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【特集】「地方の人たちが生き生きと活躍する環境づくりを」三条市経済ビジョン策定に尽力し、人事・人材組織開発のプロとして企業や自治体に数多く携わる柏崎亮太氏の想いとは

にいがた経済新聞

「経営戦略なき人材施策は焼け石に水」———。人口9万人の新潟県三条市で、人事・人材組織開発のプロが地域の活性化に挑む。

大手企業で培った手法を自治体に応用し、独自の経済ビジョンを描き出す支援をした柏崎亮太氏に地域共創の処方箋を聞いた。

人事・人材組織開発のプロフェッショナルとして三条市に尽力

2022年7月市長記者会見時、オンライン越しにグータッチをする三条市の滝沢亮市長(左)と柏崎亮太氏(三条市提供)

2022年、「ものづくりのまち」三条市は、産業・学校・行政が協力する「三条市未来経済協創タスクフォース(以下タスクフォース)」を始動。タスクフォースでは、まちの持続的な発展を目指すためのビジョンや戦略を策定する。

さらに、このタスクフォースで描かれるビジョンを実現し、持続可能なものとする上で必要な「人材」を確保するために、内部組織として「雇用競争力強化ワーキンググループ」を設立した。同グループの役割は、人材確保に関する重要な方策を中心に議論するもの。

柏崎氏は三条市労働環境改善・雇用競争力強化コンサルタントとして業務を受託。当初は「雇用競争力強化ワーキンググループ」の支援のみの受託だったが、オブザーブとして入ったタスクフォースについての会議でもファシリテーションを務めるなど、三条市との関わりが深くなっていった。

2024年11月11日に第1回目のスタートを切った「三条みらい人材会議」もそのひとつで、地域の経済ビジョンから人材の雇用課題解決の施策を作り上げている最中だ。

また、柏崎氏は社員規模10万人を超えるNECや富士通グループに所属し、コンサルティング部門の立ち上げにも関わってきた。個人として、各都道府県や市町村などの自治体の人材開発プロジェクトにも数多く参画し、これらの業務経験により得た知見が、三条市の取組・検討プロセスに活かされているという。

「地域を活性化したい」想いの根幹にあるもの

北上川ゴムボート川下り大会(岩手県公式観光サイト:いわての旅より)

学生のころから地域の活性化に関心があった柏崎氏は、新卒で株式会社ベネッセコーポレーションに入社。様々な選択肢のなか、自身の専攻でもある「教育」の分野に目を向けた。ベネッセコーポレーションなら全国規模の会社の力を活かし、地方の教育水準の向上や活性化につながる仕事ができると考えたからだ。

柏崎氏から返ってくる答えと行動の根底には「地方の力になりたい」という想いが見える。その想いの源泉について尋ねてみた。

「きっかけとして、3つ思い当たることがあります。1つは小学生の頃から続けるサッカーや陸上競技で県や東北の選抜に選ばれたことです。2つ目は小学生のとき、長野オリンピック候補地の旭川市と盛岡市、長野市の子どもたちが集う“長野オリンピック少年少女友の会”という企画に参加したこと。3つ目は大学生の頃に地元で経験した教育実習です」

柏崎氏は、大会で地元・岩手の看板を背負っていると誇らしく感じたことや、育った地域の異なる子ども同士で自作の名刺を持ち寄って交流し、そこで得た課題や学びを地元に戻って発表する体験をたのしいと思えたことが原体験になっているのではないか、と話す。

教育実習では実際に教壇に立った実体験から「生徒の学習習慣は、家庭環境や地域経済と深いつながりがあるのかも知れない」と課題意識を持つようになったのだという。

左:高校生の頃、陸上競技で国民体育大会に出場。県名の入ったユニフォームに袖を通した
右:オリンピック少年少女友の会で他自治体と交流。左から3人目が若かりし柏崎氏

商品提案型から真の課題解決型へ

ベネッセに入社後は、コンサルティングセールスを担当。課題解決のソリューションとして、進研模試などのテストや教材を学校や官公庁向けに提案する仕事だ。1つの案件でも発注の単位数が多く、他社に乗り換えるとなれば一発で数百万をロストする厳しい世界だったという。

