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「すぐ決まる企画」の共通点。『極悪女王』『サンクチュアリ』などの作品に共通していた、ひとつの大きな基準とは?Netflixジャパン 坂本和隆×ほぼ日 糸井重里 対談

ほぼ日

先日、糸井重里は、六本木にあるNetflixのオフィスを訪れました。「Netflixの坂本さん」に、会うために。ご存知ですか、「Netflixの坂本さん」。『全裸監督』、『今際の国のアリス』、『First Love 初恋』、『サンクチュアリ-聖域-』をはじめ、数々の「Netflixオリジナル実写作品」を企画し、世界的なヒットに導いてきた、日本コンテンツ部門のトップ。それが、Netflixの坂本和隆さんです。糸井は、『サンクチュアリ-聖域-』の江口カン監督など、たくさんの方が「Netflixの坂本さんが進めてくれたいい仕事」について話すのを聞いていて、ずっと、「その人に会って、話を聴いてみたい」と思っていたのです。「日本のNetflix」というチームは、どうして一緒に仕事をした人たちから信頼されるのか。「コンテンツを生む」ことを生業とするふたりの対談は、互いに何度も頷きあうように進んでいきました。第6回です。

糸井
先ほど坂本さんがおっしゃった、人が持ってきたイマイチな企画に「でも、作っていく過程で化けるかもしれないし」と想像をはたらかせるというのは、言ってみれば「ブリコラージュのおもしろさ」ですよね。
「ゾウの糞で困った地域の人が、糞から紙をつくっちゃった」みたいな、そういうおもしろさを信じてるからこそ、「自分がわかんないだけで、いいアイデアかもしれない」と悩むんでしょうね。

坂本
そうかもしれません。僕個人としては、「クリエイティブの本質」というのは、まさにその部分にあると思っているので。「考えた通りのものが生まれていく」んじゃなくて、「つくっていくなかで生まれていく」んだよなと。

糸井
「やってよかったね」とか「こういう副産物があったね」とか、そういう「思いもしなかったもの」を、ひっきりなしに見つけたいんですよね。だからNetflixの編成は予測できないものになっていくわけで。
そうやってあれこれ悩んだ結果、今の坂本さんは、最終的にどうやって判断をしているんですか。

坂本
そうですね‥‥。自分の根底をたどってみると、やっぱり自分の決め手は「人」になってる気がします。

糸井
「人」か。

坂本
はい。「企画は正直わからないけど、あなたが言うならきっとなんかあるんでしょう」っていう。自分は直感型の人間といいますか、書面やデータで判断できないことはあると思っている人間なので。
さきほど糸井さんがされた「一生懸命な目をしている人」のお話じゃないですけど、採用をして、その人の人生を預かって一緒にやってる以上、「この人が言うなら、もういいんじゃないか」という、そういう腹のくくり方がいまは大きいかもしれないです。

糸井
「直感的な人間」とおっしゃいましたけど、一応、データみたいなものも参考にはされるんですか。この人は、こういう方向でこういう実績があるんだな、とか。

坂本
いや、あの‥‥これ、あんまり大きい声で言えないんですけど。

糸井
はい。

坂本
僕、データはほとんど見てないんですよ。

糸井
大きい声では言えない(笑)。

坂本
たぶん、チームでも一番見てないと思います(笑)。人の企画をジャッジするときだけじゃなく、自分がやったプロジェクトについてもほとんど見てません。見てなさすぎて、ときどき「あれ、どうなってる?」とか人に聞くくらいで、具体的な数字というよりも、実際に伝わってくる声や温度だったり、そういったものを会話でつかみながらやっていて。Netflix自体はすごくデータを重んじる会社ではあるんですけど、あくまでそれぞれの采配の中で使うものなので、自分自身はほとんどそこは触れてないんですよね。
データに重きを置いてしまうと、「目指していることとは違う方向」に思考が行っちゃう感覚があるというか、そこで測れないものってすごくありますし、それこそ企画を立てるときも、「邪魔」になっちゃうこともあるので。

糸井
そうなるとたぶん、まわりの人のほうから、「これ、坂本さんが知ってたほうがいいな」っていうデータを教えてくれるでしょ。

坂本
そうですね。

糸井
じつはそれ、僕もそうなんです。教えたい人が「教えたほうがいい」と思ったものに対して「俺にデータを言うな!」とかはもちろん言わないですけど、そのなかにはやっぱり「知らないほうがいいデータ」が混じってることもあるので、そういうときは我慢して横目で見る、みたいな。
「教養の1つ」として知っておこうとは思うんですけどね。絵画を見るときの「『消失点』ってものが必ずあるんだよ」みたいなものは、破るにせよ、知ってたほうがいいと思うんで。でもそれを実際に自分が使うかどうかは、また別の話で、基本的には、「ここは人に甘えていい」と僕は思っています。

