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「高齢者の肥満」完全ガイド! 年齢で変わる適正体重と肥満対策

「みんなの介護」ニュース

長谷川 昌之

高齢者の肥満は、若い世代とは異なる特徴があり、対策方法も変わってきます。

実は、年齢によって適正な体重の判断基準も変化するのです。本記事では、高齢者の肥満の特徴から、介護現場で実践できる具体的な対策まで、詳しく解説していきます。

高齢者の肥満とは?若者との違いを徹底解説

加齢とともに私たちの体は大きく変化します。特に、基礎代謝の低下や筋肉量の減少により、同じ体格でも若い頃とは異なる健康リスクが生じてきます。

まずは、高齢者の適切な体重について考えていきましょう。

高齢者の適正体重はBMIだけでは判断できない

「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算するBMI(肥満度を表す体格指数)は、一般的な肥満判定の指標として広く使われています。例えば、身長160cm、体重65kgの人のBMIは25.4となり、25以上は「肥満」と判定されます。

しかし、高齢者の場合、このBMIだけで肥満を判断すると、実際の健康状態を見誤る可能性があります。その理由として、以下の3つが挙げられます。

第一に、年齢とともに身長が縮むため、何も変わっていなくてもBMIの値が上昇してしまいます。例えば、60歳の時に身長が160cmだった人が、75歳で158cmに縮むと、体重が変わっていなくてもBMIは1ポイント近く上昇します。

第二に、体重が同じでも体の中身が若い頃とは大きく異なります。加齢により筋肉量は減少し、代わりに脂肪が増加します。そのため、BMIが標準範囲でも、実は脂肪が多すぎる「隠れ肥満」の状態になっている可能性があります。

第三に、高齢者の場合、少し肥満気味の方が健康寿命が長いという研究結果もあります。国立長寿医療研究センターの研究によると、65歳以上の高齢者では、BMIが22~25程度のやや高めの範囲の人の方が、低体重の人よりも健康で自立した生活を送れる期間が長い傾向にあります。

では、高齢者の適切な体重はどのように判断すればよいのでしょうか。

最も重要なのは、体重やBMIの数値だけでなく、以下の3つの要素を総合的に評価することです。

1. 日常生活の動作の状態:階段の上り下りや立ち座りがスムーズにできるか

2. 筋力の状態:握力や歩行速度

3. 生活習慣病のリスク:血圧、血糖値、コレステロール値など

これらの要素を踏まえた上で、必要に応じて専門家に相談しながら、個人に適した目標体重を設定することが推奨されます。

加齢による体組成の変化と肥満の関係

年を重ねると、体の中身は大きく変化していきます。

この変化を理解することは、なぜ高齢者の肥満対策が若い世代と異なるのかを知る重要な手がかりとなります。

最も大きな変化は、基礎代謝の低下です。基礎代謝とは、心臓を動かしたり、体温を保ったりするなど、生きていくために必要な最低限のエネルギー消費量のことです。40歳を過ぎると、この基礎代謝は毎年約1%ずつ低下していきます。つまり、同じ量の食事をしていても、若い頃より太りやすくなるのです。

また、加齢に伴い、筋肉は徐々に減少していきます。40歳以降、筋肉量は年に約0.5%ずつ減少し、80歳までには20歳の時点と比べて30~40%も減ってしまいます。この筋肉の減少は、さらなる基礎代謝の低下を招き、体重増加の要因となります。

特に注意が必要なのは、見た目では分かりにくい内臓脂肪の蓄積です。内臓脂肪とは、おなかの中の内臓の周りにつく脂肪のことで、皮下脂肪(皮膚の下につく脂肪)と比べて生活習慣病のリスクを高めやすい特徴があります。

サルコペニア肥満に要注意

高齢者の肥満で特に気をつけなければならないのが、サルコペニア肥満(筋肉量が減少した状態で脂肪が蓄積している状態)です。

これは、見た目は普通、もしくは少し太り気味に見えても、実は筋肉が著しく減少している状態を指します。

サルコペニア肥満は、単なる肥満や単なる筋肉減少よりも深刻な問題をもたらす可能性があります。

例えば、

・転倒や骨折のリスクが高まる

・日常生活動作が困難になりやすい

・生活習慣病になりやすい

・要介護状態になるリスクが増加する

このような状態を予防・改善するためには、体重の減少だけを目指すのではなく、筋肉量を維持・増加させながら、過剰な脂肪を減らしていく必要があります。そのためには、適切な運動と栄養摂取の両方が重要になってきます。