柏崎氏は東北支社に所属し、宮城県や山形県の担当として様々な学校や自治体を回った。新潟県では高校進路指導教員が集まる研究会に参加したこともある。今でこそデータに基づいた経営(データドリブン経営)や政策立案(EBPM:Evidence-Based_Policy Making:エビデンスに基づく政策立案)の重要性は広く知られているが、柏崎氏はキャリアの一歩目から日々データと向き合い、統計的な手法に基づいて分析し、示唆を導出することを徹底的に鍛えられてきた。

例えば、学校・県・地域・国といった単位で人口動態や学力・学習習慣などの分析を行い、地域性なども踏まえ、その学校や地域全体の学力向上や生徒の希望進路の実現につながる施策を考えて提案。柏崎氏が主導した研究会が文科省に注目され先進事例となったこともあった。個人の成長に目を向けることに加えて、自治体や国といった視座で思考することも自然と身に着けていったそうだ。

功績が認められて本社に異動してからは、文科省の全国調査委託事業や海外進出プロジェクトのリーダーを任されるなど、コンサルティングセールス時代から培った分析力と提案力を武器に会社に貢献していく。———ある時、会社肝入りの施策が始まり、柏崎氏も注力した。結果として仕事は上手くいき社長賞まで受賞した一方で、本人の心には違和感が残った。

「当たり前のことなんですが、僕たちがお客様に提案できる商品は決まっていますよね。最初はお客様の課題をヒアリングし、自社の商品をもって課題解決につなげていくのもやりがいがあったのですが、だんだんと本当の課題は別のところにあるんじゃないかと考えるようになりました。フロムスクラッチともいいますが、1件1件のお客様の状況に合わせてゼロから課題解決に取り組む力を身につけたいと強く思うようになり、課題解決型のコンサルティングを始めました」

多様な組織での経験を活かした課題解決

その後は米系コンサルティングファームのコーン・フェリー・ジャパンで人事組織コンサルタントとしての活動を開始。同社はコンピテンシーやEQ(Emotional Intelligence Quotient:感情知能)、ジョブ型人事制度の源流となる「職務評価」の概念を世に送り出したファームで、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどの外資系戦略コンサルティングファーム出身のコンサルタントたちと協業する環境に身を置いた。人事制度の設計から組織の風土改革支援、個人へのインタビューを通じたコンピテンシー評価やフィードバックを通じた成長支援など、幅広いプロジェクトに携わってきた。

その後に所属したNECや富士通グループの総合コンサルティングファームでは、コンサルティング部門の立ち上げや人材組織変革プラクティスの立ち上げに関わり、人事・人材組織開発の仕事を数多く進めてきたという。

様々な立場からコンサルティングサービスを一から立ち上げてきた経験は、柏崎企画としての活動を進める上でも大いに役立っている。プロジェクトの成功事例を積み上げ、そこで培ったノウハウを他の案件での課題解決の参考にして、さらに効果的な支援につなげることも試みているという。

「自治体の案件は目的によってスポットで飛び込んでいくものもあれば、三条市のように7年間以上のお付き合いになる予定のものまであります。学校関係ではカリキュラムのアドバイザーとして携わったり、先生方向けの研修を行ったりするなど、教育分野のバックグラウンドも生きていると感じます」

地域も企業も同じ、認識を揃えないと“焼け石に水”になってしまう

2024年12月16日三条みらい人材会議に登壇した柏崎氏

三条市は人口約9万人、NECや富士通は10万人規模の社員を抱える企業グループ。自治体には老若男女すべての市民がおり、企業に所属するのは現役世代が大部分。その成り立ちや存在意義はまったく異なるが、一歩引いて抽象化したときに似通った部分があるように見えてきたと柏崎氏は語る。これまで様々な事例に携わってきた柏崎氏の視点からみた共通の課題を尋ねた。

