将軍家茂はなぜ久能山へ? 「徳川家茂と久能山参拝」見どころ解説【駿河区・久能山東照宮】
静岡市の久能山東照宮博物館で、「徳川家茂と久能山参拝」の展示が4月12日から始まりました。実は徳川将軍の久能山参拝は珍しかったそうです。見どころや、家茂久能山参拝の謎に迫ります。
徳川記念財団の常設展とは
約3年ぶりとなる徳川記念財団の常設展が4月12日より始まりました。
徳川記念財団は徳川家宗家当主が設立した財団で、戦火を乗り越えて代々引き継がれてきた品を全国各地で展示しています。
久能山東照宮博物館では2階で開催され、2カ月ごとにテーマや展示品が変わります。
お休みしていた3年間は所蔵品を調べ直し、新発見もありました。初公開となる新発見の品々も含めた約20点が展示されています。
展示の再開にあたり準備に来ていた徳川宗家当主19代目の妹であり、徳川記念財団の理事でもある徳川典子さんに再開への思いと、今回のテーマである家茂について聞きました。
徳川記念財団・徳川典子 理事:
一言で徳川家といっても歴代によって、全く時代も人生も変わります。この機会が徳川家を知るきっかけになればと思います
4月12日から始まった展示のテーマは14代将軍の家茂。久能山東照宮を参拝した静岡との関わりがある特別な将軍です。
今回のテーマは「徳川家茂と久能山参拝」
全15代の徳川家将軍のうち、久能山東照宮を参拝したのは2代目の秀忠と3代目の家光、そして14代目の家茂の3人だけです。
秀忠や家光は父であり祖父である家康の墓があるので十分考えられますが、家茂が参拝したのはそれから229年も後のこと。
江戸城を長く留守にしてまで、多くのお供を引き連れ、代役を使うことなく自ら赴いたのには理由があったはずです。
徳川記念財団・徳川典子 理事:
久能山東照宮は家康公をおまつりするお宮です。その家康公が一番望んでいたのは戦のない平和な世です。幕末の動乱の中、家康公のように平和な世にしようと祈願に来ていたのでしょう
徳川家茂は4歳で紀州藩主となり、13歳で将軍に。しかし21歳で死去、幕末の動乱の世を生きました。
18歳のとき上洛(江戸から天皇のいる京都へ行くこと)に合わせて久能山東照宮へ参拝します。
徳川記念財団・徳川典子 理事:
家茂公は若くして将軍になった方です。お付きの人がご意見番でいたかもしれませんが、記録や遺品からは将軍として武士、天皇、外国の狭間に立たされながら一貫した意志を持ち、威厳があったと考えられます。上洛や参拝もそれなりの考えがあったことを示しています
【見どころ1】初公開 和宮が描いた草花や動物
家茂公を語るのに欠かせないのが、政略結婚でありながら仲睦まじかったといわれる正室の和宮です。
当時の天皇の妹で、幕末に天皇家と将軍家とで意見が割れていた中、二人が遺した物からどんな思いを持っていたのかが感じられます。
今回の展示には、初公開となる和宮が描いた草花や動物などの下絵があります。
近くで見るととても細かく描かれているのが分かり、どんな色で塗るかや女中の名前などが、メモ書きされています。
動乱の世とは思えないくらい、平和で楽しそうな絵ですが、それは和宮が置かれた状況の裏返しとも言えると学芸員の小糸咲月さんは言います。
徳川記念財団 学芸員・小糸咲月さん:
こんなにたくさんの絵を描いて、大奥の生活を楽しんでいたとも思えますが、上洛で家茂公が不在であり、不安定な世であったがため、気をまぎらわせ心を落ち着かせるために、女中たちと絵や刺しゅうなどに没頭していたと考えられます
和宮が描いた女中の姿は、一つ一つ顔つきが違います。いかに女中を大切にしていたかわかる「和宮戯画」は、ぜひ一人一人の女中の名前と顔を見てみてください。
【見どころ2】家茂の書
家茂の書からは、力強さの中に穏やかさを見ることができます。
言葉も中国故事などから選び、部下に贈ったメッセージと言われています。その言葉の選択からは太平の世を求めていた強い意志、その筆跡からはそんな世を目指す力強さと優しさが感じられます。
徳川記念財団 学芸員・小糸咲月さん:
今回展示する家茂公の掛け軸に「昇平多楽事」という言葉があります。意味は「天下は太平。世は楽しきことばかり」。いかに平和の世を望んでいたかがわかります
和宮の和歌にも、志半ばで亡くなった家茂のことを「乱れ厭いし君」と呼んでいる作品があるそうです。意味は「動乱の世が嫌なあなた」。家茂がどんな人であったか、家茂と和宮が遺したお手回り品や書をじっくり見て感じてみてください。
【見どころ3】葵の御紋の違いを探せ!
展示品の中で徳川記念財団の所蔵品は、説明パネルの背景が葵の御紋になっています。
このパネルの御紋もぜひしっかり見てみてください。一言で葵の御紋と言っても、歴代将軍や年代によって微妙な差があるのです。
徳川記念財団・徳川典子 理事:
ある御紋は茎が長く、葉が全て表です。茎が長い葵は年代が古い御紋です。代によって変わり、茎や葉の状態で違いが分かります。これから葵の御紋を見るときは、どんな御紋かじっくり見てみると面白いかもしれません
御城印は家茂参拝の浮世絵がモチーフ
4月から配布が始まった久能山東照宮の「御城印」は、浮世絵師・歌川国綱が描いた「東海道名所之内 久能山」がモチーフになっています。
江戸の浮世絵師が、上洛の様子を絵にしていました。
また2025年度の「徳川記念財団常設展」は2カ月ごとテーマが変わります。「徳川家茂と久能山参拝」が6月12日までで、6月14日からは「徳川将軍家の夏」がテーマです。
1階展示は家康公のお手回り品と刀剣
1階の久能山東照宮博物館常設展では、家康が駿府城で晩年使用していた重要文化財のお手回り品と、久能山東照宮博物館が所有する重要文化財を含む刀剣です。
家康が実際に調合した薬の入ったガラス瓶や、スペイン国王からもらった洋時計などがあります。
使っていた人に価値があると言われるお手回り品と、一つ一つが美術品として価値のある刀剣。それぞれの価値を一度に見られる展示です。
2階の財団展示と1階の博物館展示を一緒に見れば、展示品一つ一つに秘められた徳川家の思いがつながります。ぜひお見逃しなく。
■イベント名 久能山東照宮博物館 徳川記念財団展
■会場 久能山東照宮博物館(静岡市駿河区根古屋390)
■時間 9:00~17:00
■問合せ 054-237-2437
取材/麻衣子