では、日常生活の中でサルコペニア肥満の兆候をどのように見分ければよいのでしょうか。以下のような変化がみられたら要注意です。

階段の上り下りが以前より困難になった
少し歩いただけで疲れやすくなった
椅子からの立ち上がりがつらくなった
手すりにつかまりたくなることが増えた
疲れやすくなった

これらの症状に心当たりがある場合は、かかりつけ医やもよりの包括支援センターに相談することをお勧めします。専門家による適切な評価と指導を受けることで、効果的な対策を立てることができます。

高齢者の肥満がもたらす健康リスクと予防法

ここまで高齢者の体の特徴について見てきましたが、では実際に肥満によってどのような問題が起こるのでしょうか。また、それらの問題をどのように予防できるのでしょうか。

高齢者特有の肥満合併症を知ろう

高齢者の肥満は、若い世代とは異なる健康上の問題を引き起こす可能性があります。

まず問題となるのが、生活の質の低下です。体重過多により膝や腰に負担がかかり、歩行が困難になったり、痛みのために外出を控えるようになったりします。すると、さらに運動不足となって体重が増加するという悪循環に陥りやすくなります。

次に気をつけたいのが、生活習慣病の悪化です。糖尿病や高血圧、脂質異常症などの病気は、肥満によって症状が悪化しやすくなります。特に注意が必要なのは、これらの病気の多くが自覚症状に乏しいことです。定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期対応が可能となります。

また、睡眠時無呼吸症候群も見逃せない問題です。肥満により首周りや内臓周りの脂肪が増えると、睡眠中に呼吸が止まってしまう症状が起こりやすくなります。その結果、日中の眠気や疲労感が強くなり、活動量がさらに低下してしまいます。

転倒・骨折のリスクを知り、予防しよう

高齢者の肥満で特に注意が必要なのが、転倒と骨折のリスクです。肥満により重心が前に移動することで、バランスを崩しやすくなります。また、過剰な体重が関節に負担をかけ、反射的な動きが遅くなることで、転倒の危険性が高まります。

国立長寿医療研究センターの調査によると、肥満の高齢者は標準体重の方と比べて、転倒リスクが約1.5倍に上昇するとされています。さらに、転倒による骨折は寝たきりの原因となる可能性があり、要介護状態につながる重大な問題となります。

では、どのように予防すればよいのでしょうか。

まず重要なのが、住環境の整備です。特に浴室やトイレ、階段など、転倒しやすい場所には手すりを設置することをお勧めします。また、床の段差を無くしたり、滑り止めマットを使用したりすることも効果的です。

次に大切なのが、バランス能力の維持・向上です。簡単なバランス運動を毎日の生活に取り入れることで、転倒予防につながります。例えば、テレビを見ながらの足踏み運動や、椅子につかまっての片足立ちなど、無理のない範囲で始められる運動から取り入れていきましょう。

フレイル予防と肥満の関係を理解しよう

[フレイル](虚弱)という言葉をご存知でしょうか。これは、加齢により心身の活力が低下した状態を指します。実は、高齢者の肥満はこのフレイルのリスクを高めることが分かっています。

フレイルは、「社会的フレイル」「精神的フレイル」「身体的フレイル」の3つの側面があります。

具体的に見ていきましょう。

「社会的フレイル」は、外出の機会が減ったり、人との交流が少なくなったりする状態を指します。肥満により移動が困難になると、外出を控えがちになり、この社会的フレイルのリスクが高まります。

「精神的フレイル」は、意欲の低下やうつ傾向などの精神面の脆弱化を指します。肥満により体を動かすことが億劫になると、活動意欲が低下し、さらに運動不足が進むという悪循環に陥りやすくなります。

「身体的フレイル」は、筋力や体力の低下を指します。高齢者の肥満は、過剰な体重により関節への負担が増加し、歩行や立ち座りなどの基本的な動作が困難になります。その結果、さらなる運動不足を招き、筋力低下が加速するのです。