向かうべき方向を決めるという点に尽きます。関係する皆様の認識を揃えると言い換えても良いですが、そこから人材の施策を検討しはじめることが大切だと感じるようになってきました。これは“経営戦略と人材戦略の一本化”とも言われます。たとえばNECなら“メーカーからコンサルティングサービスも提供できる会社になる”といった方向性があります。コンサルティング業務のために新しく人を雇うこともあれば、既存の営業担当者やSEの方たちに対し研修などを通してコンスタントにリスキリング(再教育)したり、仕事の仕方、思考や行動様式を変えたりすることも必要になるかもしれません。経営視点では、対外的な説明が確からしければ外部ステークホルダーからの期待として、投資を受けることにもつながります」

現場目線では当然、「今までのやり方を変える必要があるのか」という声も上がるだろう。しかし、明確な目標・方向性があるからこそ組織は必要な変革を選択できる。目指す姿を決めることが、あらゆる意思決定の土台となるのだ。

これは自治体にとっても同じで、柏崎氏は行く先々で「セミナーを数多くやっているけれど参加者が集まらない」、「イベントをしているが実は予算消化のためだけで成果に結びついていない」という声を聞いてきた。まさに方向性がないまま施策やイベントだけを繰り返してしまい、“焼け石に水”になっている事例といえる。外部人材として一歩引いた視点で見たときに、目指す姿に紐づかない打ち手ありきの議論や施策になっていることが実に多いと柏崎氏は感じているという。

「外からもわかるようなまちのブランドをもっている地域ってありますよね。たとえば千葉県流山市は、近年教育に力を入れているまちだよねとか、軽井沢町っていうと避暑地で富裕層が多く移住しているところだよねとか。すべての自治体が小さな東京になる必要はありません。まずは、その地域らしい目指す姿を明確にすることが重要です」

三条市は『よくつくる、よくいきる』を経済ビジョンとして掲げている。目指すまちの姿があるから、残すべきいい部分と新たにチャレンジしていく部分がはっきり見えてくる。

「三条市の場合は経済ビジョンについて熟議を尽くした上でカンファレンスなどを通じて市民の皆様にお伝えしてきました。その上で、今回の『みらい人材会議』の取組につなげ、多くの市民の声をもとにまちの目指す姿を話し合っています。もちろん、状況に応じた適切な軌道修正は必要ですが、本当に誠実で芯の通った進め方をしていると感じます」

三条市の魅力とこれからの関わり

冬の三条市(五十嵐川)

柏崎氏にとって、三条市はどのように映っているのか。同市の魅力について尋ねると、間を置くことなく答えが返ってきた。

「“人”がいいですね。これまで3年間三条市に関わってきて、本当に人によくしていただきました。熱い人が多くて、そして頑固な人も多い。一見この言葉はネガティブに映りますが、その妥協しない姿勢や芯の部分が、提供される商品やサービスに反映されていると感じます。これはものづくりに関わらず、ソフトサービスや飲食も含め、すべてに影響しているんじゃないかなと」

タスクフォースは6年間。ちょうど来年で3年目となり、前期の総括のタイミングを迎える。そこから後期の3年間に入り、柏崎氏は引き続き外部人材として関わりながら、三条市経済ビジョンである『よくつくる、よくいきる』に紐づいた戦略を進めていくという。

「自治体がこの規模で人材・組織の取り組みを行うのは全国にも本当に類を見ないと思うんです。ここに関われるのは嬉しいし、勉強になります」

「今一番の悩みはホテルのポイントカードを作るかどうか」と真面目な顔で語るユニークな柏崎氏

人口減少に歯止めがきかず、一企業の努力では人材課題の根本的解決が難しい今の時代。自治体として動き出した三条市の取り組みが、県内外の他自治体にも波及していくことを期待する。

長い目で『よくつくる、よくいきる』まちになっていくことを期待しつつ、人事・人材組織開発のプロフェッショナルである柏崎氏が、今後どのように手腕を発揮していくのか、引き続き注目していきたい。

【柏崎企画】
代表 柏崎亮太
事業内容:人事・人材組織開発コンサルティング
問い合わせ先:kashiwazaki@Kashiwazaki-Planning.com

【関連リンク】
柏崎企画
三条市経済ビジョン
三条みらい人材会議

(インタビュー・文・写真 井高あゆみ)

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