのは難しいんですが、最近中国の探査機が世界で初めて裏側に到達したんです。地上と直接通信することができないので、別に通信できる衛星も運んで、何年もかけて準備をして到達したんです。

出水:裏側に到達する意味というのは・・・?

山崎:よくわからなかった裏側を科学的に知れるのはワクワクすることですよね。また月に基地を作ろうというアルテミス計画というのがあるんですが、月の南極域に氷がたくさんあると言われています。それが表側と裏側にまたがっていて、この辺りを良く調べたい。月は広しといえども、やっぱり一等地はありまして、それが南極の辺りなんです。

JK:今のうちに一等地をゲットしておかなきゃ! 早く日本の旗を立てないと!

山崎:やっぱり早い者勝ちになってしまうので(^^;)

出水:国際的にも宇宙を取り巻く競争が激化しているというわけですね。

山崎:日本ではJAXAがもともと持っているロケットの打ち上げ場があるんですが、人工衛星をもっと打ち上げようという需要が高まっているので、自治体独自の宇宙港=スペースポートを複数作っていこうと。今は海外から打ち上げざるを得ない人工衛星を、日本から打ち上げましょうと。いずれは人間も打ち上げられるようにと整備を進めています。

出水:宇宙に憧れがあるから応援したい、という個人はどうすればいいですか?

山崎:現地に行っていただいて、スペースポートの様子を見ていただくと地域が活性づきますし、一部ふるさと納税という形で応援できる制度もありますので、ぜひ!

(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)

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