煌びやかな世界と魅力的な音楽に酔いしれる 『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』ゲネプロレポート~平原綾香×井上芳雄ver.
バズ・ラーマン監督による名作映画『ムーラン・ルージュ!』が、煌びやかなマッシュ・アップ・ミュージカルとして生まれ変わり、2019年にブロードウェイで初演が行われた『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』。アレックス・ティンバースが演出を務め、世界最高峰のクリエイターによって豪華絢爛な世界を作り出し、トニー賞最優秀作品賞(ミュージカル部門)をはじめとする10部門の受賞に輝いた。
2023年の日本初演では、世界初の試みとして、松任谷由実をはじめとする現在の日本で活躍するアーティストたちによる訳詞提供が実現。開幕早々にチケットがSOLD OUTになるなど、多くの観客の心を掴んだ作品が2024年6月20日(木)よりスタートした。
日本初演に引き続き、ムーラン・ルージュの看板スターのサティーン役は、望海風斗と平原綾香(Wキャスト)。作家志望の青年でサティーンと出会い恋に落ちるクリスチャン役は井上芳雄と甲斐翔真(Wキャスト)。初日を前に行われた、平原綾香、井上芳雄、橋本さとし、上野哲也、K、中井智彦、藤森蓮華らによるゲネプロの様子をお届けしよう。
※以下、配慮はしておりますが、ネタバレを含みます※
初演と同じく、客席に足を踏み入れた瞬間、真っ赤で煌びやかな世界に圧倒される。風車や象、シャンデリアといったセットと異国情緒溢れる音楽で、一気にナイトクラブ『ムーラン・ルージュ』に誘われた。
物語は華やかで美しいショーからスタート。ニニ(藤森蓮華)たちがパワフルでセクシーなダンスを披露する中、支配人のジドラー(橋本さとし)が陽気に登場し、「フレンチ・カンカン」で客席との一体感を作っていく。ゲネプロながら多くの感性と拍手が起き、劇場内はあっという間に熱気に包まれた。
本作の大きな魅力の1つが、「天国と地獄」で知られるオッフェンバックからエルトン・ジョン、マドンナ、レディー・ガガまで、幅広いポピュラーミュージックをアレンジした約70の楽曲たち。バンドの生演奏に、原曲の良さを損なうことなくキャラクターの心情やシーンを届ける日本語訳の歌唱がのり、自然と物語に没頭できるようになっている。「ムーラン・ルージュ」の煌びやかな世界を楽しむと同時に、訳詞の美しさにも注目してほしい。
サティーン(平原綾香)は華やかな佇まいと高い歌唱力で文字通り“ダイヤモンド”のような輝きを放っている。ステージのパフォーマンスでは圧倒的な華やかさを、一人きりの部屋で歌う姿からは芯の強さや覚悟を見せる彼女が、クリスチャンに出会って少女のように笑うのが愛おしい。
クリスチャン役の井上芳雄は、多少世間知らずな青年を初々しく描き出す。画家のロートレック(上野哲也)やダンサーのサンティアゴ(中井智彦)と芸術について意気投合する情熱、無鉄砲さが微笑ましい一方、ピュアだからこその危うさも感じさせるバランスが接妙だ。
二人が出会うシーンで歌う「SHUT UP AND RISE YOUR GLASS」は、エモーショナルで希望に満ちている。未来がどこまでも広がっていると信じている若者の勢いや情熱、ロマンスの予感に、物語の結末を知っていてもワクワク、ドキドキさせられた。「YOUR SONG」ではクリスチャンの不器用だがまっすぐな言葉が美しいメロディと共にサティーンの心を溶かしていくのが見てとれ、二人の恋を応援したくなる。
そんな二人の前に立ちはだかるモンロス公爵・デューク(K)は金の亡者で悪役のように感じられるが、クールな中にお茶目さがあったり、クリスチャンたちがでまかせで提案した舞台公演に出資したりと、どこか愛嬌がある。サティーンを大切にしていないわけではないと感じられることもあり、憎みきれない人間味が魅力だ。
『ムーラン・ルージュ』の華やかなショー、サティーンとクリスチャンの劇的な出会いが描かれた一幕に続き、二幕では燃え上がるような恋と悲劇が魅力的な音楽にのせて語られる。
踊り子たちやジドラーのサティーンに対する愛情と友情、自身の役目と愛の板挟みになるサティーンの苦悩、デュークに嫉妬するクリスチャンの暴走など、人間関係や本心が掘り下げられ、見応えがあった。長年にわたりサティーンを見守ってきたロートレックのあたたかい視線も作品のスパイスとなっている。
サンティアゴとニニを中心としたラテンダンスが繰り広げられる「BACKSTAGE ROMANCE」も大きな見どころ。しなやかでキレのある身体表現は、セクシーかつ力強い。その美しさを引き立てる照明や演出に魅了される。ステージで披露される圧倒的な華やかさ・煌びやかさとはまた違う迫力が存分に楽しめるナンバーだ。
「ムーラン・ルージュ」で上演する新作公演の準備が進む中、三角関係の拗れや病といった困難が次々にサティーンに降りかかる。「CRAZY ROLLING」は、ロック調の楽曲で雰囲気をグッと引き締め、ラストに向けて緊張感を高めていた。
聞き応えのある楽曲、キャスト陣が作り上げた魅力的なキャラクターたちはもちろん、丁寧に作り込まれた衣装や舞台美術も見逃せない。細やかに仕上げられた衣装は、遠くから見てもその仕事ぶりがわかる美しさ。本物のキャバレーが舞台上に現れたかのような豪奢なセット、劇中劇で登場するロートレックの絵画なども設定にリアリティを与え、物語にのめり込む手助けをしている。
また、カーテンコールでは全員揃って作中のナンバーを歌い踊る。本編に負けないテンションで客席を煽るジドラー、格好良さとセクシーさ、キュートさを兼ね備えた踊り子たちをはじめとするキャスト陣が大いに盛り上げてくれる。ラストはバンドがノリのいい楽曲のアレンジを披露し、ゲネプロだということを忘れるほどの熱狂の中で幕を閉じた。
ぜひ劇場で夢のような空間とショーステージを体感し、サティーンとクリスチャンの恋の行く末を見届けてほしい。本作は、2024年6月20日(木)~8月7日(水)まで東京・帝国劇場、2024年9月14日(土)~28日(土)まで大阪・梅田芸術劇場メインホールにて上演される。
取材・文=吉田沙奈