介護現場で実践できる高齢者の肥満対策

これまで見てきた問題に対して、具体的にどのような対策が効果的なのでしょうか。ここからは、介護する側とされる側の両方に無理のない、実践的な対策方法をご紹介します。

高齢者に安全な運動療法を知ろう

高齢者の運動には、若い世代とは異なる注意点があります。激しい運動や無理な減量は、かえって健康を損なう可能性があるためです。では、どのような運動が効果的なのでしょうか。

最も推奨されているのが、ウォーキングです。ただし、いきなり長時間歩くのではなく、まずは5分から始めて、徐々に時間を延ばしていくことが大切です。目安としては、「ややきつい」と感じる程度の運動強度で、1日合計20~30分を目指します。もし一度に20分歩くのが難しい場合は、5分ずつ4回に分けても効果があります。

次におすすめなのが、椅子を使った運動です。椅子に座った状態での足の上げ下げや、ゆっくりとした立ち座り運動は、下半身の筋力維持に効果的です。これらの運動は転倒のリスクが低く、室内でも安全に行えるという利点があります。

なお、運動を始める際には以下に注意するようにしましょう。

主治医に相談してから始めること
運動前後はしっかりと水分補給を行うこと
気温が高い日には無理をしないこと
体調が悪い場合は休むこと
急な動作を避けること

栄養バランスを考えた食事のコツ

高齢者の食事管理で最も避けたいのが、極端な食事制限です。必要な栄養が不足すると、かえって筋力低下や体調不良を招く可能性があります。

では、どのような食事が望ましいのでしょうか。

キーワードは「ゆっくり」と「バランス」です。

一日三食、規則正しく食事を取ることが基本となります。特に朝食は、一日のリズムを整える上で重要です。食事の際は、よく噛んでゆっくり食べることを心がけましょう。

また、たんぱく質をしっかり摂ることも大切です。高齢者は若い世代より多めのたんぱく質摂取が推奨されており、目安は体重1kgあたり1.2~1.5gです。例えば体重50kgの方なら、1日60~75gのたんぱく質摂取が望ましいとされています。

継続できる生活習慣の作り方

健康的な生活習慣を続けるには、無理のない目標設定が重要です。「明日から完璧に」と考えるのではなく、できることから少しずつ始めていきましょう。

例えば、まずは「毎食後に3分間歩く」という小さな目標から始めてみてはいかがでしょうか。これなら負担も少なく、継続しやすいはずです。目標を達成できたら、少しずつ時間を延ばしていけばよいのです。

また、家族や介護者の支援も重要です。ただし、過度な干渉は逆効果になる可能性があります。本人の意思を尊重しながら、できたことを一緒に喜び、できないことは一緒に代替案を考えるという姿勢が大切です。

生活習慣の改善は、決して一人で抱え込む必要はありません。かかりつけ医や介護支援専門員、理学療法士など、専門家に相談することをお勧めします。それぞれの専門家が持つ知識や経験を活かし、その方に合った対策を一緒に考えていくことができます。

まとめ:高齢者の肥満対策は、ゆっくりと無理なく

高齢者の肥満は、若い世代とは異なるアプローチが必要です。特に重要なのは、急激な体重減少を目指すのではなく、筋力を維持しながら健康的な体づくりを行うことです。

そのためには、以下の3つのポイントを意識しましょう。

第一に、体重計の数値だけにとらわれないことです。高齢者の場合、少し肥満気味でも筋肉量が保たれていれば、それほど心配する必要はありません。むしろ、急激な減量により体力が低下することの方が危険です。

第二に、日常生活の中で少しずつ活動量を増やすことです。特別な運動をするのではなく、例えば「テレビを見ながらの足踏み運動」や「食後の短時間散歩」など、無理なく続けられる活動を見つけることが大切です。

第三に、栄養バランスの良い食事を心がけることです。極端な食事制限は避け、特にたんぱく質は意識して摂取するようにしましょう。

もし体重管理に不安を感じたら、一人で抱え込まず、かかりつけ医や介護の専門家に相談することをお勧めします。年齢とともに変化する体と上手に付き合いながら、いきいきとした生活を送れるよう、できることから少しずつ始めていきましょう。

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