坂本
ああ、同じような感覚かもしれないです。

糸井
いろんな人が企画案を持ってくると1人で見られる限度があると思うんですけど、坂本さんが直感で「あ、これはいい」と感じる企画って、共通するものはあるんですか。データでも人でも判断する必要がない、即決で「いこう」と思える企画。

坂本
判断に迷わないのは、明らかに「これはまだやってない」と思えるものですね。
『極悪女王』も1時間ぐらいで「ダンプ松本、いきましょう」ってとこまで進みましたし、『サンクチュアリ』も江口監督と脚本家と話す中で、同じく1時間ぐらいの会議で「相撲、いこうよ」と決まったんですね。このあたりの作品に共通していたのはやっぱり、単純な「コンテンツとしてのおもしろさ」に留まらない、「挑戦としてのおもしろさ」が明確に見えていたことで。そこは1つ、大きな基準かもしれないですね。

糸井
あの、今、『サンクチュアリ』について「相撲いこうよ」っていう言い方をしましたけど、あの作品って、「相撲だからいい」という作品ではないじゃないですか。

坂本
あっ、おっしゃる通りですね、はい。

糸井
もちろん「相撲もの」とは言えるけど、「不良もの」でもあるし。あの、監督の江口カンさんって、『サンクチュアリ』の前に競輪をテーマにした作品を作ってますよね。

坂本
『ガチ星』、はい。

糸井
『サンクチュアリ』の話が出たとき、坂本さんはあの作品のことは、頭にあったわけですか。

坂本
もちろんです。むしろ、『ガチ星』を観て、江口さんと「ぜひちょっとお話しましませんか」という流れになりまして。
不倫やギャンブルに溺れる四十路のダメ男が競輪に再起をかけるという、ああいった作品をつくられたチームだからこそ、「同じアンダードッグのストーリーを違う世界でやったらどうなっていくのか」を、僕はすごく観てみたいと思ったんですね。
それで、ブレストをしているなかで、脚本家の方からポンと「相撲」というキーワードが出て。僕自身はとくに相撲ファンではなかったんですけど、相撲業界の問題がいろいろと話題になってる時期でもあったから、ベールに包まれたこの世界の裏側をしっかり描けば、きっと多くの人に興味を持ってもらえると。そこで、「相撲、いこうよ」と決めた流れでした。「江口監督が描く相撲界のアンダードッグストーリー」、これはきっとおもしろい挑戦になるぞと。そこもやっぱり、データではなく、直感的な判断で。

糸井
データ上は江口さんって、CMとかもやってこられて、カンヌ国際広告祭を受賞されたりしてる方なわけで、「とっても親切なものをつくるいい監督」みたいなことにもなっちゃいそうなのに、『サンクチュアリ』の冒頭の、あの衝撃的な「稽古場のシーン」みたいな、悪辣な、根性のすわったことをやる人だっていうのは、データからはわかんないですよね。あれは、データじゃないところで江口さんを信じたからこそ生まれた「つかみ」でしたよね。

坂本
はい、本当に。あのシーンもそれこそ、最初から脚本の中にはあったものの、実際に撮影を進めていくなかで「もっと短くすべきじゃないか」とか「こういう音楽のほうがいいんじゃないか」とか、裏側ではかなり議論を重ねたシーンだったんですけど。そこでもやっぱり、江口監督の根本にある「おもしろさ」を信じてつくっていったことで、どんどん想像を超えていけたところがあったと思います。

坂本和隆(さかもと・かずたか)さんのプロフィール
坂本 和隆 (Kaata SAKAMOTO):1982年9月15日生 / 東京都出身Netflix コンテンツ部門 バイス・プレジデントNetflixの東京オフィスを拠点に、日本発の実写とアニメ作品のコンテンツ制作及び、ビジネス全般を統括。日本における最初の作品クリエイティブ担当として2015年に入社後、Netflixシリーズ「今際の国のアリス」「First Love 初恋」「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」など、多くの実写作品を担当。「Devilman Crybaby」「リラックマとカオルさん」「アグレッシブ烈子」などの幅広いアニメ作品も仕掛け、日本市場におけるNetflixの作品群拡大に貢献。2021年6月より現職。

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